リクエストくださって、そしてまるマを読ませてくださった貴女に。

◆ 検索でおいでになった方へ ◆
このサイトでは、お尻叩きのお仕置きが出てくるお話を置いています。
そういう二次創作が許容できるという方のみ、お進みください。


マのつく遊びの後始末

「お帰りなさい。陛下、ヴォルフラム」

腕を組んで扉にもたれかかるように立っていた長身の男は、ふたりの姿を認めるとにっこりと笑った。
うわ・・・。
いくら穏やかな声だって、微笑が浮かんでたって、いや実際、顔が見えなくたって声が聞こえなくたってはっきり分かる。・・・怒ってる。
ふたりは一瞬硬直しかかったけれど、片方は罪悪感から片方は自尊心からそれをねじ伏せて笑顔の促すとおりに城へと入った。


コンラートの自室で部屋の主がふたりに椅子を勧め茶を出すと、名付け子はちょっと肩をすくめて手を付けず、弟は一口啜ってカップを手にしたまま傲岸にこちらを睨んできた。それじゃあ、と逆に見つめ返してやるとふいと視線を外すのが、ちょっと可笑しくて可愛い。
ふたりがここまで親密になったのも時には羽目を外すのも悪くない、いやむしろ望ましいとさえ思う次男ではあったけれど、それにしたって程度というものがあるんだけれどね、と内心で一人呟く。

「陛下」
いつも言われているのに名前を呼ばなかったのはちょっとだけ意地悪が入っている。
もっとも素直極まりない彼の主君はそれにかかわらず、ぴくん、と顔を上げて彼と向かい合った。
「うっ、えっと、コンラッド、・・・心配した?」
「ええ、かなりね」

責めるような色は見せない方が、むしろ堪える相手だと知っている。実際結構心配したのでその感情を瞳に表すことにも躊躇いはない。ユーリ、ご承知でしょうが俺、怒ってるんですよ。一言の断りもなく城を離れられるのも問題ですが、そのまま一週間以上も音沙汰なしというのは流石に少々。
案の定魔王陛下は狼狽えて、「っと、ごめん!」と叫ぶ羽目になった。

「ごめん、悪かったって、コンラッド。そんなつもりじゃなかったんだけど、」
けれど重ねられようとした謝罪は最後まで続かなかった。
何故ならカップを置いたヴォルフラムが、ユーリの言葉を遮る明確な意図を持ってコンラートに言い放ったから。
「お前が心配なんてする必要ないだろう、ぼくがついていたんだ」

「「ヴォルフ、」」
主従は一瞬続ける言葉を見失い、互いに交わしていた視線を三男へと移した。
今度彼はコンラートの眼差しにも怯まずに、譲る気配を見せない。

「ぼくたちがどこへ行ったかなど、お前は当然調べただろう。
そもそもこのへなちょこ一人ならともかくぼくと共にあって何かあろうはずがない。
それともお前はぼくの技量がそんなに信用ならないとでも言うつもりか?」

「まさか」
弟の目の奥を覗き込んだまま、コンラートは淡々と応えた。

「確かに俺は陛下とお前の行き先を調べたよ。
ビーレフェルト領内アイフ検索よけです^_^;ェルの森、炎の要素にも事欠かないはずだし
お前が対応できないような猛獣もいないだろう」
言葉を切って、そして少しだけ声に熱が篭る。

「信用したから迎えに行かなかった。
けれど、それは心配しなかったってことじゃない」

「それはお前の判断だろう」
「もちろん。だけどヴォルフ、」
「あー、もう、やめてくれよ二人とも。今回のことはおれが・・・」
口を挟もうとしたユーリは実はよく似た兄弟に同じように斥けられた。
「お前はちょっと黙ってろ、へなちょこ」
「ユーリはちょっと黙っててください」

うわ、ひで。これでもおれが魔王なはずだろ?!と思わずユーリが考えたのを尻目に、それでもいったん矛先が横にずれたせいでか兄弟は一部だけ意気投合した。
「場所を変えようか、ヴォルフラム」
「そうだな、このへなちょこに聞かせる必要はないだろう」

ぱたん。
決めた行動は素早い二人だ、いつの間にかユーリの前では扉が閉まり、 彼は一人自分のでもない部屋に取り残された。
「うわー」
彼にしてはめずらしい、溜息をつく。
「どー考えても今回のはおれが悪いんだけどなぁ。うーん」
気晴らしに出かけた森で帰りがけにひどく見覚えのある動物をちらりと見かけ、 そこから五日も自称婚約者を引っ張りまわしたのは彼だ。

「やー、でもよかったよなー、やっぱ本物はいいよな〜、ってどっちが本物?!」
追いかけ回し、というか探し回って群れを見つけ、助言に従いゆ〜〜っくり近づいて、最終的には遊び倒してきたそのお相手は。
どうもこの世界では肉食ではないらしい―――白いライオン。

ふさふさとした毛の感触を思い出しつつ、も一度後でコンラッドには謝っておこう、と率直な魔王様は思うのだった。


***

さて別室では兄弟が、さっきと同様に睨み合いを続けている。

「ヴォルフ、何も城から一歩も出るなと言ってる訳じゃない。
しかしそれにしても遣り様があるだろう」
「ユーリがぼくと一緒だということはすぐに分かったはずだ。それ以上に何が必要なんだ?
それにどうせお前のことだ、あいつの所在もすぐに掴んだと思うが」

無論お前がへなちょこの所在を突き止めていなくても、ぼくがいるのだから問題はないが。
腰を反らせて言う弟に、次男もざっくりと切り返す。
「そう、俺の部下にしなくてよかったはずの仕事をさせて、所在は掴んだ。
そのことだけでも俺が怒るのは真っ当だと思うけど」

そう言うとコンラートは一拍、息をついた。
「まさかお前だって八日も城を空けて誰も心配しないと思ってはいないだろう?
俺じゃなくたって、グウェンだって心配するんだ。
二、三日なら構わないと思った?帰ろうと思ったころに陛下に引き止められた?」

それはほとんど正しい推測で、図星を突かれたヴォルフラムは「何を根拠に!」と反射的に言い返しかけた。しかしむしろそれは薮蛇だと気づいて喉元まで出掛かった言葉を止める。

「仮にそうだとしてそれがどうした?!
とにかく、お前に心配される筋合いなどないだろう」
あくまでもそう言い張る弟が、真っ直ぐに向けてくる瞳。
翡翠色の強い輝きは悪くない、そう思いながらも困ったねとコンラートは微かに首を傾げた。
いつまでも言い争っていても埒が明かない。

「お前がどう考えていようと俺は心配したよ、ヴォルフラム。
何か言うことがあるだろう」
「何をだ?言うべきことなど思い当たらないな」
静かに語られる言葉に全く怯まなかったといえば恐らく嘘にはなるものの、彼は彼で譲れない。
まあ、それも分からないではないかな、と思ってしまった次兄は、 肩をすくめながらも事態の収拾に些か穏やかならぬ手段を選択した。

「困ったね。こうしないと素直になれないのか?」

「な!」

ぱしぃぃん!

捕まえて、膝の上に倒して、服を下げてしまって尻に平手を打ちつける。
剣術でも体術でも数段格上の次兄が実力行使を選べば末弟に逃れる術はほとんどない。
早く折れてくれると有り難いんだけどと内心呟きつつも、そのためにもコンラートはここで手を緩めるつもりはなかった。

ぱしぃん!
「なっ、止めろ!離せっっ!」

「反省してくれたら離すよ、すぐにでも」
ぱしぃぃん!ぱしぃん!
「だから何のことだ!痛っっ!止めろぉっ!」

「心配してくれと頼んだわけじゃない!」
「わかってる。けれど心配した、と言ったはずだけど」
「無茶を言うな!子供扱いするんじゃない!」
「子供扱いなんてしていない。むしろ周囲に配慮して責任を持った行動をしてほしいと」
「じゃあ、この扱いはなんなんだ!・・・止めろっ!」
「いや、だって俺、怒っているから」
だから、心配したんだって言っているだろう?

引き続き言い合う間にも、コンラートの手は止まらない。
真剣に叩きながらも、いやそれだからこそもう相当痛いと思うけど、とむしろ彼の側が弟を気遣ってしまう。だからといってもちろんここで手加減ができるわけでもない。

「痛っつ!・・・ユーリの心配をする必要なんてないと、何度言えば?!
そんなにぼくは信用されていないのか?!」
繰り返された幾度目かの同じ言葉。いや、同じような言葉でも、そこに表される感情の色合いは少しづつ変わっている。その言葉にコンラートは、強かに平手を打ちつけた。

「ユーリの心配じゃない。もちろんユーリの心配だってしたけれど」
ぱしん!

「お前の心配をした、と俺が言ってはいけないか、ヴォルフラム?」

「・・・・・!」
ヴォルフラムは反射的に言い返そうとした喉を詰まらせた。

弟をよく知る兄にとってはそれだけで充分な反応だった。
手を止めて、いい人を地でいく彼はさらりと逃げ道も用意してやる。
「ああ、うまく伝えられていなかったのならその点については謝罪するよ?」
爽やかに笑う彼に、一拍置いてヴォルフラムはもちろん反論したけれど。

「何を言っている!お前は誰の護衛なんだ!」
「もちろん、ユーリの」

膝の上から解放された弟は、呆れたような憤慨したような口調でまた言い放つ。
「まったく、上がへなちょこだと護衛もへなちょこになるんだな。
仕方ない、へなちょこな護衛でも仕事が果たせるよう今後必要な情報は入れてやる」

「それはどうも、協力に感謝するよ」
一見わがままな美少年にそれだけ言わせれば、充分どころかお釣りが来るぐらいだ。
笑いかけるとヴォルフラムはふいと視線をそむけた。

「それじゃ、俺はもう一度陛下と話してくるから」
話を途中にしてしまってきたから、むしろ向こうの方が気にしているだろう。
そう言って部屋を出ようとしたコンラートを、ユーリの婚約者は少々躊躇いつつも呼び止めた。

「コンラート、・・・・・お前、まさかユーリにも・・・?」
コンラートは立ち止まり、そして少し首を傾げる。
「いや、その必要はないと思うけど」
お前だって素直にしてればこんなことにはならなかったと思うよ、と言おうかと思ってそれを止め、代わりに彼は違うことを言った。

「陛下を庇い過ぎるのもどうかと思うんだが、ヴォルフ?」
即座に末弟の柳眉が跳ね上がる。
「そんなことはお前にだけは言われたくない!」
ごもっとも。いやギュンターにだって絶対に言われたくはないだろうけどね。

今度こそコンラートは笑って部屋を出て行き、ヴォルフラムは閉じられた扉に向かって悪態をつくことにしたのだった。


2007.10.13 up

感謝企画リクエスト、ふたつめです。
ご依頼はまるマの「コンラート×ヴォルフラム」でした。
おかげさまで、まるマを大人買いし、睡眠時間を削って読み漁って爆笑し、
いまでも思い返すとにやける(←あぶない^_^;)、たびたび読み返して続巻を待つ、
立派なにわか愛読者が一人出来上がりました(^^ゞ。いや楽しいです♪ありがとうございます♪

ということで原作への愛はあふれるほどありますが、
これが二次創作としてどうか、さらにスパ小説としてどうかというのはまた別の問題で・・・!

「こうしないと素直になれないのか?」ってお題をいただいていたんですけど、
こうしてもどうしても素直になってませんね^_^;。いやこれでも素直な方か・・・^_^;。
何だか何故か、ともかく彼にはユーリが不可欠だったのでこんな次第になりました。
地名は地球のもので、もちろん一切関係ありません^_^;。某球団のマスコットキャラも然り。

一応検索除けをしていますが、迷い込まれた純粋なファンの方が
おいででしたら深くお詫びします。ご寛恕ください。

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