守ってあげたい 16話














翌朝登校すると、ものすごい好奇の目線を向けられていい感じに噂が広がったのが分かった。

忍足と噂になるのが本来の目的じゃないけど。敵を騙すにはまず、周囲からって事で頑張ってみた。

勿論敵を騙すには味方からってのは分かっているけど。事情を話さないと傷つきそうなにだけ、打ち明けてまわりは全て騙しきるつもりだった。

朝一で、を捕まえて人の居ない屋上まで引っ張って来て一通りの説明をしてみると。

目を丸くして。


「忍足君を完全に落としきるつもりなのね……。うーん。なら出来るかもしれないわね……。ここで止めても無駄?」

「ごめん」

「そう、でも一つだけ言わせて。傷つくのはいつも女なんだから、危ない事になったらすぐに逃げ出してね」

「うん。ありがとう、バカでごめんね」

って結構向こう見ずな性格なのね……。まっ、それも面白くていいけど無理な事だけはしないでね」

「分かってるってば」

「本当に?」

「大丈夫だって」


安心させる為にニッコリと微笑んでみせると、やっと信じてくれたのか今日初めては笑った。
引き際も知っているし、昔の私じゃないから大丈夫だとそう思えた。









始業時間ギリギリに教室に戻ると、仁王立ちの跡部に迎えられた。

無茶苦茶怖いんですが……。


「話がある、ちょっと来い」

「おはよう、跡部委員長。来いって言われても、今から授業始まるよ?」

「どうでもいい」


とか何とか揉めていると、担任の先生が入ってきてしまった。


「先生、さんが具合悪いらしいんで保健室に連れて行きます」

「えっ、あ」

「あぁ…。そうなのお願いね」


跡部の迫力に、先生も押され気味でそのまま無理矢理手首を掴まれたまま教室から連れ出された。

ずんずんと足早に歩いていくので、こっちは付いていくのに精一杯でてっきり部室に連れて行かれるのかと思ったけど。
付いた先は、生徒会室だった。



ほとんど押し込まれる勢いで中に入れられて、入った先も何処の会社の応接間って感じで革張りのソファが鎮座していた。

軽く突き飛ばされたけど、その高そうなソファに受け止められたので痛くもなんとも無かったのだけど……。


「手首が痛い」


思いっきり力加減もなく掴まれていた、手首がジンジン痛かった。
見ると赤くなっていた。

睨んで文句を言っても、今日は全く通用しないのか。


「忍足と付き合っているのか?」


と自分の聞きたい事のみ聞いてきた。
まぁ、予想出来た展開だけど今日の朝一に授業も吹っ飛ばして、拉致られてこんな風に聞かれるなんて思っても見なかった。


「うん。昨日から付き合いだしたの」

「何故だ。俺の気持ちは分かっているだろう?」

「俺の気持ちってどんな気持ち?俺の女になれとは言われたけど、もしかしてそれが愛の言葉とか言わないでよ」


好きとも、何も言わずに思いを分かれってのは土台無理な話。俺の女になれ=好きって図式ですか?


「……言わなくても分かるだろ?」

「私はエスパーでも何でもございませんから、言わなくても分かる女じゃないの。そんな以心伝心を望むなら、他の女をあたってよ」


軽い言葉遊びにすぎない、会話。正直私にとっては、この人―――跡部にどう思われようがどっちでもいいから適当に流しているだけ。
さっさとその場を立ち去るべく、戸口に向かうとそんな私に後から。


「好きだ。どうしてなんか良く分からねぇ。でも、が好きだ」


胸を刺すそのセリフ。まごうことなき本気の言葉。

本気の言葉ってやっぱり痛いや。

だから私は、振り返ることなく。


「ごめん跡部。私忍足と付き合うって決めたの」


そう言っていた。それ以上の言葉もそれ以下の言葉も言う事が出来なかった。


「それは、俺が忍足に劣るって言う事か?」

「恋愛の気持ちに、誰が優れていて誰が劣るなんて事無いのよ。その人にとって唯一無二の人間が、たまたまその人だったってだけで」

にとって忍足が唯一無二の人間なのか?」

「ええ」

「そんなのは、嘘だ。本当なら、もう一度俺の瞳を見て同じ言葉を言ってみろ」


その言葉に振り返り、まっすぐに跡部の瞳を見返して。


「私にとって、忍足侑士は唯一無二の人だわ」


残念ながら、こんな嘘くらい何でもないの。綺麗な心も、純粋な心も遠い昔に消えちゃった。
残ったのは、ずるい大人の私。


「嘘だ。俺の瞳はごまかされない」


あまりにその瞳が綺麗で、この人の事を好きになれたらいいのになって思った。

嫌だ、同情かな?

綺麗な蒼の瞳に魅入られて、ゆっくりと跡部が近づいてくるのを見てしまった。


「俺を好きになれ。、俺の唯一無二の人間はお前だ」


頤を取られ、跡部の熱い唇が近づいてくるまで私はその瞳に魅入ったままだった。

唇が近づいて熱い吐息が唇にかかった瞬間に、反射的に跡部を突き放して逃れた。
そのままの勢いで、その場を逃げるように後にした。








まだ校内に詳しくない私は、例の裏庭のスポットに来てしゃがみ込んでしまった。

流されそうになった。
たかだか、15歳の本気に負けそうになった。違うか…。15歳だから、何の駆け引きもなく全力で欲しいって言えるのね。


「羨ましい……。若いっていいわよね」


思わず言葉が漏れた。

自分も同じ15歳の肉体を持っているけど、心は違うからあんな風にまっすぐに人の事を好きだって言えるだろうか?

どっちにしても、跡部が本気だというならこちらもきちんと答えを返さなければいけない。

嘘の気持ちには嘘で返すけど。本気の気持ちには、本気で返さなきゃね。


誰かとまっすぐに向き合う事、健司とでさえ出来なかった事が自分に出来るだろうか?
臆病になる、失う事、裏切られる事を知っているから。


「何で私なんかがいいだろう……。」


聞くものとていない私の呟きは、ぽつんとその場に取り残された。















1時間目が終わって、教室に戻って2時間目が始まっても跡部は帰ってこなかった。

普段なら気にも留めないんだけど、さっきのやりとりが引っかかってしまって。気になって落ち着かない。
いつも、左側に跡部が居てたまにそっちを向くとずっとこちらを見ていたのが、あるべき者がそこに無い。

ただそれだけなのに、気になって仕方ない。

でも、跡部の思いを拒否した自分には何も出来る事が無い。

お昼休みは、とご飯を食べた後に向かう場所があった。


それは例の保健室だった。



今日は谷崎先生は、出張で保健室には居ない。

ということは、十中八九は忍足があそこでさぼっていると思う。

保健室の扉を開けようとして、やっぱり鍵が閉まっていた。
そこで、携帯を取り出して昨日聞いたばかりの忍足のナンバーをコールする。


しばらくするととても眠そうな声で電話に出て。


「なんや、何の用や?」

「居るんでしょ?開けて」


跡部との一件もあってイライラ気味の私は、保健室のドアを蹴飛ばしていた。


「バレとるんか」


電話が切れると、扉が開いた。


「おはよう、忍足」

「おはようさん、。今日も可愛いで」


私が中に入ると、内鍵を閉めていた。
よく考えると密室になるから危ないと思うけど、話をするにはもってこいの場所だからここまで来た。
あの先生のテリトリーで話をするのが一番、てっとり早いと思ったのだ。


躊躇無く、ストンとベットに座ると。


「ねぇ、忍足話でもしようか?」


そう問いかけていた。









 




2005.11.06UP

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