手の届かない、綺麗な光 

「人に向けちゃだめだよ。気をつけてね」
「はぁい」

幼い声が揃って、そしてパチパチと火花の散る音と火薬の薫りが辺りを満たした。
もちろん、子どもたちの歓声も。
手元から勢いよく噴き出す眩しい滝、四方に弾ける輝く松葉。
男の子たちは暗くなりきる前にとネズミ花火やヘビ玉に火を付けた。
きゃあきゃあと笑い声が響く。
大人たちもひとつふたつ火をつけて、談笑しながら炎を眺める。

「噴き出し花火をやろうか」
「僕が火ぃつける!」
いつしかとっぷり日が暮れて、炎は一段と鮮やかだった。

子ども達は花火から花火に次々と火を回す。
「わ、魔法の杖みたい!」
誰かが上げた歓声に、みんながわーっと真似をした。
花火を振ると光の軌跡が目に残る様は、なるほど魔法のようだった。

「あなたたち、あんまり、振り回さないでよ?」
大人の忠告は、いつも正しくてつまんない。
光で闇に絵を描く子どもたちは、花火を大きく右に左に波に平らに動かさずにはいられないのだ。

闇の中、輝くひかり。
大人たちは苦笑しつつもそれを眺めて楽しんで。
賑やかに穏やかな夜のひととき、涼やかな風が吹き渡った。

ところが。
「あ、いや!」
夜のとばりを裂く悲鳴。
「こぉら、!やめなさい!」
大きく花火を振り回していた。それでは飽き足らなくなったのか、に火を向けて。
きゃあ、とが逃げるものだから、ますます楽しくなって追いかけ回した。

、やめなさい!人に火を向けちゃ危ないでしょ!」
が叱るのも、いまのにとっては余計に楽しさをそそるだけ。
「待てぇ〜」
火竜がちろちろ炎を吐くみたいに、周りに構わず獲物を追った。

!」
は追いかけっこのただなかに踏み込む。の後ろに隠れ、は慌てて回れ右をしようとしたけれど、に首根っこを押さえられた。

、花火を貸しなさい。火が危ないってわからない子にはさせられない」
の怖い声にはすくんで「やだ…」と呟く。
逆にぎゅっと花火を持つ手を固く握った。

はそんなに言葉を重ねる。
「渡しなさい。無理には取り上げない、危ないからね。こちらに渡して」
今度の声は怖いというよりは、しいんと響く。
は夢から覚めたみたいにを見上げて、かぶりを振った。
はそれ以上は言わずにじいっと花火を見る。
ふたりが見つめる炎は強く輝き続け、そして消えた。

に手を差し出し、は黙って光の消えた魔法の杖をに預けた。
はそれをバケツに入れて、そしてと手を繋ぐ。
ふたりはそうして家に戻った。


、お膝においで」
厳しく言うのに「やだぁ」とがぐずるのももっともだ。
無理矢理抱き上げるのは簡単だけど、は少し考えた。

「嫌か。もっと遊びたかった?」

はうろたえてを見て、でもそれからこくんと頷いた。
そう思うんだけど、それは通らない、自分がを怒らせたのもわかってる。

「また遊べる」
ははっきりとそう言った。
どういうことだろう。そりゃ遊びたいけど、でも。
「遊べる。だからそのために約束してほしいことがある。わかる?」
「……。」

そこまで言われれば、…わかる。
頷こうか、やめようか。はだいぶ迷った。

うまく言えないけれど、それは「もうしない」って要はそういうことで。
分かっていてもそれを言うのは自分の非を認めることで。
素直に頷くのは難しい。

「火は綺麗だね。眩しい、そして熱い」
…うん。綺麗で、眩しくて、熱くって。だから大好きで、
…だから羽目を外した、たぶん。

「綺麗で、手が届かない。触れない。どうして?」
「…熱い、から」
「そうだね。熱い。触ったら、火傷する。火は怖い」

「ひとは火傷する。物は燃える。火事になったら、大変だよ」
が順々に話す、言いたいことはわかる、たぶん分かってる。
は怒ってる、はずなんだけど。
わーって怒って言われなくって、丁寧に説明しようとしてくれるのも、
うっとおしくもあるけど、でも、ちょっとほっとするかなって思ったりするけど。

けど、でも。

「…怖くなかったら、おもしろくない」
素直に頷きたくないんだ。
ねぇ。熱くて怖いなんて、分かってるつもり。

「……。」
言ったあとで自分で沈黙に竦んだのは、自分でもよく分からなかったけど。
けれど、はその言葉に頷いた。

「うん。たぶん、花火は少しだけ怖いから楽しい。
だけど怖いから、ケガをしない、させないためにルールがある。
従えないなら、遊べない」

ほんとは、わかってる。ルールがある。そして踏み外した。
けど、だけど。

がルールを守らないせいで、が火傷をするなんておかしいよね?
それに私は、が火傷をするのも嫌だ」
「…。」

に、火傷をさせたかった?」
ふるふる、と、は首を振る。そんなこと思ってないけど。
それにほら、現にそんなことにはなってないし。

「怖かっただろうね、きっとね?」
う。
それは、否定できないかも。

、全部ひと繋がりなんだ。
この先も、花火で遊びたいと思うなら。に、悪かったと思うなら。
おいで、こっちに。それで、もうしないって約束して」

…。
素直に、従いたくないんだ。でも。
には悪かったかなって、ちょっと。
…。

のわかってるの気持ちはぐちゃぐちゃで、ごめんなさい、もうしないって言い切れない。
けど。
…。

が黙って差し出す手に、そっと自分の手を出すことはできる気がした。

きゅっと握ったの手は、大きい。
ぎゅうって引っ張られたら、きっと抗えないのに。
手を繋いだままの顔を見つめる。

はその手をたぐるように、ゆっくりに近付いた。

「おいで」
お膝の上に伏せるのは、もっとずっと嫌なのにね。
…。
手をぎゅうって握って離したら、も離してくれた。
だから今度はひとりでこぶしを握った。

「いくよ」
ぱあぁん!
お尻がじんじんする。
ぱあぁん!
ぱあぁん!
ぐっと握った手のひらに泣きたい声を飲み込んで、は身体を固くしていた。

ぱあぁん!ぱあぁん!ぱあぁん!
叩いている間、は何も言わなくて。
確かにもう十分話したもんね。
ぱあぁん!ぱあぁん!ぱあぁん!
分かってるんだ、の言うこと。
素直にそう言えるかどうかは別として。

「最後ね」
ぱあぁぁん!
んっ!
分かっていても、やっぱり痛い。
ぐっと力を入れていた手をほどいて、はきゅっと目をこすった。

「もうしないって約束できる?」
頷いて、頭をこつんと小突かれる。
「声にしなさい」
「う、はぃ」
言ったら、もっとちゃんと言える気がして言い直す。
「ごめんなさい、もうしない」
はそれを受け入れた。

「そうだね。にも謝れる?」
「…うん」
はすこし恥ずかしそうに頷く。
がんばれ、って気持ちでの髪をくちゃっとした。

耳を澄ませる。
「まだ、みんな遊んでるみたいだよ」
行く?と尋ねるとうん!と返って、ふたりはもう一度、手を繋いで歩く。

謝ったら、ははいってさっきと同じ花火を一本分けてくれた。
「一緒にやるんだって、とってたのよ」
のお母さんが笑う。
「あ、ありがとう」
はふたり並んで花火に火をつけた。
手の届かない綺麗な炎が、眩しく輝いた。

2010.08.13 up
だからなんで長くなるんだ〜。ってか私、何が書きたいんだ!

・・・たぶんね、このお礼シリーズは、性別不問なこともあって、
ちょっと厳しめ&健気さんが書きたかったはずなんですけど、…。
ええ、そうはなってないですね。ずれたなぁ…。
まあでも、書きたいものを書きたいように書かせていただいたのです。
あれ、お礼なのにそれでいいのか?

50000Hitありがとうございました&これからもよろしくお願いします。

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