守ってあげたい 31話











音楽室に着くとそこには、鳳が既に来て待っていた。


「ごめん。待たせちゃった?」

「いえ。大丈夫です」


どこか緊張した面持ちの鳳の様子に幾ばくかの不安を覚えながらも、いつかのように鳳の隣へ腰掛けた。


「すいません。急にメールしちゃって」

「ううん。いいよ別に、それより結論が出たって何の事?」

「はい。さんへの気持ちを俺なりに、色々考えてみたんですがどう考えても貴方への気持ちを忘れることや、諦める事なんて出来そうに無いです」

「……。そ、うなんだ」


まさか、今更ながらに告白されるだなんて思っても見なかった。何処か晴れ晴れとした表情の鳳を見て、この子はこの子なりに苦しんで出した結果だということが分かった。


「別に、受け入れてもらおうとか付き合いたいっていうんじゃありません。そりゃ、出来れば両思いになってとかいう気持ちはありますけど。たとえこの気持ちが、さんにとって重荷になるとしても、この思いを封じ込める事なんて出来ません」


だから、好きでいさせて下さい。そう続けられてしまって、瞬間言葉を失ってしまった。

違うのに、鳳が好きになった私と目の前に居る私と中身が違うのに……。

そう思っても、具体的に説明できるわけじゃないし黙り込んでしまった私をどう思ったのか。


「すいません。困られせるのは分かってたのですが……」

「ううん。違う…のに………。」

「違うとは、何がですか?」

「え?あっ、何でも無い。でも、今は駄目なの。本当に忍足と付き合っているから……」

「本当に付き合っているって、じゃあ前は付き合っていなかったのですが?」

「あっ……。」


動揺するあまり、失言してしまったようで……。ここで、適当に誤魔化す事も出来るけど。

まっすぐな思いをぶつけてくる、鳳にこれ以上の嘘を重ねる事は出来なくて、正直に全て話す事にした。


「表向きは、跡部避けの為にという事にして。忍足のある弱みを握って、カレカノのフリをしてもらう事にしてたの」

「フリとは、じゃああの時俺に忍足さんと付き合っていると言ったのは嘘だったんですか?」

「ごめん。正直、あの時誰とも付き合うつもりは無かったの。好きって言われると、答えを出さないといけないでしょ?誰も傷つけたくなかったから、あんな風にしか言えなかった」

さんは残酷です。それに、表向きってどういう意味ですか?」


怖いくらいまっすぐな瞳で見つめられる。


「本当の目的は別にあったの、私の友達を傷つけた忍足に復讐する為にそう言って近づいたの」


でも、本当に忍足の事好きになっちゃった。と、そう続けようとした時に、突然ガチャリと扉が開いた。

反射的に振り返ると、そこには傷ついた瞳をした忍足が居た。


「…お、したり……」


自分の声が擦れているのが分かった。














忍足side


と両思いになって、こんなに幸せなことは今まで無かったと思うほど、幸せでふわふわと地に足がつかないとはこのことだと思いながらも、初めて味あう幸福感に俺は酔っていた。

だから、自分と一緒に居るのにたまに暗い瞳をするを不審に思いながらもそれ以上追求もせずに居た。

いずれ、時が来たらきちんと話してくれるはずだと思っていた。

時限休みに、帰りの約束を取り付けて俺はほくほくやった。

昼休みは別々に取る事になっていたが、予想以上に早く用事が終わり。のクラスへ行って、の所在を聞こうとしてぐるりと中を見渡すと、昔俺が付き合ったが居た。

目が会うと、が近づいてきた。


「何、に用なの?」

「久しぶりやな、。なんやお前、の友達なんか?」

「……。友達よ。なら、お昼食べた後に音楽室に行ったわ」

「音楽室。そんな場所に何しに行ったんや?」

「さぁ、そこまでは知らないわ。私も音楽室に行くとしか聞かなかったし……」

「さよか、ならそっち行ってみるわ」


踵を返して、去りかけた時に後ろからが問いかけてきた。


「ねぇ、の事本当に好きなの?」


昔振った女の突然の問いかけにどう答えたものかと、躊躇したがこの思いを形にすると出てくる音はただ一つ。


「お前には悪いと思うけど。好きや、ホンマに好きで好きでどうしようもあらへん」


振り返り、感情のままにそう言っていた。


「そう、なんだ。分かった。の事大切にしてあげてね」


褒められた振り方をした訳じゃなかった。なのに、は祝福の言葉をくれた。

女など皆同じ、そう思って適当な付き合いしかしてこなかった。


「なんや、ええ女やったんやな。俺の目は節穴やな」

「今更そう言っても、もう遅いわよ」


ふふっとそう言って笑うの顔を見て、こんな風に微笑う女やったんやと初めて知った。

俺はホンマどうしようもない男やったと、今更ながらにそう思う。

と別れて、音楽室への道を歩きながらしみじみそう思った。


音楽室の近くまで来たときに、何処からか話し声が聞こえた。

よく耳を澄ましてみると、男と女の声でどうやら片方はということが分かった。

声のする方への歩いて行くとはっきりとその声が聞こえた。


「…好きって言われると、答えを出さないといけないでしょ?誰も傷つけたくなかったから、あんな風にしか言えなかった」

さんは残酷です。それに、表向きってどういう意味ですか?」


どうやら、男の方は鳳のようで告白でもされているのかと思い黙って会話に耳を澄ますと。


「本当の目的は別にあったの、私の友達を傷つけた忍足に復讐する為にそう言って近づいたの」


復讐する為に近づいた。ははっきりとそう言った。来る前に見たの顔がちらつく。

すべてが、嘘で。甘い声も、抱擁もキスも全部嘘で。は俺の事を好きだと言った。

衝動のまま、扉を開けていた。

俺の顔を見たの顔は、凍りついていた。それが、すべての答えだった。


「…お、したり……」


擦れた声で、俺を呼ぶの声。

これがすべて悪い夢ならとそう思うけど、まぎれもない現実で自分の中の大切なものが、音を立てて壊れた。


「あははははははははは」


誰かの嗤う声が聞こえる。

それが自分の声だということに、俺はしばらく気付かなかった。






 




2006.01.22UP

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