守ってあげたい 33話 跡部side













友達の復讐の為に忍足を落として振る事が目的で近づいた

まがりなりにも、二人はカレカノという設定で一緒に居るのは当たり前。腕を組んだり、手を繋いでいる姿を見るのは1度や2度では無かった。

だが、幾度その光景を見ても慣れるという訳にはいかなかった。


あれは、忍足を落とすためのの策略。何かの呪文のように、その言葉を心の中で唱えていないと暴れだしそうになる自分が居て、こんなにも真剣に誰かの事を愛したのは初めてで毎日が新鮮な驚きの日々だった。

だが、俺は気付いてしまった。

の忍足を見つめる瞳の優しさに、同情とも憐憫ともとれるまなざしをして忍足を見て微笑う姿を見て俺の中で焦りが生まれる。


――――あんな顔を俺は知らない。


偽りの関係が、まさに真実への関係へと変わろうとしている。

それは予感であり確信であった。


の横で、の微笑みをうけてじゃれあったり、ふざけあったりしてる当たり前の恋人同士の姿。

二人が、お互いの顔を見て笑いあう。

それを傍観しているしかない、第三者の自分。砂を噛む思いとはこのことだと自嘲の笑みが漏れる。

今までの女なら、簡単だった。多少、気の強い女でも最初は抗っていても愛を囁けば簡単に自分のものになった。

だが、あの””だけが自分の掌から零れ落ちるように、目の前から鮮やかに身を翻しこわく的な笑みを見せ俺以外の男の側で微笑う。


お前が、その瞳で映していいのは俺だけだ。その、やわらかい唇に触れていいのは俺だけのはずなのに、お前は何故忍足のキスを受けている?




お昼休みに俺はたまたま生徒会室に居た。

豪奢な、会長の椅子に腰掛け決済印が居る書類に目を通しながら何気なしに窓から空を眺めていると向かいの校舎の屋上の一角が目に入った。

屋上自体は立ち入り禁止にしてあるが、一部の生徒が鍵を持ち出して出入りしていることは知っていた。

男女らしい二人づれであることが見て取れて、そこで女の方の長い黒髪を見て俺は固まった。

長い髪をしている女は氷帝でも結構多いが、黒髪の長髪の女は結構限られている。目をこらしてみれば相手の男は忍足らしいことが見て取れた。

二人が、お昼休みに一緒に過ごしているらしい事は知っていた。

だから、珍しい事では無いはずだった。覗き見をしているような気分になって、ソレから意識を逸らそうとしていたが見えているのに見ないフリが出来るほど人間出来ている訳でもなく。

ましては、相手は憎からず思っている相手な訳で悪い事とは知りつつもつい二人の様子に見入っていた。

細かい表情までは分からないが、仲良く二人並んで座り時折が耳打ちをするようにふざけて耳元にささやきかけるのを忍足が微笑んで聞いている。そんな様子で何処から見ても恋人同士にしか見えないその様子に嫉妬で胸が焼ききれそうになる。


グシャリ


つい手元に力が入ったようで、手元の書類がぐしゃぐしゃになっていた。

それを机の上に放り投げて、もう一度屋上に視線をやると。

忍足がゆっくりとへと、顔を近づけていくところだった。


もしかしなくても、キス。しようとしているとしか思えなくて、固唾を呑んでそれを見ているしかなかった。


振り払うでもなく、避けるでもなくは忍足からのキスを受け入れていた。

遠く離れた場所からも、忍足の背に回るの腕がはっきりと見えた。

抱きあう、一組の恋人達。それ以外の何者でもない二人。


グっと掌を握り締める。自分の爪で、自分の皮膚を傷つけるほどに硬く結ばれた拳。

傍観者で居ることしか出来ない、今の現状にイラだちながらも俺はどうする事も出来なかった。


にそれを問いかけて、肯定されるのが恐かった。

忍足へと傾いていくの心を感じ取っていたから尚更、何も言えなかった。


煮え切らない状況。

だがそれを打開する勇気を持てないで居る自分。

そのすべてに苛立ちながらも、を思えば思うほどに身動きが取れなくなっていく。
自分には縁の無かった女と割り切ることが出来れば簡単なのに、どうしても目線が吸い寄せられるように何処の場所でもを探してしまう。

愛する女を見つけて、ホっとする自分が居る。
だが、自分に対してではない微笑を浮かべているのを見て何とも言えない気分になる。

毎日がその繰り返しだった。










その日も、昼休みに溜まった事務処理をするべく生徒会室に居た。ある程度目処がつき、予鈴が鳴ったのを確認して自分のクラスに戻ろうとして階段を下りていると、忍足が駆け下りてきた。

常に無い憔悴した様子で、駆け下りていこうとしているのを反射的に呼び止めていた。


「おい、忍足」

「ッ…跡部か」

「どうした。と何かあったか?」


俺がそう問いかけたのは他意は無かった。昼休みに二人が一緒に居るのは当たり前になっていたから、だから忍足の様子がおかしいのはがらみそうとしか思えなかった。


「…ハッ、そうか分かったで跡部、お前知っとったな?」

「何のことだ?」

「とぼけんで、ええわ。おかしいと思うたんや、あこそまでの事こだわっとったお前が何も言わずただ見よるだけやんてな。お前、が何の目的で俺に近づいたんか知っとったんやろ?」

「知っていた。と言うより、俺を騙すお前達の不自然さに、気付いただけだ。ずっとを見ていた俺だから、お前達の偽者の関係に気付くのは早かった。その上で、を問い詰めただけだ」

「それで、お前は高見の見物決めこんどった訳か?」


忍足のその言葉に、カッと血の気が上るのが分かるくらいに瞬間的に激昂した。

好きで、見ていた訳じゃない。出来るなら、お前の前で微笑むを連れ出して俺のモノにしたい。俺だけの為に微笑ませたい。

高見の見物などではない、俺は見ている事しか出来なかったのだ。

この時の俺の感情は、目の前の何も知らない男を傷つけたい。その思いだけだった。
と何があったかは、推測することが出来た。どうせ被害者意識の塊になって、の言葉も聞かずに出てきただろう事は容易に想像が出来た。

俺ではなく、目の前の男――忍足侑士の事をが誰よりも好いていることも俺は知っていた。
だから、俺は。


「高見の見物?ああ、そうかもしれねぇな。が、お前を落として振るのが目的だって言ってたからな」


そう言って、小バカにしたように笑ってやった。
俺の言葉を聞いて、常に無いほどの衝撃を受けた様子の忍足の姿を見て溜飲をさげることが出来た。


「そうか……。そうやったんか……。ははははっ、ならのその復讐は達成された訳やな。まるでピエロやな、予定通り好きになってそして予定通り、振られた訳やから」


予定通りじゃねえだろ?俺はそう問いかけたかった。だが、の思いを知っていても俺はそれを口に出すほど優しくはない。

ここで、忍足との関係が壊れたらもしかしたら自分にもチャンスが回ってくるかもしれない。
さもしいと言われてもかまわない。誰にどう思われようが、どうでも良かった。

綺麗な方法で無くてもいい。お前が手に入るなら俺は何でするだろう。


フラフラと去っていく忍足の後姿を見送りながら、俺はと忍足との関係が完全に壊れることを願っていた。







 




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