守ってあげたい 30話















あの例の夜から6日目の夜にある男からのメールが着信した。

Fromキヨ
Sab今日会えない?
―――――――――――
こんばんは☆
びっくりした?こっそり
メルアド見てそれでついで
に登録しちゃった。今日の
夜9時に例のBARで待っ
てるから会わない?
あの夜のが忘れられない
よ♪



千石からのメールを見て正直眩暈がした。食えない男だとは思っていたけれど、まさか携帯のアドレスを見られて、ついでに千石のアドレスまで携帯に登録されているとは思わなかった。

よくよく見てみると、アドレスナンバー1番に登録されていて一番に家の電話番号を登録していたはずだったのだけど。
丁寧に家の番号は最後尾に登録しなおされていた。
それを見て思わず。


「マメね」


とぽつりと独り言が漏れた。
大抵1番最初に登録するのは彼氏もしくは一番近しい人間と相場が決まっているけれど。わざわざ登録しなおすあたり、何を言わんとしているか想像出来た。


「責任でも取ってくれる気持ちにでもなったのかしら?」


15歳の少女の処女喪失と、25歳の成人女性の処女喪失では重みが違うとでも思ったのかな?
千石の心中などつゆしらずに、めんどうな事にならないといいなと、それくらいの認識しかなかった。
とりあえず、このお誘いはパスするつもりだった。

その日は木曜日で、全然出かけるつもりも無くて今からお風呂入って寝るつもりだったし、例の一件で私もかなり懲りていたので、当分夜遊びはお休みするつもりだったから返信メールでお断りの文章を作成しかけて、面倒くさくなって止めた。
下手に相手にするより、ほおっておいて相手が忘れるのを待つことにした。

どうしてもうっとおしくなってきたら、また携帯解約でもするつもりだった。


お風呂上りに、髪を乾かすのもそこそこにゴロンと寝っころがる。
すると濡れた髪がほほを打つ感覚にふいにあの夜の記憶が蘇ってきた。


『別にいいや。それより、もっと違う所にイタズラしてくれないの?』


いたずらっぽく笑う千石の笑顔。快楽に眇められた眉、テニスで鍛えられた綺麗な筋肉のついた身体。
抱きしめられる強さも、触れ合う暖かさも断片的ではあるが記憶が蘇ってきた。

無理やりでもない、自ら誘い込むような事を言ってしまっていた記憶がある。
それに対して、かなり優しく抱かれたような記憶がある。最初から、快感を拾う事が出来るだなんて相手がかなり慣れてないと無理だと思うけど、千石は私をかなり気遣ってくれていたらしい。


。愛してる、ずっと俺の側に居て』


耳元で囁かれた声が脳裏に蘇る。
ピロトークにしては、熱心な声色だったような気がするけれど。一夜の戯れを本気にするほど馬鹿じゃない。


『俺をの、一番近くに置いてよ』


眠りに落ちる意識の向こうで囁かれたらしい言葉。
聞こえているけれど、身体が反応出来ない。そんな感覚の中に居て、ぎゅっと抱きしめられる感覚がして安心して眠りについた。
一つ思い出すと、数珠繋ぎのように次から次へと思い出せてしまった。
酔いの不確かな記憶の中、思い出す度に熱い瞳をした千石の視線とぶつかっていた。
施される愛撫も、年齢にしては巧みで熱い感覚で私を酔わせてくれた。
その時は、トリップしていることや振られた事やどうでも良かった。

だって目の前の熱い瞳をした男が欲しくて堪らなかったのだから・・・。

その夜の記憶に身を委ねていると、身体に炎が灯りそうになって苦笑してしまった。

その時、またメールの着信音が響く。

開いてみると、また千石からで。


Fromキヨ
Sab
―――――――――――
今日は来ないつもり?
まぁ、それでもいいけど
俺は絶対を逃がさない
つもりだから、覚悟しと
いてよ☆
じゃあ、またね。


そのメールを読んで、クスリと微笑みがこぼれる。

繋がっているのは、携帯電話のアドレスと電話番号くらいしかなのに。
逃がさないと言い切る、千石が可愛くて仕方なかった。


「捕まえられるものなら、捕まえてみなさい。全力で逃げるから」


伝わる訳じゃないけれど、そう呟いていた。
まぁ、とりあえず。携帯の解約は止めておこうと思った。

その夜はそのまま眠りについてしまったのだけど。
翌朝、パソコンを立ち上げて、メールチェックをすると久しぶりにチョタからメールが来ていた。



送信者 チョタ 宛先 さん
件名 お久しぶりです。
本文
こんばんは、さん。
久しぶりのメールになります。お元気ですか?
変ですよね。お元気そうなのは影ながら拝見しているので知っていますが。
あれから、俺も色々と考えたのですがやっと結論を出すことが出来たので、その報告がしたくてメールしました。
明日ですが、お時間ありますか?
お昼休みに音楽室で待っていますので、もし都合が悪いようなら携帯にメールしてください。
勝手を言いますが、お願いします。
突然こんなメールしてすいませんでした。

それでは、明日のお昼に会えることを祈りつつ。





「何かしら?」


あれから、結構たってるし。何の用で呼び出されるか皆目検討がつきません。
色恋を抜きにすると、長太郎は自分にとっても可愛い後輩なのですっぽかすつもりもないのでお昼休みに行ってみるかと軽い気持ちだった。


それが、どんな結果を生むことになるかなんて私は知らなかった。













忍足と本当のカレカノになったけれど、中々チャンスが無くてにその事を言っていなかった。勿論跡部にも、何も告げていなかった。
話さなきゃとは思うけれど、後ろめたい気持ちがあって中々それも実現してなかった。

話すといえば、忍足にも自分が近づいた動機も何も告げていない。
毎日話さなきゃと思いつつ、時間だけが過ぎていってという感じでウジウジしているのは自分らしくないのでどんな結果を生むにしても、スッパリ話してしまいたいという気持ちだけはあるんだけど。
いざ、話そうとするとその勇気が無かった。


「どないかしたんか?


短時間の休憩時間にも忍足は教室まで来てくれる。沈んでいる様子の私を気遣ってくれる。


「何でも無い」

「そうか、ほんならええけど……。今日の帰りに俺の部屋寄って帰らんか?」

「えっ……」

そう言われて、この間初めて抱かれたのは忍足の家だったから、その事を思い出して顔が赤くなってしまった。

「いや……。あー。そういう意味も含んどるけど、あれからが欲しゅってたまらんようなってしもうてな……。抱いてカレカノになったら、安心出来るかと思うたけど。尚更、思いは募るばっかりや。まぁ、いやなら仕方あらへんけど」

「い…や。じゃないよ」

「そうか、なら今日は一緒に帰ろな」

「うん。あの、お昼休みの事なんだけど」

「ああ、お昼休みと言えば。英語の友永先生に呼ばれてるんや。なんや、点数はようてもいっつも教室におらんから課題せえとか言いよって呼ばれとるんや。だから、今日のお昼は一緒に食べられへん」

「そう、なんだ」

「ん?どうないかしたんか?」

「ううん。私も用があるから、丁度良かった」

「さよか」


自分から言い出す前に、そう言われてちょっとホっとした。誰と何の用と問い詰められると、誤魔化すつもりだったけど。これ以上嘘つきたくないと、思っていたから。

お昼休みに、手早くパンでお昼を済ませてに音楽室に行ってくるとだけ告げて長太郎の待つ場所へと向かった。






 





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