うん、いい香り、綺麗に焼けた。
しばらく寝かせてしっとりさせて。端を落として味見をしたら、うん、上々。
これなら文句は言わせないわよ。
「カステラ、焼けたわよ。食べてみなさいよ」
「はぁ?いったい、どうしたんだよ」
はぁ?それはこっちの科白だわ。
私には無理ってこの間さんざん馬鹿にしてくれたのも覚えてないってことかしら?
「あんた、自分が言ったこと忘れたの?」
「はぁ?何のことだよ?
とにかく、いまカステラなんて気分じゃねぇよ」
「ふうん、一週間も経たずに忘れちゃうような軽い気持ちで
純真なお姉様を傷つけてくれたわけね」
「純真なって、何言ってんの・・・?ん、もしかして怒ってる?」
「怒ってるわよ、ほんっとうに覚えてないの?」
「ぇ?わけわかんねぇよ。
あ、まさか先週TVの料理番組見てたときのこと気にしてんの?
てきとーに言っただけだろ、本気にすんなよ」
ぷちーん。
「許しがたいわよ、その発言。
あんたにその気がなくっても、こっちはしっかり傷ついてんのよ?!」
「だから、そんなのマジで受け取る方がおかしいだろ、って・・・
おい、ちょっと何すんの、やめろって!」
ぱしぃん!
「痛ってぇ・・・」
「違〜う。人を傷つけたら、ごめんなさい、でしょう?」
「あ〜、もう、勝手に傷ついたくせに・・・問答無用で叩くなよ、しかも定規で!
わかった、怒ってんのはわかったから!
ハイリョが足りませんでした、ゴメンナサイ。カステラも謹んで頂きますっ」
これでいいすか、って上目遣いに眺められる。
何だか適当な謝罪のような気もするけれど、そうね、まあ良しとしてあげる。
「わかればよろしい。それじゃ、リビングへどうぞ。ほんとに、自信作なのよ?」
「当ったり前だ!これで不味かったら、それこそ理不尽だろ」
そうかしら?人を傷つけたら謝りなさいって言っただけでしょ?
まあでも、美味しいのは当たり前って言ってるところは評価してあげてもいいかしら。
カステラを切りながら、彼の好みの濃いめのコーヒー。
甘い香りに囲まれた、姉弟ふたりの優雅な休日。
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