守ってあげたい 23話 〜人に言えない夜の過ち〜
ここ最近の出来事で正直私はもう限界に来ていた。
自分自身で、限界だと感じるとストレス解消に出かける事にしている。
それは酒である。待ちに待った金曜日に、まだ明るい19時に私は、25歳に見えるような控えめながらもバッチリメイクして…。
説明に難しいのだけど、派手な化粧とはちょっと違う。
ベースメークをばっちりしてアイライン、アイシャドウを控えめにしつつきっちりメイク若い頃とはちょっと違うメイクをしてる。
若い頃のメイクって、こうただ塗ればいいって言ったら御幣があるけど。
気持ち的に私を見てお化粧しているのって感じだけど、年齢を重ねるとどんな風にメイクすれば一番自分が綺麗に見えるかが良く分かってきて……。
逆に、いかに化粧して無いようにナチュラルメイクで尚且つしっかりメイクする高等技術を身につけていた。
だから、アイシャドウも口紅も落ち着いたピンクベージュ。さりげなく引いたアイラインに、透明のマスカラこれにOL風さんのお仕事帰りの服装をするとそんなに無理しなくても25歳は無理でも二十歳以上に見せる事は出来た。
まぁ、何よりの秘訣はどうどうとしていることだけどね。
童顔の女の人もいるしね。
そして、何よりも夜の世界では素の私でいられる。この事がなによりも、私自身の気持ちを楽にしていた。
女一人カウンターで飲んでいるとそれなりに、お誘いがあるのだけれど。
昔の私ならまだしも、借り物のこの体でそれに乗るわけにもいかないのでいつも相手を怒らさないようにスマートに断り続けていた。
この日はいつも行っている、BARが臨時休業になっていて只でさえ付いて無いと思っていたけど。
仕方なく入ったショットBARで、ロングのカクテルを頼んで飲んでいると。
テーブル席が騒がしくなってきて、そんなに広くない店内なので揉めている当人同士の話も聞こえてきてしまう。
「…わ、私の事を、遊びだって言うの?」
「何も、そんなこと言って無いよ。ちょっと、他の子ナンパしただけでそんなに怒っちゃう訳?」
悪びれずに、肩を竦めて笑うその男の姿をみて思わず持っていたグラスを取り落としかけた。
オレンジ色の頭のあの男は。
―――千石清純
「馬鹿にしないで、私はもっと他にも好きって言ってくれる人が沢山いるんだから…」
「へぇ……。その割りに、いっつも俺のセックスが一番サイコーだって言うよね。盛りの付いた猫みたいに、いっつも」
バシッ
千石の言葉をさえぎる様に、連れの茶髪に巻髪の頭の悪そうな女は平手打ちをして憤怒の表情のまま出て行った。
頬を打たれたかわいそうな振られ男を、BAR中の人間が固唾を飲んで見守っていた。
そんな中、カウンターで一人グラスを傾けていた私に目をつけた千石は近づいてきて。
「ねぇ、一人良かったら一緒に飲まない?」
今までの、出来事は無かったかのように明るい笑顔で話しかけてきた。
「一人で飲むのが好きなの。男は今のところ必要ないの。そんな事より、彼女追いかけなくて良かったの?」
「じゃあ、俺と一緒だね。俺も流石に今日は、女は欲しくないや。だから一緒に飲もう」
何気に、彼女の事はスルーされているのですが…。まぁ、いいか。
「未成年者と飲む趣味は無いわ」
「俺童顔だけど、ちゃんと成人してるよ」
「ふぅん。そう、まぁそういうことにしといてあげる。ここには良くくるの?」
「たまにね。お姉さんに会ったのは初めてだね」
「そうね。今日は行きつけのBARがお休みだったから、ここに来ただけだから」
「じゃあ、ここで会えた俺はラッキーな訳だ」
おおっ、これが噂のラッキー千石の口癖とそう思って口に出さなかった私は自分で自分を褒めたいと思いました。
「そうとも言えるわね」
「じゃあ、俺とお姉さんの出逢いに乾杯しようか?」
さっきまでの修羅場を感じさせない、明るい口調と雰囲気でさっさと私と同じカクテルを注文して乾杯してしまった。
「自己紹介まだだったね。俺は、清純っていうんだけどキヨって呼んでよ。年齢は20歳の大学生。お姉さんは?」
「……。、25歳の普通のOLよ」
この場合、年を鯖呼んでいるのは私のほうが上だけど……。どうどうと、20歳の大学生って言う千石の神経もズ太いと思ってしまった。
「へぇ…。25歳なんだ。ぱっと見もっと若いのかなと思ったけど、雰囲気が落ち着いてるから話してみると納得だけど」
「ナンパ目的なら、他へ行って頂戴」
「随分、警戒心強いんだね」
「……。そんなんじゃないわ。失恋したてで、誰ともそういう事になりたい気分じゃないだけ」
「何、何?振られたわけ?」
「随分興味深々ね。私が、振られた話なんてそんなに面白い話じゃないわよ」
酒の肴にするには、もってこいの枯れた恋の話だったけど。健司との失恋話を話して聞かせると。
「泣いたり、怒ったりしなかったんだ」
「したかったけど、出来なかった。相手の負担になりたくなかったし、カッコ悪いところ見せたくも無かったからね。
今になって思うけど、もっと我侭言えばよかったって思うわ」
「我慢強いんだ。でも、男の方も気付いてあげられなかったのも悪いと思うよ」
「そう、かしら……。まぁ、でも過ぎた話だから。次に気づいてくれそうな人と恋に落ちるわね。どう?面白くない話だったでしょ?
そっちは、無い?こんな話」
「昔、と言っても中学時代の話だけど。その頃に、俺の事好きだっていう子が居たんだ。
顔だって普通で、何かとりえがある子じゃなかったけど明るくていつも笑っているような子
だったんだ。好きって言われて、嬉しくて付き合うっていうことの意味もよく分からないうちに付き合ってそして、抱き合って……。
そのうち、子供が出来て……。でも彼女は俺にも誰にも相談しなかった、そのうちお腹が目立つようになって来て、自殺未遂をして結局お腹の子は駄目になって……。何処かに転校して行っちゃった」
ずっと一緒に居るって言ってたんだけどね。そう言って自嘲して哂うその顔は、中学生の顔には見えなかった。
「そうか……。置いて行かれたのね可哀想ね」
私のその言葉に目を見開いている。
「そんな風に言われたの初めてだ」
「え?そう、かな……。ああ、こんな話聞かされると普通なら女の子が可哀想って言うのが普通かしら。
確かに女の子も可哀想だけど、何も知らされずに…。好きな子に去られた男は堪らないわね」
尚且つ、後から周囲に悪者として責められたとしても不思議じゃないだろう。
「子供っぽいって言われるかもしれないけど、もし知らされていたら。彼女も子供も大切にするつもりだった」
「でも、彼女は貴方の為を思って誰にも相談出来ずに最悪な決断をしちゃったのね。貴方も彼女も可哀想ね……。でも今度はそのウサをはらす為に今は馬鹿な女を捕まえて、夜な夜な遊び歩いているという訳?」
「鋭いね」
心の中に溜まったものを飲み込むように、千石はグラスを傾ける。
「そんな事しても、結局はまた自分を傷つけるだけよ」
「は優しいね」
「……。弱いだけよ。本当に強かったらこんな風にお酒に逃げたりしてないわ」
「いつか、この思いも思い出に変わるのかな?」
「変わるわ。多分、苦い思い出になると思うけどね」
どんなに辛くても、苦しくても毎日日々が過ぎていく限り傷は瘡蓋になって、忘れる事は出来ないと思うけどいつか思い出に変わる。
「お酒ならいくらでも付き合ってあげるから、だからもう女を貶めてそして自分を傷つけるのも止めなさい」
「ありがと」
そう言ってくしゃりと、笑う笑顔は年相応の顔に見えた。
そっからは、二人で意気投合してとにかくお酒を飲みまくった。梯子酒を2、3軒したのは覚えている。
でも最後の方はあんまり覚えていなかった。
翌朝、目が覚めると見たことの無い場所だった。
どっかのラブホテルの中のようで…。
覚醒してきて、またやったと後悔していた。
健司と付き合いだす前に、お酒を飲みまくってそのまま初めて会った男とそのまま一夜をすごすなんてのを何度もやってしまっていた。
二日酔いのグラグラする頭で、よーく考えてみると自分がテニプリの世界にトリップ中だということを思い出した。
マジですか?シーツの中で体を検分すると、赤い鬱血のあとが点々とあって嫌な予感がして体を起こして確認しようとすると。
あらぬ所が盛大に痛かった。おまけにシーツを見ると赤いモノが見えてしまって……。
やってしまったことが自覚出来た…。
どーしましょうか?借り物のつもりで綺麗なままでこの体、15歳の私に戻すつもりだったけど…。
後悔時すでに遅しって感じだけど。
隣に居る存在を思い出して、おそるおそる見てみると。白いシーツにコントラストも鮮やかなオレンジ頭の千石清純が居た…。
やっぱりそうよね……。行為を覚えていないのが、いいのか悪いのか知らないけど。
昨日潰れる寸前まで、一緒に飲んでいたのは千石だったし……。
とりあえず、ぐっすり眠っているらしい千石を起こさないようにシャワーもそこそこに私は逃げ出していた。
やっぱり、何処の世界に行っても私は私のようで…。
っというか、昔より取り返しの付かない事が多いような気がして朝日の昇ったばかりの道をとぼとぼと歩いていた。
2005.11.27UP