「おやすみなさーい」
今日はクリスマスイブ。
とうさんも早く帰ってきてて、みんなでクリスマスのごちそうを食べて。
チキンにグリーンスープにマッシュポテトにそしてもちろんそれからケーキ。
シャンパン?じゃない、シャンメリーっていうの?しゅわっと甘いジュースも飲んで。
「サンタさんが来るから、早く寝なきゃね」
そう言ってかあさんは風太と雷太と早くにお風呂。
僕は逆にいつもよりちょっとだけ夜更かしさせてもらったんだ。
とうさんのおつまみのナッツをかじって、いつもとちょっと違うテレビを見て。
(でもさ、とうさんとかあさんが見る映画って、やっぱり僕にはつまんなかったり^_^;)
え、僕のところにサンタさんは来るかって?
・・・実は今年はすっごく欲しい靴があってさ、うん、拓海くんの持ってるのと色違いの。
どうしても口で説明しても分かってもらえる自信がなくて、先週買い物に連れて行ってもらったんだ。
だからさ、今年からは来ないよね。明日枕もとに置いてあるのはその靴だもん。
風太と雷太のところに「サンタクロースが」来るのかどうかは、僕には何とも言えないなぁ。
なぁんて話はともかく、そのうち僕は大あくび。
「さすがにそろそろ寝ないと、サンタクロースは来ないんじゃないか?」
とうさんにからかわれて、まあね、もう寝てもいいかもしんない。
で、さあっとお風呂に入って、それで「おやすみなさーい」だったわけ。
ところがね。
僕の、僕のっていうか僕と風太と雷太の部屋に戻ったら。
「あれぇ??」
とっくに寝てるはずのふたりがいないわけ。
枕もとには靴下。もちろん、まだ空っぽだけどさ。
おふとんにはふたりが抜け出した跡がぽっかり穴になっていて、さわってみたらもう冷たい。
・・・・・。
ええっと、まさか、ううん、まさかじゃないよね。
「サンタさん、えんとつないのに入ってこれるの?」
「来られなかったらどうしよう?」
「大丈夫だよ。ふつうに階段上って入ってくるよ」
そんな話、いつしたっけ。先週?もうちょい前だったかな。
すっかり忘れてたけど!だって適当に答えただけだったのに!
・・・。でも、たぶん、信じて探しにいったんだよなぁ、きっと。
うーん、どうしよう。
とうさんたちに見つかったらさ、それこそサンタさん来なくなっちゃうかも知れないよね。
仕方がないから僕は静かにジャンバーを着て、抜き足差し足こっそりと。
玄関のドアをゆーっくり開けようとしたら、そのとき。
「おい、大地、こんな時間にどこに行く気だ?」
「わっ!」
ついてない。
とうさんがちょうどリビングから出てきて、僕は御用になっちゃった。
「もう9時半だぞ?こんな時間に出かけようなんて、ちょっと羽目を外しすぎじゃないのか?」
「う、うん、・・・。」
「大地?何か言うことあるんじゃないのか?」
「・・・・・。えっと、あの、その」
えーっと、えーーっと、えっと。どうしよう!
ごめんなさいって言えばなんとかなるかな、風太と雷太のことばれずに済むかな?
叱られちゃうかな、やだな、でも、どうしよう?
部屋に戻されちゃったら、ふたりのこともどうせばれちゃう。
えーっと、どうしよう。探しに行こうとしたんだって言えば、叱られないで済むかもしれないけど。
うーー、でも、言えないかなぁ。
でも、そしたら、どうにかふたりをこっそり連れ戻しに行かないと。
でもそれってもう無理だよね。どうしよう、どうしたらいい?
頭が真っ白になった僕。
「大地?お尻に聞かなきゃいけないのかな?」
うーーー。やだけど!でもぉ・・・。
「・・・・・。」
やっぱり固まったままの僕の耳に、「あなた、どうしたの?」って
天の助け、かどうかはわからないけど母さんの声。
「いや、大地が、こんな時間に出かけようとしてたから」
とうさんが答えるのにかあさんは慌てた。
「え、あなた、じゃあ風太と雷太は?」
さすが、というかなんというか。
ばたばたと出てきたかあさんは、僕たちの部屋を覗いて「あなた!」って大声。
「え、二人ともいないのか?」
それは、父さんも慌てるよね。
「大地、二人がどこにいるか知ってるの?」
仕方がないから僕は首を振る。「わかんない。でも、たぶん階段のどこか」
「大地は家にいなさいね!」
言い置いてふたりとも出て行っちゃった。あーあ。ごめん、風太。ごめん、雷太。
ひとりで玄関にいるのもいやだから、僕もそっと外に出る。
叱られちゃうけどね。どうせふたりも叱られちゃうなら、もう、いいかな。
下で話し声がするから降りていくと、とうさんが風太を、かあさんが雷太を抱きかかえてた。
「まったくもう!いったい、いつから外にいたの?風邪を引くでしょ!」
かあさんはぷりぷり怒ってる、けど、ほっとしてるよね。
「にーちゃん、サンタさんいないよ?」
「サンタさん、来ないのかなぁ」
いまいち事態を把握してるんだかどうかわかんないふたりは、僕を見てそんなことを聞いてくる。
のんきだなぁ・・・・・うーん、でも、切実な質問かも。
なんて答えたらいいんだか、困るよぉ。
「当たり前でしょ!
こんな時間に外に出てかあさんを心配させるような悪い子のところには、サンタさんは来ません!」
うーー。そういう展開が、やだったんだけど。
「サンタさん、来ないの?」
「やだぁ、そんなの!」
泣き出したふたりに、僕は焦って。
「ええっと・・・泣くなよ。サンタさんが来るのは、ふたりが寝てからだからさ。
風太も雷太もいい子になって寝たらさ、きっと来るよ、ねぇ、かあさん?」
いっしょうけんめいかあさんに言ったら、かあさんは怒った顔をだんだん困った顔に変えた。
深呼吸。
「まずは、帰りましょうか。ほんとに風邪を引いちゃうわ」
ちょっと固い声だけど、どうかな、どうかな、大丈夫かなぁ?
みんなでお部屋に戻るとき、とうさんが風太を抱いてない方の手で僕の髪をくしゃくしゃってした。
だいじょうぶ、かな?
で、僕はさっさとベッドの中に追いやられちゃって、でもさ、眠れないよね。
かあさんとふたりはもう一度お風呂に入って、そしてそれからリビングでは二人の泣き声が聞こえる。
ぱしぃん!
「こんな時間に外に出るなんて!」
ぱしぃん!
「心配するだろ?」
ぱしぃん!
「「やぁ、いたぁい!」」
ぱしぃん!
「「ごめんなさぁい!」」
ぱしぃん!
どきどきしながら待ってたら、しばらくして、きぃっと子ども部屋のドアが開いた。
「さあ、ふたりともお休みなさい」
とうさんとかあさんが優しい声でふたりをふとんに入れるのに、僕はほっとしながらささやく。
「かぁさん?」
「あら、まだ起きてたの?・・・ううん、眠れるわけないわね。ごめんね」
「サンタさん、今夜来る?」
ふたりに聞こえるように尋ねた僕に、かあさんは小さく笑った。
「そうね、きっと大丈夫よ。ふたりともごめんなさいしていい子になったもの」
「いまからもう一度抜け出したりしなけりゃな」
とうさんがからかうように話す。
「ちゃんと寝るよ、ね!」
「「うん!」」
ふたりはいい子のお返事をしながら、でももぞもぞっと自分たちのふとんを抜け出して
僕のベッドに潜り込んできた。
「あらあら、まあ」
「まあ、抜け出すんでもそれくらいならいいか」
みんなが笑う。
「「おやすみ」」
「「「おやすみなさい」」」
ぱたん。
そっとドアが閉じられて、お部屋は真っ暗になった。
「でもさ、サンタさん見たかったな」
「にぃちゃん、見たことある?」
雷太のつぶやきと風太の疑問に、小さな声で答える。
「僕も見たことないけど、でもちゃんと来るから大丈夫だよ」
「「うん」」
僕も確かに、見てみたいけど。
見ようとすると、見れないわけだよね、サンタクロース。
不思議、だな。
でも大丈夫、見れないけれど、見たことないけど、明日はちゃんとサンタが来てる。
メリークリスマス、おやすみなさい。