守ってあげたい 43話











明けない夜は無い。

どこかで聞いた陳腐な言葉だけど、どんなに辛くてもどんなに悲しくても夜は明け、日は昇る。

泣いて、泣いて涙も出尽くしたと思う程泣いて、泣きながら眠りについて目が覚めた後に思った事は。


ぐぅ〜。


ここ数日まともに食べていないせいか、お腹が鳴って。


「…おなか、すいたな」


どんなに悲しくても、お腹すくんだと思うとちょっと可笑しかった。

数日振りに、ありあわせの食事を取った後に鏡を見てちょっとびっくりしてしまった。
泣いてそのまま寝てしまったせいか、髪はボサボサでありえないくらい顔が腫れてしまっていた。


「うわっ、ブサイク」


こんな顔見せたら、100年の恋も冷めそうよね。

そう思いながらも、終わった恋の相手を思うとまだ心は痛いけど、傷つけた方より傷つけられた方が辛いと思うからちゃんと前を向かなきゃ、そう思った。
流石に顔がすごい腫れているので、その日はずる休みして翌日から登校する事にした。

から大丈夫?と心配するメールが入っていたので、その日の夜に電話して事の顛末を話してみた。
ひどくびっくりして、心配されてしまったけど。

自分自身の決断で、己が招いた事なので仕方ないよって微笑うしか無いけど。
本当に心底、心配してくれていると話していて、また涙がこみあげそうになった。

電話が終わり、ふと姿見に目がいきそこにいつもと変わらない自分の姿を見てにっこりと微笑んで見る。
そこには、見慣れた自分の笑顔があってそれを見て根拠も無く大丈夫だと思う。


傷は、風にあたらないと治らない。


だから、明日から学校に行こうそう思った。
翌日、登校して何処からか知れ渡ったのか私が跡部と破局したのが広まったらしい。

好奇の目線が浴びせかけられ、あっちでヒソヒソこっちでヒソヒソとうっとおしことこの上ない。


「おはよ、

「おはよう、。もしかしなくても、昨日からこんな感じ?」

「…あっ、うーん。そうね、まぁでも人の噂も75日って言うけど、この分なら2週間もしないうちに飽きるでしょ」

「そうねぇ……」


相槌をうちつつも、こみ上げてくるため息を抑えることは出来なかった。

始業時間が近づいて、跡部が現れた。席も離れてしまって、わざわざ挨拶するのも不自然だから目を逸らすでもなく自然に目線をはずした。

むこうも話かけてくる様子も無かった。その事実がちょっぴり寂しいと思ったけど、あんな事があった後だからある意味当然だろうと思う事にした。

居心地の悪いまま一日が終わり、はデートらしいので一人トボトボと下校していると校門の所に、他校の制服を着てテニスバックを持った赤髪とわかめ頭の二人連れを発見してしまった。


うわっ……。あれって、丸井ブン太と切原赤也よね。


そういや、立海関係適当に処理してたんだっけ…。
どうするか、悩んでいると。あちらもこっちに気がついたようだった。


「あっ、先輩」

「ホントか?おーい。こっち、こっち」


思いっきり呼ばれてます。

ダッシュで逃げようかと思ったけど、あっちは現役テニス部員だし逃げ切れる訳も無いのでしぶしぶ近づいていく事にした。


「…ひ、久しぶり?」

「久しぶりじゃねェっすよ。先輩」

「ホントだぜ。あっ、髪短くなってるじゃん。俺長いの好きだったのに」


初対面の二人とどう会話したらいいか皆目検討のつかない状態で、ひたすら微笑って誤魔化すしか無い状態だけど。


「とりあえず、ここじゃ何なんだし移動しない?」


校門という目立つ場所だということと、先日の一件とで氷帝一の有名人と成り果てているので視線が突き刺さるように痛い。
なので、無難にファミレスあたりに誘ってみた。


「いいッスけど。俺ここ来るまでの電車賃で金ねぇし先輩のおごりッスよ?」

「二人とも奢るから、とりあえず移動しよう」

「ラッキー」


近くのファミレスまで、移動して好き勝手にケーキやらピザらや注文されてしまった。
黙々と食べる二人に、しょうがなくこちらから話を切り出す。


「で、切原君と丸井は何の用で来たの?」


呼び名は多分私だから、これであってるはず。内心ドキドキしながら話しかけてみる。


「何の用とかそういう問題じゃねぇだろい。俺達に何の連絡もないまま転校して、それに幸村はあんな事になっちまったし……」


何のつっこみも入らなかったので、合ってたんだとちょっとホっとした。

丸井にそう言われて、幸村が確かギランバレー症候群に似た病気で入院している事を思い出した。
ここで知っているなんて言える訳もないから、手順を踏んで話をしてみる。


「幸村どうかしたの?」

「部長は今入院してるッス」

「入院?怪我でもしたの?」

「ギランなんとかって言う病気に似た症状で、神奈川総合病院に入院してる」

「そう、なんだ」

に、会いたがってた」


そう言われても、会いたいと思ってくれている“私”と今の“私”では微妙に中身が違っているので、どう返事を返したものかとそれを考えるとため息が漏れる。


「それで、二人がここまで来た訳ね」

「どうして、俺らに黙って転校したかとか聞きたい事はいっぱいある。けど、とりあえずそれは全部後回しでいいから。幸村の病院に見舞いに行けよ」

「…………。」


ここで、昔の私と今の私が違う人間だって言えればどんなに楽だろう。そう思うけど、そんな事言える訳もなくって。

じっと私の顔を見ている切原に私はこう問いかけて見た。


「ねぇ、切原君。切原君には私はどう見える?」

「……。どうって、髪は短くなったけど。先輩は先輩ッスよ」

「…そう」


中身が変わっても、外見はそのままだから違いは無いのだろうけど。
正直、幸村を騙しきれるとは思っていない。ここに来たのが、鋭い仁王や柳とかだとたちまちバレていただろうと思う。

少し考えた後、一つ小さなため息とついて。


「わかった、今度の日曜にでも幸村を見舞いに行くわ。だけど、どうなっても責任は持てないからね」


そう言っていた。
それから二人は練習を抜け出して来ていたらしくて、切原の携帯に真田からの電話が入って慌しく帰っていった。

二人が帰った後、氷の解けたアイスティーを飲みながらどうやって切り抜けるか考えていた。
いくら考えても、いい案などすぐ思いつく訳もなかった。







その日の夜私は不思議な夢を見た。




夕暮れのコート。

一生懸命練習する部員を横目に、私は一生懸命玉拾いをしたり掃除をしたりと忙しく動いていた。
たまに手を止めて、練習に励む部員を見て私はとても幸せだった。

腕に乾いたたくさんの洗濯物を抱え、部室へと急いでいると。
落としそうになっている、洗濯物を横から支えてくれる手が伸びてくる。


『いつも、は抱えすぎだよ』

幸村、ありがと』

『いえいえ、どういたしまして。ねぇ、今日一緒に帰ろうか?』


その言葉に頷きながら、私は目の前の人の事がとても好きだ。

そう感じていた。

夕日の中、手を繋いで帰る帰り道。

繋いだ掌がとても、温かくて幸せで泣きたいくらいの思いを私は抱えていた。









 




2006.03.07UP

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