リクエストくださった方にふわりと和んでいただけましたら。
雨上がり
雨上がりの公園では、笑い声が上がっていました。
ずうっと雨が続いて家の中に閉じ込められていた子どもたちが、ちょっと顔を出したお日様に歓声を上げて飛び出して来て。
それにみんな仲のいい、さして大きくもない団地だから、誰かが遊んでいる声が聞こえたらその声に引かれて次々にお友達が出てきます。
お母さんたちも、ふたり、三人、ちらほらと。
大地くんとお隣の楓ちゃんも、そんなふうにして団地の公園で一緒に遊んでいました。
緑の葉っぱも、芙蓉の花も蜘蛛の巣も、滴に飾られてきらきらと光っています。
大地くんがぴょんと飛んで枝を揺すったら、ばささ、と水が降って来て。
楓ちゃんも「やだあ」とか言いながら、きゃあきゃあと笑っていたみたいだったのですが。
「や、やだ!大地くん、やめてよ!」
よそのお母さんとお喋りしていた大地くんのお母さんが切羽詰った金切り声に振り向くと、
楓ちゃんが大地くんの前で硬直して、そして大泣きに泣いていたのでした。
「何で?怖くないってば、ほらほら」
「や、やだ!止めて!」
「つまんないなぁ。かたつむりがダメなら、ほら、」
「きゃあ!!!」
「大地!やめなさい!」
駆けつけたお母さんが見たのは、足元をのそりと這っていくカタツムリと、そしてそれから。
大地くんの手の上にはこの上なく見事な女郎蜘蛛。
お母さん自身、ちょっと悲鳴を上げて大地くんの手からそれを払い落としたくなったくらいです。
それは我慢しましたが、でもこんなものを目の前に突き出されたら楓ちゃんが泣き出すのは無理もありませんね。
楓ちゃんは大慌てで大地くんのお母さんの後ろに隠れ、お母さんはちょっと怖い声を出しました。
「大地、やめなさい。楓ちゃんに謝るのよ」
「えぇ~?だって、怖くないってば、ほらぁ」
「あなたには怖くなくても、楓ちゃんには怖いってことはあるのよ。
楓ちゃんが嫌がってるのわかるでしょ?」
「だってそんなのおかしいよ、こんなのに泣き出すなんて。変なの~」
「大地!」
ほらほら、って大地くんがなおも楓ちゃんにクモを突き出そうとするものだから、
お母さんは今度こそ大地くんの手をきゅっと掴んで、その上のクモを払い落としました。
しゃがみ込んで、大地くんの肩を捕まえて顔を覗き込んできっぱりと言います。
「大地、お友達が嫌がることをしちゃダメなの。楓ちゃんに謝りなさい」
「やだよ!ぼく何にもしてないもん!」
「大地?」
お母さんはしばらく大地くんをじっと見つめていましたが、大地くんがふいっとあさっての方を向くので
仕方がないわね、と心を決めました。
「楓ちゃん、ごめんね。大地にはよく言っておくから」
楓ちゃんに謝ると、大地くんの手を引いてお家に向かいます。
「や、やだ!まだ帰んない!」
大地くんが抵抗すると、それに構わずに大地くんを抱き上げてすたすたと帰ってしまいました。
3棟の204号室が大地くんのお家。
抱き上げられてお家に帰ったときには、大地くんの方がちょっと雨模様になりかけていました。
だって、お母さんが怒ってるのは分かるから。
「や、やだ!ぼく何にも悪いことしてないよ!」
「年下の女の子を泣かせて、何言ってるの。
そりゃあ、大地は楓ちゃんを泣かせるつもりじゃなかったかも知れないけど、
でも楓ちゃんがやめてって言ったのに、大地、やめなかったでしょう?」
お母さんは怖い顔。ソファーに座ったお母さんに抱きかかえられて、
大地くんは思わずお尻を後ろに回した手で隠しました。
「だって、あんなので泣く方がおかしいんだよ!やだってば、お尻やだぁ!」
「だぁめ。大地も楓ちゃんが嫌がることをしたんでしょう?」
ぺちぃん!
お母さんはあっさり大地くんの手をよけてしまって、お膝の上でぺちん!
「いたぁい!やだよぉ!」
大地くんのちいさなお尻はすぐに真っ赤になってしまって、ふえぇぇ!と大地くんは泣き出しました。
「やめてよぉぉ!やだぁぁぁ!」
ぺちん!
「だめよ。悪いことしたってわかるまではやめません」
ぺしん!
「うわぁ~~ん!だってだって、ぼく悪くないもん!カタツムリが怖いなんておかしいもん!」
ぺちぃん!
「大地が怖くないからって、何をしてもいいってことにはならないのよ。
自分が嫌なこと、人にされたらどう思うの?」
「だって、ぼく嫌じゃないもん!楓ちゃんがおかしいんだよぉ!」
ぺちん!
言い張る大地くんに、お母さんはちょっと手を止めました。
大地くんをもう一度抱き起こして、ゆっくりとした声で話します。
「大地、あのね。ひとはみんな違うの。
大地にだって、好きなものと嫌いなものがあるでしょう?」
そう、大地くんはベーコンの入った目玉焼きが好きで、スクランブルエッグはちょっと苦手。
自動車の模型は好きだけど、積み木はそんなでもない。
サッカーよりは、野球が好き。
保育園で仲のいいお友達は、拓海くんと陽一くん。・・・それから、お隣の楓ちゃん。
「大地に好きなものと嫌いなものがあるように、楓ちゃんにも苦手なものがあるのよ。
わかる?」
大地くんは頷きはしなかったけれど、きゅっと口を結んででも聞いていました。
ほんとはそんなこと、わかってる。わかってるけど。
だって楓ちゃんが、あんまり大げさに騒ぐから、って大地くんは思ったのです。
「そりゃあ、嫌いなものって少ないにこしたことはないけれど。
カタツムリが苦手な子もいるし、
・・・・・だいたい、大地。楓ちゃんがクモが平気だなんて、ほんとに思ったの?」
お母さんの質問に、大地くんはちょっと困った顔をして。
それは、さすがに思ってない。
カタツムリであれだけ騒ぐんだから、クモだったらどうだろうって、つい、ね。
「だってさ、楓ちゃんが怖がるの、おかしかったんだもん」
「まぁ!」
お母さんは大地くんを睨んで、大地くんはきゅっと身を縮めました。
怒られることだっていうのは、言ってしまえばよおく分かっちゃったから。
案の定お母さんはもう一度大地くんをお膝に倒してしまって、さっきよりもきつくお尻を叩きました。
ぱぁんっ!!
「いたあっ!」
ぱしぃんっ!
「ふぇ、やっ、」
ぱちぃんっ!!
「いたい、いたぁぃぃ!」
ぺちぃぃん!
「痛いのは当たり前よ、楓ちゃんにひどいことして」
ぺちぃんっ!
「お友達が嫌がることをしちゃダメなの。楓ちゃんに嫌われたくないでしょ?」
ぱちぃん!
「お友達をいじめるなんて、お母さん、許しませんからね」
ぱちぃぃん!!
お母さん、怒ってる・・・。
痛いのと怖いのと悲しいのとで、やっぱり大地くんは泣いてしまうのでした。
「うわぁ~んっ! ごめんなさぁ~いっ!!」
ぺちぃん!ぱしぃん!ぱぁぁぁん!
ごめんなさい、って言った後もたっぷりお仕置きされて、それからようやくお母さんの手は止まりました。
大地くんはお尻を出したまま、泣きじゃくってお母さんの胸にしがみついています。
だって、お母さんに突き放されちゃったりしないか、怖くて。
「大地、もうしないわよね」
お母さんが大地くんの背中を撫でながら尋ねると、大地くんは涙まじりのお返事をしました。
すこしだけ、ほっとして。
「・・・ぐすん・・・もうしないよぉ・・・ごめんなさぃ・・・」
それから大地くんは言おうかどうかしばらく迷って、小さな声で、ひとこといいました。
「・・・・・楓ちゃんに、嫌われちゃったかなぁ?」
お母さんは大地くんをぎゅっと抱き締めてくれました。
ぎゅうっとすこしの間、強い力で抱き締められて。
あったかいって大地くんが思ったときに、やさしい声が降って来ました。
「楓ちゃんはやさしい子だもの。いっしょうけんめい謝れば、たぶん、大丈夫よ。
泣き止んだら、いってらっしゃい」
「ん・・・・・いま、行って来る!」
お母さんの腕から、あったかい何かをもらって。
そして楓ちゃんが気になって、居ても立ってもいられなくなったみたいな大地くんは、ばたばたと走り出していきました。
あ~あ、あの顔じゃあお仕置きされたってわかっちゃうわね、とお母さんは苦笑いしましたが、
もちろんそんなことは言わずにベランダから雨露の光る公園の様子を見下ろします。
すこしのやり取りの後、大地くんと楓ちゃんがまた一緒に遊び始めたのを見て、
大地くんともども胸をなでおろしたのでした。
2007.10.20 up
感謝企画リクエスト、みっつめです。
ご注文はお題が「雨上がり」ちびっ子もので★ とのことでした。
組み合わせはどれでも良さそうでしたので、比較的少ない F/m でvっていうか自然と F/m に。
ときどき悪戯で時々お兄ちゃんでたまに甘えやさんでいつも元気な・・・結構やんちゃな。
大地くんは今後も気が向いたらひょいと出てくるんじゃないかと思います。
元気な雨上がりのイメージって、女郎蜘蛛の巣なんですよ(苦笑)。
(そして前の前住んでいたアパートが、棟の南にすべり台とブランコと、そして草木が茂ってた^_^;)
(ついでに、淋しい雨上がりのイメージ版もあったのですが、淋しすぎてスパがなかった(^^ゞ)
リクエストされた方が、クモが苦手じゃなければいいのですが。
すごく楽しく書かせていただきました♪リクエスト、ありがとうございました。
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