満天の星の下、きょうはにぎやかなかぼちゃのお祭り。
子どもたちはみんな連れ立って街を練り歩いているっていうのに、
ここにはひとり、空と星座盤とにらめっこをしている男の子。
「どうしたの?なにやってるの?」
「見ればわかるだろ、星見てるんだよ」
「それはわかるけど、ハロウィンの夜にわざわざどうして?」
「だって今日くらいだろ、夜、外に出してもらえるの」
「そうなの?」
「何言ってるんだよ、このご時勢どこの親だってそう甘かないんだからさ、
お前の家だってそうだろ?・・・・・!」
それまで相手を見てもいなかった男の子。
ようやく星座盤から目を離し、背後の声へと振り返った彼が見たのは。
「ハッピー ハロウィーン!」
「?!!」
おおきなかぼちゃのかかしの魔物。
息を飲んだ男の子に、かぼちゃはにやっと笑いかけます。
もっとも、くりぬかれた彼の目や口が、動いたってわけじゃないのですけど。
「知ってた?きょうは魔物が出るんだよ?今日こそひとりはあぶないのにね。
だいたい、おとうさんもおかあさんも、君がひとりだなんて思ってないよね?」
「そ、そりゃそうだけど!もちろんみんなと一緒って言って出てきたけどさ」
「けど?」
「だって見たいだろ、フォーマルハウトとか大四辺形とか!
今は木星だって出てるしな」
「?? なあに、それ?空のこと言ってるの?」
「知らないのかよ、こっち座ってみろよ。
あっちの一番明るいのが木星だろ?その左の次に明るいのがみなみのうお座のフォーマルハウト。
上の方の、あの星とあれとあれと、その下の星がペガススの大四辺形。
分かるか?」
「あれってこれかな?四角い、かなぁ?あ、わかった、あれだね?」
指差したかぼちゃのジャックに、男の子は頷きます。
「そうそう、あんた、見込みあるじゃん。
みんなは全然興味なしだもんなぁ・・・・・だからひとりじゃなきゃ見れないんだ、わかるだろ?」
「君は星が好きなんだ?」
「うん、すげぇ好き」
かぼちゃの目の奥で、きらり、と橙の光がきらめいたようでした。
「まあ、確かに事情はよくわかったけどさ」
「ん、何だよ?」
「夜に外に出たいのも、ひとりでいたいのも分かったけどさ、
もいちど言うけど今夜は魔物が出るんだよ?
そうじゃなくてもおとうさんやおかあさんをだますのは感心しないね」
「だって!」
「だって、じゃないの。ちょっとおいで?」
「え?」
男の子がおどろくのも無理はありません、どうしてか彼の身体はふわっと浮いて、
そしてかぼちゃのジャックのお膝の上に。
まあ、膝なんてものが、ジャックにあればという意味ですけどね。
ぱちぃぃん!
「え、やめろよ、痛い!」
「そりゃあ、痛いと思うけど。だって君は、魔物じゃないもんね」
ぱちぃん!
「やだって!だって、星、見たいんだよ!しょうがないだろ?!」
ぱちぃん!
「見たいのは分かったよ。でも、だから嘘をついてもしょうがないの?」
ぱちぃぃん!
「だって、ほかに方法ないじゃん!良くはないだろうけどさぁ・・・でも!」
ぱちぃん!
「でも?だめだよ、よくないってわかってるなら言えることはひとつだけ」
ぱちぃぃん!
「だって!だって見たいのに」
ぱちぃん!
「見たいよね、だけど?」
ぱちぃん!
「う、・・・でも!」
ぱちぃぃん!
「でも?」
ぱちぃん!
「でも・・・。・・・・・」
ぱちぃん!
「うん、あとちょっと。がんばって?」
ぱちん!
「・・・・・・・・。う〜〜。だってだって、ほんとに、見たいのに!
そりゃ嘘ついて出てきたのは悪かったけど・・・けど!」
ぱちぃん!
「わかってるよ?だけど、それでも。言わなきゃいけないことは何だっけ?」
ぱちぃぃん!
「・・・・・。・・・・・・。・・・・・。」
男の子は、ぐっと奥歯を噛み締めました。
かぼちゃの持っていたランタンの灯が、ふたりの横でゆらゆら揺れています。
空には星。大好きだけど、見たいんだけど。
「だけど」って言われてること、わからないわけじゃない。
見たいんだけど。だけど、それでも。
ぱちぃぃん!
「・・・・・・。う〜、くそ〜・・・。・・でも。
・・・・・。・・・。わ、わかったよ、悪かったって!ごめんなさい!」
「ん、」
かぼちゃはまたふんわり男の子を浮かせて、そしてやっぱりにやっと笑いました。
「よくできました、おめでとう」
魔物に連れて行かれちゃうのは嫌だよねぇ。
ひとりでいるのはあぶないよ?
解放された男の子はお尻をさすって顔をしかめていましたが、
ジャックの表情につられて頬をすこし緩めました。
「ん・・・うん、ごめん。でもさ、」
「うん?」
そこで彼はあらためて、にやっとかぼちゃに笑いかけます。
「あんたと居たら、ひとりじゃないだろ?だからさ、もうちょい付き合ってよ」
悪くないね、とかぼちゃは答え、ふたりはしばらく満天の星を眺めました。
ランタンの暗く温かい橙の灯りを隣に置いて。
吸い込まれそうな高い闇に、男の子は時々星を指差して名前をジャックに教えます。
名前なんて付けなくたってさ、こんなに綺麗なのに。
にんげんって可笑しいよね。不思議だなぁ。
一緒に語られる星の温度や星との距離や、歴史や神話も楽しみながら、
かぼちゃがそんなふうにおもしろがっているなんて、
男の子が知ったら目を丸くするでしょうけど。
いつしかランタンの灯りも頼りなげに揺れ始めました。
そして「じゃあね」って囁き声とともにかぼちゃの気配が消えたとき、
男の子も名残を惜しみつつ、家路をたどるのでありました。