守ってあげたい 14話












「ねぇ、。これから私が何しても、何も言わずに信じてくれる?」


忍足の切ない片思いを知った翌日、私のした決断は決して褒められるものじゃないだろう。

25歳の女としての決断としては、あまりにバカと言われても仕方ないと思う。
でも、どうしてものした思いを、忍足に味あわせたくてたまらなかったのだ。
だから、その為なら多少の犠牲をはらってもいいとさえ思ってしまった。

きっと、あっちの世界の連れがこの私の姿を見ると「ああ…。またやってるよ」ってため息吐かれそうだけど。
こっちにはあいにく、ストッパーが居ないのでだから私はまた全力で突っ走る事にしたのだ。


「な…にかするつもり?」

「ん?恋愛の、ワビ、サビをあのバカに教えてあげようと思って」



策士の笑みを浮かべてを見る。


の気持ちは嬉しいけど、吹っ切れてなかった私が悪かったんだから……。」

「うん。のためだけじゃないから気にしないで、ああいう男個人的にも許せないの。
 誰かが、教育的指導しないとずっとあのまんまだと思うから…。
 お姉さまが、ちょっと教育してあげようかと思ってね」

「お姉さまって…ふふっ…あははっ…」


身長150センチにも満たない私が、お姉さんぶるのが可笑しいのだろう。
これでも中身は25歳なんですけどね。んーでもを笑わせられるなら、何でもいいかな。


は、忍足ことまだ好き?」

「……。まったく、心が残ってないって言えば嘘になるけど。きちんと別れてないから、思いが残ってしまうのかもしれないわ」


別れた事情をよく聞くと、ありがちといえばありがちなんだけど。お付き合いをしていると思っていたときに、彼氏の家に突然遊びに行ったら他の自称彼女と鉢合わせしたらしい。


「二股ってこと?」

「違うわ、付き合っているって思っていたのは。その時一緒に居た、その子も同じだったけど。二人とも、彼女でも何でも無かったのよ」

「って事は」

「『付き合ってるそう勘違いするんは、自分らの勝手やろ?俺がいつおまえらに好きって言うた?』って言われたわ、別れるどころか始まってさえ居なかったの。それを一人で盛り上がってバカみたい」


目の前の、は私より15センチは背が高くてお姉さん系でサバサバしてていつも明るくて、忍足のタイプの足の綺麗な子だけど。

普通より大人びてはいるけど普通の恋する少女だったはずだ。

少女期に誰しも体験する、回りも何も見えないほどの純粋な思いを踏みにじるのは許せない。


「ますます許せないわね。きっちり思い知らせてやるつもり、だから私が今から何しても引かないって約束してね」

「んー。それは約束出来ないかもね」


茶目っ気たっぷりにそう言って笑うを見て、改めて大切だとそう思える。


覚悟なさい。忍足侑士。


向こう見ずな私の性格を知る人物がそばに居ないので、止めるものも居ないのでこれ幸いと全開でぶつかっていく事にした。


何か似たような事昔やった気がするけど、その時の私とは経験値が違う。
まぁ、ある意味その分始末が悪いとも言えるけど、このとき自分が他人に与える影響なんて考えてもいなかった。















ここ数日のリサーチで、忍足の行動パターンを掴んでいた。

普通に授業に出る事が少なくて、授業に出る事が無くても常に成績はトップクラスで、テニスの腕もあって表立ってそれを諌める人間はいないらしい。
それこそ忍足の従兄弟である、保険医の先生である谷崎美冴ぐらいしか居ないらしい。

さぼるなら、保健室か屋上に居る事が多い。


報われない恋心を抱く辛さは、私も昔体験したので分かりすぎるくらい分かっている。

だけど、それを紛らわすのに何の罪も無い人間の思いを犠牲にすることなんて許されないと思う。

だからって今から自分がしようとしていることが許される事だとは思っては居ない。
でも、こうすることでしかそれをわからす事は出来ないと思う。


だから、私は。


「ねぇ、忍足。私と取り引きしない?」


屋上で午睡を貪っている忍足にいきなりこう問いかけた。


「何や、いきなり。跡部がご執心のやないか。そのお姫さんが、俺に何の用や?」

「彼氏になって欲しいの」


流石に私のいきなりの申し出に、コンクリートの床に寝っころがっていたのだが、ムクリと起き上がり。


「熱烈な求愛やなぁ…。なんや感激してドキドキしてきたわ」

「心の篭ったお言葉ありがとう。取り引きだって言ったの分かって言ってるでしょ?」


悪趣味ね。そう続けると、今度は笑いながら。


「お断わりや、本気やったら相手したらんことも無いけど。あんさんの取り引きちゅうのはきな臭うて、やる気がおきひん」

「ふぅん」


それなりに警戒心は強いようね。思っていた通りの反応を帰してくる、つい笑いそうになるのを堪えるのに必死だ。


「なら、保険の先生と忍足の関係を知ってるって言ったら」


ほんの僅かな反応だったけど、一瞬だけ視線が揺れた。流石、氷帝の天才己の動揺を外に見せない。
だけど、あれを知っている私にポーカーフェイスを取り付くろうおうとしても無理よ。


「そんなん、秘密でも何でもないわ。俺と、美冴姉さんが親戚ちゅうだけやで」

「それだけ?」

「それだけや」

「お昼休み、コーヒー、内線、ピンク色のカーディガン。このキーワードに心当たりは?」

「お…前っ」


一秒前までは冷静な顔をしていた、忍足がいきなり感情もむき出しに私に詰め寄り二の腕を掴まれた。


「お昼休みの、保健室のベットって色んなものが見れて楽しかったわ」


至近距離で、つかまれた腕の痛みも顔に出さずに微笑んでそう言ってやると。
ふかいため息をついた後に。


「何が目的や?」

「だから、彼になってほしいの。正確には、フリだけどね」


私が作ったシナリオは、跡部のしつこい求愛をのがれる為にあの事をネタに忍足の協力を求めるというものだった。
表面上には無理の無い話で、でも私の真の目的は忍足侑士を完全に落とす事だった。
ニセモノの彼氏ということで、忍足に近づいて自らも味わった事のある思い――片思いの辛さを理解するフリをしつつ。手なづけ、完全に落ちたときに手ひどく振る事が目的だった。

自分が何をしようとしているのかは良く分かっている。の為の復讐だとしても許されない事をしようとしている。
だから、私は賭けてみることにした。見事忍足を落とした後に、私のする試験をクリアするなら傷つけないで居てあげる。
だけど、クリア出来なかったら……。その時は泣いてもらいましょう。


それに、この手の男は一回痛い目を見たほうがいいのよね。
一見できなさそうな事ほど燃えるタイプなので、闘争心に火がついた私を今更止められる人はここには誰も居ない。


だから表向きの理由を、もっともらしく情感を込めて語ってやると。


「分かった。引き受けたるわ。ちゅうか、俺に拒否する権利ないやん。イエスとしか言えんやろ?」

「そう?忍足の跡部の関係って面白いわよね。お互いが縄張り意識バリバリのくせに、そんなこと知りませんって態度だし。跡部がご執心の私を彼女にすることで、結構男のプライドが満たされたりするんじゃないの?」

「ホンマの意味で満たされるんはやっぱり」


そう言って、頬の髪をかきあげられてゆっくりと忍足のお綺麗な顔が近づいて来るのが分かる。


キスされるみたいです。


今の状態で、忍足にキスされるのは本当は嫌だけど。目的の為ならキスの一つや二つくれてやりましょ。

余裕ぶってクスリと笑って、うすく唇をひらいて忍足からのキスを受けた。

お互い主導権を譲らないケンカみたいなキス。

キツク舌を吸われると、意趣返しにかるく舌を噛んでやる。そうするとこの間のお返しか、立ったまま口付けていたので抱きこまれ身動きが取れない状態にされて下肢に手が伸びてきた。


股間を蹴り上げてやろうかと思ったけどそれはあんまりなので、自由になる足でおもいっきりつま先を踏んずけてやった。


「イタっ」

「そちらは禁止区域になります」


殊更笑ってそう言ってやる。


「なんや、意外とお堅いなぁ」

「残念ながら、こっちも遊び相手には事欠かないの。それに、忍足とはいい関係でいたいから……。」


半分嘘で、半分本当のセリフ。


「まぁ、ええわ。跡部の前ではカレカノのフリすればええんやな?」

「ええ。」


こうやって、私と忍足の戦いは始まった。


と言っても相手は私の思惑なんて知っちゃいないのだけどね。








 




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