守ってあげたい 2話
翌朝の目覚めは、最悪だった。
酷い二日酔いで、頭痛と吐き気の二重奏。
「あたたた・・・。」
少し頭を動かすだけで、強烈な痛みに襲われる。
失恋の翌日に、自業自得とはいえ泣きっ面に蜂とはこの事で、クリスマスイブの過ごし方としては切ないにも程がある。
クリスマスイブは彼氏と過ごすつもりで休みをもぎ取っていたので、心置きなく二度寝が出来る。
二日酔いの自分にはありがたい状況だけど、何だか起きるのが悔しくて眠くも無いのに意地で暖かな布団の中でゴロゴロしていた。
二日酔いの頭痛と吐き気の中、うつらうつらしながら寝返りを打ってみると、ある違和感を感じた。
うつぶせになるといつも苦しいくらいなのに…。
「あれ?胸が減っている…」
思わず独り言が漏れた。
というか、気のせいか全体的に寸足らずになってる気がする…。さわさわと全身を自分で擦ってみる。
意を決して、がばっと胸を覗き込むと…。
「やっぱり、減ってる…」
一夜にして、胸が減るとは呪いか?
わしゃわしゃと自分で自分の胸を揉んで数秒やっと、辺りが変なことに気が付いた。
「んー。ここ私の部屋じゃ無い様な、そうな様な…。あれー?」
根本的に天井の色が違うから、多分別の場所?
「誘拐?…って言っても私貧乏だし、家とは絶縁状態だから誘拐されても身代金出ないから効率悪いのになー」
れれ?でも、何かその辺の雑貨やら何やら、見覚えあるかも…?
考えることしばし。
「おおう、中学時代の私の部屋に似てるじゃないか?そうかそうか、マニアのストーカーに誘拐されたのだな私は…」
ストーカー氏は裕福なのだな、私の中学時代の部屋よりそこはかとなく豪華だぞ。
テレビはあるし、PS2もあるし、PCもある。いたれり付くせりの部屋だな…。後から探検しよう。
まぁ、私のストーカーなくらいだから危害は加えられんだろう。
後から友好関係を築けば、何とかなるだろう。そう結論づけてもう一度惰眠を貪るべく寝ることにする。
何処か可笑しいノリのまま、体が縮んでるのは気のせいにしてベットで再び眠りにつこうとした時。
「。そろそろ支度しろ、遅刻するぞ」
ここ数年顔も見てない父が、少々若い風貌でのっそりと顔を出した。
「お、おはよう?」
咄嗟に出た言葉が、まぬけにも朝の挨拶であった。
「今日から学校だろう?早く着替えて降りて来い」
「え?学校って…」
「ったく、いつまで寝ぼけてるんだ。今日から氷帝学園に編入するんだろが。昨日は遅くまで起きてたんじゃないのか?
とにかく、編入初日から遅刻するわけにはいかん。早く着替えて降りて来い」
バタンと大きな音をたてて、父が出て行っても。しばし思考回路が働かなかった。
「氷帝学園?……。学校、編入って何??」
そこで、初めて部屋にある姿見に視線が行く。
そこには、今時めずらしい黒髪で腰まである長髪の少女が一人鏡越しにこちらを睨んでいた。
「若返ってるー!」
思わず絶叫してしまっても、しょうがない状況だと思う。
絶叫から、15秒後に父が飛び込んできた。
「何事だ!!」
「と、父さん。わ、若返ってるよー。な、何何??私なんか可笑しくなった?」
自分で自分の顔をひっぱりながら、父に問いかけると。何処か痛いものを見るような目でこちらを見て。
「朝から何の冗談なんだ?若返るも何も、お前は中学3年生だろうが…」
ふうーとため息を吐かれて哀れみの目線でこっちを見る。
ムカ。普通は娘の様子が可笑しいなら心配するのが普通だろうが!やっぱりコイツとは合わん。
「う、うるさいなー。ちょっと寝ぼけただけでしょう?そんな目で見ないでよ。着替えるから出てって…。」
半ばムリヤリ父を追い出し、売り言葉に買い言葉でこれから中学校とやらに行くことになった。
というか、なんで私中学生に戻ってるの?
カレンダーを見ると、4月13日だった。
というか、今日はクリスマスイブのはずでしょ?タイムトラベル?あれなんか違う。タイムスリップか!?
昨日寝る前に確かに、人生やり直せるといいななんて思ったけど。
本当にやり直せたりなんか、しちゃったのかな?
だとしたら美味しいことこの上ないしね。自分のやりたかった夢に、もう一度チャレンジできるし。
でも、自分の居た過去とは微妙に違うのでパラレルワールドなのかと思うけど。
もし仮に突然、現実世界に連れ戻されたとしても今の私に怖いものなど、何も無いのでとっとと思考を切り替えて現状をフルに楽しむ事に決めた。
「。いくぞー。」
「今行くちょっと待ってー」
机の一番上の引き出しを漁ると、予想通り「MY DIARY」が出てきた。
この頃ってマメに日記付けてた記憶があるから、もしやと思ったらやっぱりあった。
現状把握の為にそれを鞄に突っ込んで、学校に行くことにした。
二度目の中学生か〜。勉強が面倒だけど。久しぶりの学生生活なんだか楽しみ。
ここは一つ、青春してみますか。
2005.09.23UP