守ってあげたい 20話















昨日はお昼からの授業を丸々、パスして勝手に帰ってしまったのだけど私が1時間帰ってこなかった時点でが早退を担任に申し出てくれて鞄をロッカーに隠してくれていたので、何とか普通の顔をして翌日出席する事が出来た。

朝から、再度にお小言をもらってしまったけど。それが、また嬉しかった。

昨日午前中帰ってこなかった、跡部は私とは入れ違いに午後の授業からは出席していたらしかった。


ものすごく気まずくて仕方ないけど、まぁ開き直るしかないと思っていたら…。

跡部が教室に入って来たのだけど、転校初日に私に絡んできた跡部様ファンクラブのお嬢様方と腕を組んでの入室だった。


「ちょっと、何あれ?」

「んー。昨日、跡部に告白されたんだ。それを、忍足を理由に振ったからその結果かな?」


が、流石に吃驚してこちらを凝視している。


「本当にそれでいいの?」

「うん。だって、気持ちに答えられないのに変に期待もたすよりかはキッパリ振ってあげたほうが次への切り替えもしやすいと思うから…」

「何と言うか…。って、見かけによらず大人ね…」

「え?そう、かな?」

「確かに、変に優しくされるよりは。手ひどく振られたほうが、思いを断ち切りやすいと思うから。曖昧にされるよりかは、ずっとマシだと思うし…。好きな人に優しくされると、期待しちゃうから初めは恨んじゃうけど、きっぱり振られたほうが思い切りもつくもの。それがある意味優しさなのかもしれないね」

……。そんな意味で言ったんじゃないよ」

「やっだ。分かってるって、でも何となくこれで分かった気がする。忍足の事変に拘っていたのは、私の意地みたいなものだから。だから、ももう無理しないで…。本当は昨日何かあったんでしょ?」


バレていたみたいだ。確かに、何となくそんな気になって授業をエスケープして抜け出すだなんて不自然な言い訳信じる人間は居ないかもね。


「……。昨日、鳳に告白されそうになったのをずるい言葉を使って、それを言わさなかったの」

「ずるい言葉?」

「うん。鳳にね、跡部に好きって言われたけど、私忍足が居るから断ったのって言って。好きと言えないように仕向けちゃった……。だって、好きって言われると。好きか嫌いか結果を出さなければいけないでしょ?でも友達でいたかったから……」

「鳳君を好きだったのね。でも、告白すらさせてもらえない方は複雑だと思うわよ」

「分かってる。これが私の我侭だってことは……。でも、本当に今は誰とも恋愛するつもりは無いから」

「中々うまくいかないものねぇ…。」

「男と女の友情って成り立たないのかなぁ……。」


長太郎が好きになったのは、メール交換をしていた過去の私だと思う。
だから、尚更その思いを受け入れるわけにはいかなかった。

でも、それに対して跡部はここに転校して来てからの私を好きになったと言う。

なら、ちゃんと考えて答えを出すつもりだった。だけど、跡部は跡部なりに答えを出したようで……。

ファンクラブの女の子に囲まれて、笑う姿を見て。多分無理しているのかなとは思うけど、自分がそれに口を出す権利をもう持たない事が分かっているので遠巻きに見詰めるしかなかった。





ザラザラとした感じが自分の中に感覚的に残る。

これくらいで、傷ついてはいけない。

だって、間違いなく振った私より振られた人間の方が辛いのだから。

だから、私は微笑んで跡部に朝の挨拶をした。


「おはよう」


返ってくる言葉は無かったけど、こうでもしなかったら自分を保てる自信が無かったのだ。





















忍足side


意外にも、俺とが恋人同士になったという事が公になっても跡部から何のリアクションも無かった。

有る程度の覚悟をしていたので、拍子抜けとうのが正直な感想で。

また、思ったより跡部がに対する執着を持っていなかったのかと思い少々残念に思っていた。


「なんや、つまらんなぁ…」

「んー。何がつまんないの?」


お昼休みに、恋人同士を印象付ける為にと二人きり昼食を取っていて思わず言葉が漏れた。


「いや、跡部の事やけど。思うてたような反応やなかったから、拍子抜けしてもうてなぁ……。」

「諦めたんじゃないの?」

「俺もそう思うたんやけど、その割にはたまーに目線が険しいし。かと言うて、何かリアクション起こしてくるわけでも無いしなぁ……。もしかして、バレてるんちゃうか?」

「え?それは、無いと思うけど…。」

「なんや、自信満々やなぁ?して、その根拠は?」

「付き合ってるって、知られてすぐに告白されたから……。」

「へぇーそうなんか?で、何て返事したんや?」

「意地悪ね。勿論私は、『侑士とお付き合いしてますから、貴方の思いを受け入れる事は出来ません』って答えたわよ」

「残酷やな……。」

「侑士にだけはそんな事言う権利ないと思うけど……。本当に残酷なのは、好きでも無いのに相手に期待もたせて付き合う事が残酷な事だって言うのよ」


にそう言われて、自分が今までしてきた事を初めて知ったような気分になった。
勿論、己の行動だから何をしてきているか分かっていたつもりだった。だが、分かっていて分かっていなかったのかもしれない。


「そやなぁ……。俺は悪い男やから、も気ぃつけなあかんで」

「充分警戒しておりますから。大丈夫でございます」


何やろ、のこんな風に微笑う笑顔を見ていると。何だか癒される。誰と付き合っても、誰と抱き合っても満たされる事のなかった渇きが癒されていくような不思議な感覚に陥る。

何気ない日常、それがこんなにも愛しい。


「それにね、忍足。私に、貴方を責める資格なんて無いのよ。私も、多分同罪だから」


何処か苦しそうにの口から紡がれる言葉で、が俺と同じような思いをしてきた事を知った。
は、親友の彼氏を好きになって報われない思いに身を焦がしていたようだった。
それを紛らわす為に、他の男と付き合ってそして最後にはその彼氏も、親友も失ったそう言っていた。


「報いを受けたのよ。自分一人が辛くて悲しいとばかり思っていて。私が、回りを傷つけている事に気が付かなかった」


目の前の傷ついた瞳をした女がとても愛しく感じられる。は少し前にこう言っていた。


『多分私と忍足って、似てるから何考えてるか分かるよ』


その言葉は嘘やなかったんやな……。


「俺ら似てるなぁ……。」


俺のその言葉には、フッっと微笑って。


「そうね。バカな所がそっくりかもしれないわ」

「あのなぁ…。関西人にバカは禁句やねんで。言うならアホ言うてくれなぁあかんで」


そんな事を言いながら二人で、あまり意味もなく笑い合う。この時間があまりに穏やかで、これが永遠に続けばいいと思ってしまう自分も居て。
その感情に少し吃驚しながらも、目の前の女を好ましく思う感情を止められなかった。

だが、一ついつもとは違うのは少し前の自分なら簡単に手を伸ばして無理矢理にでも抱いてしまうことも出来たのに。

何だか、それは出来ないと思うようになってしまった。


何なんやろうなぁ…。この感情は……。


自分自身でもに対するこの思いの意味を図りかねていた。

俺のそんな思いを知ってか知らずか、目の前のはいつもどおりの人を喰ったような微笑みを浮かべてこちらを見ていた。









 




2005.11.18UP

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