守ってあげたい 19話













「お前、何故オレの名前を知っている?」


そう問いかけられて、またうっかり声で出していたようで。
あせった私は。


「ゆ、有名だから。山吹の亜久津っていうと、いっぱしの悪でしょう?
 だからこの界隈でも、有名なのよ」


うわっ、思わず言っちゃったけど。これ褒めてるか貶しているか微妙……。


「……まぁいい。お前それよりさっきの」

「ヤ、ヤバ」


とか、思わず世間話をしているとさっきの短髪男が車をまわして戻って来たらしく、こっちにやって来るのが目に入る。

短髪男は、首も太く喧嘩慣れしてそうなのでまともに相手をするとまずそうなので。

何かを言いかけようとしていた、亜久津ごとひっぱってその場を逃げ出していた。


「おっ、おい」

「ごめん、後からいくらでも聞くから。とりあえず、私に付いてきて」


後方から、「こらー」とか「待てー」とか男が怒鳴っているのが聞こえるけど。ここで待つ馬鹿は居ないと思う。

別に亜久津と一緒に逃げる必要は無いのかもしれないが、何かを聞きたそうにしているので一緒に引っぱって来ていた。

念のため5分ほど走って、人気の無い公園で疲労の為にしゃがみ込む。
同じ距離を走ってきた亜久津は当然というか、息も乱さずに平然と涼しい顔をしてらっしゃる。
呼吸を整えて。


「で、さっき何聞こうをしてたの?」

「……………。」


問いかけても、無言のまま睨まれております。


「いきなり、引ぱって来たのは謝るけど言いたい事があるなら、言ってくれないと分からないわよ」


それでも、まだ無言攻撃なので不良同士のにらみ合いじゃないんだから、いい加減話せとだんだん投げやりな気分になる。


「お前、さっきの蹴り誰に教わった?」

「蹴り?ああ、さっきの踵落しの事?あれは……」


って、思わず話そうとしたけど夜遊びが盛んな時代に偶然会って意気投合した、チーマー風のエッジって通り名の男に教えてもらったけど。
こっちとあっちと何処までリンクしているか分からないし、もしこっちにエッジって男が居るとしても私が会うのはまだ未来のはずだから…。
と、ここまで考えてややこしい事態なことに気が付いた。


「あ、あれは独自の技よ。ビデオとか見て自分で覚えたの」


と言い切ってみた。


「嘘だな。お前とまったく、同じ動きをする男を見たことある」


やっぱりエッジだ。アイツこっちの世界にもやっぱりいるんだ。


「だったら、いちいち聞かなくてもいいでしょ?」

「何故隠す?」

「面倒くさいから。普通に考えてみて、いきなり怖いお兄さんにそんな事聞かれて素直に話すと思う?」

「………。」

「で?一体、私から何聞きたいの?」

「アイツ、お前にその技を教えた男は何処に居る?」

「ああ…。エッジの居場所が知りたいわけね。喧嘩で負けたりでもした?」


途端に顔色というか、顔が怖くなるのでどうやら図星のようです。


「うるせぇ。さっさと教えろ」


眉間に皺を寄せて、強気な態度。いきがるのと、生意気なのは別物な訳で。こういう態度は、あまり好きじゃない。


「人にもの聞く態度じゃないわよ。坊や」


女の私に対する警戒心がゼロなので、眉間の皺目掛けてデコピンしてやった。
おおっ、結構手ごたえあったから痛いはず。とか思っていると、そのまま手首をとられ詰り上げられた。

いったー。と内心シャレになっていないが。こんなのは顔に出したほうが負けなので、悠然と笑ったまま。


「ふぅん。居場所知り無くないんだ?」


そう問いかけると、「チッ」とか言って手首を離してくれた。
不貞腐れた態度で、子供用の鉄棒にもたれ掛かってポケットを探っている姿が目に入る。

煙草かな?

不良の定番アイテムを取り出して、お昼間の公園だろうが何処だろうが関係なく紫煙を燻らす姿を見て。

年季が入ってるなー。と思わず感心してしまった。
えーっと。スポーツマンに煙草って厳禁だと思うのですが…。まぁ、困るのは自分だからほおっておきましょ。
これが原因でリョーマに負けるかもしれないのにね。


「エッジの居場所だけど。今は多分横浜だと思うわよ」

「横浜?」

「うん。アイツ、中学はあっちだって言ってたから」

「チッ、ふかしやがって」

「ふふ」

「何笑ってやがる」

「エッジらしいなと思って。アイツ適当な事ばっかいうから、どうせこの辺を縄張りにしてるとか何とか言ってたんでしょ?」

「………。」


図星のようです。


「高校はこっちに来るらしいから。それまで待ったら?」

「お前、アイツの女なのか?」

「え?違うわよ。ちょっとした知り合いだから、エッジの事なら詳しいけど。正確な情報だから、あとお得情報を教えるとアイツ左利きだけど右利きのフリしてるから攻撃するなら右手側からが有効よ」


とか、適当に話をしてみると険しい顔から年相応の素顔が透けて見える。
まぁ、男の子ですから喧嘩に負けるのはイヤだよねぇ。


「何笑ってやがる」


思わず微笑んでいたようで。


「いや、こういうの好きだなぁと思って」

「……。」


イヤ、気のせいか亜久津の頬が赤いような気がするのですが…。
好きっていうのはこういう雰囲気であって、貴方の事では無いのですが……。


「やっだー。何赤くなってるの?心配しなくても惚れてなんか居ないから」


と茶化してみた。


「うるせぇ」


と返ってくるけど。今度は、その声も少々弱くって…。結構、亜久津は純情なのかもと思ってしまった。
正直テニプリキャラの中では、ノーマークだったけど。可愛いかもしれないとそう思ってしまった。


「用がそれだけなら、帰るね」


とりあえず、用が済んだようなので帰ろうと踵を返すと。


「お前、何て名前だ?」

「あら、自己紹介してなかったけ?って言うの。また、何処かで会うかもね。」


じゃあねと、手を振って別れた。















亜久津とのやりとりで、自分らしさを取り戻せたような気がしていた。
あっちの世界にも居た、エッジがこっちにも居る事が嬉しかったせいもある。
自分が居た世界とこっちの世界は、何処か似ていて違うけど。私は私でしか無いから、そう思う事が出来た。

おかげさまで、沈んでいだ気分も少々上昇することが出来た。

そこで、ハタっと思い出してみると。鞄も何も持たずに学校から出てきていたので、家に帰るのも鍵が無いことに気が付いた。

とりあえず、管理人さんに鍵を無くした事にして開けてもらうことにして家に帰ってみた。






家に帰ると、留守電ランプが点灯していて。

ポチっと再生ボタンを押すと。

『伝言、8件再生します。15時32分「、私よ。大丈夫?何があったの?ともかく連絡頂戴」16時10分「先生には適当に誤魔化しているから、帰ったら連絡してね」・・・』

からメッセージが沢山入っていた。
家の電話番号を教えているのは、だけなのである意味当たり前なのかもしれないが…。わずらわしくなって、携帯の電源を落として行動していたのでかなり心配をかけていたようだった。

携帯を取り出して、電源を入れてにダイアルしてみると。


「あっ、?私、うん。今家に帰って留守電聞いた。ゴメン、うっかり携帯切ってた。え?何も無かったって、何だか面倒くさくなちゃってその辺フラフラしてただけだから。あっ、そうなんだ。ありがと、うん本当に大丈夫だから。ありがと」


とても心配をかけていたようで、お小言をもらってしまったけど。
それが嬉しかった。友達に必要とされているそれが、今の私にはなにより嬉しくて堪らなかった。


だから、再びこれを失う事を想像すると恐ろしくて堪らなかった。

この気持ちが、自分の思いを曇らせる原因になっているだなんてその時の私は気付いていなかった。









 




2005.11.15UP

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