プリとAXのお話。




 言葉が出ない、とは正にこの事だ。
 自分の顔のすぐ真横に華楠の顔があって。
 ほっぺたに吐息が当たってる。
 髪の毛のいい匂いに理性を持って行かれてしまいそうだ。
 布団越しでも分る、華楠の身体のライン。その柔らかな膨らみ。
 華楠が言った、据え膳食わぬは男の恥、って言葉が頭を駆け抜けたけど心を無にして掻き消す。
 押し倒したんじゃない、押し倒したんじゃない、押し倒したんじゃない。
 華楠は寒い、と言った。
 ぬくもりを求めて俺の事を引っ張ったんだ。
 だったら俺は暖める事に徹する。それのみの為に生まれて来た人間になる。
 だから静まれよ、下半身。
「ど、どうしたらいい?俺」
「入って。布団」
 言われるがまま。そっと布団に忍び込む俺。
 自分のベッドなのにも関わらず、こんなに入るのに緊張するとは。
 入り込むと、布団の中は華楠の体温で熱くなっていた。
 こんだけ熱くなるくらいだと、かなり発熱してるんだろうから。
 ホントは冷やした方がいいと思うんだけど。
 本人が寒いって言ってて、あっためてくれって言ってるし・・・。
 こっちで正解なのかな。
 つぅか。逆らえませんよ。もう。
 出来るだけ華楠の身体に触れないように並んで横になってみる。
 手は無意識に胸の上で組んでいた。
 あぁ、カミサマ!ってか。
「ちょっちょっと待て待て待てっ!」
 何が起こったかと言うと。
 華楠が身体を横にして、くっついて来たっていう。
 なんかもう普段の華楠と違い過ぎるギャップとさ。
 今まで一度も無かったスキンシップが起こっていると言うさ。
 正直頭の中はパニック寸前な訳だよ。
 理性との戦いでもある訳だよ。俺頑張ってる訳だよ。
 腕に当たる胸の感触。想像以上に柔らかいです、カミサマ。
 いや、そうじゃなくて。
 俺は身を起こすと法衣を脱いだ。
 そして、仰向けに戻って寝ている華楠に上から被せる。
 この胸は凶器です。少しでもガードを・・・。
「・・・くっついちゃだめ?」
「前からはちょっと困る。後ろ、後ろからにしよう」
 もう・・・調子狂う。
 いつもキツイ口調の華楠が柔らかい口調で、可愛い台詞を吐く。
 それだけでなんか幸せな気分。
 素なのかな、これが。
 華楠はくるっと後ろを向いた。うなじが露になる。
 凶器2。これは仕方無い・・・仕方無い・・・。
「頭の下、腕入れるから」
「うん」
 法衣を脱いでしまったので、俺は上半身裸だ。
 嫌がられないかと思いながら。そっと腕を頭の下へ通した。
 頭を抱き寄せるように引いて、もう片方の腕は華楠の身体の上にかけた法衣の上から腰辺りに添える。
 これで、華楠を後ろから抱き締めて寝るような体勢になった。
「どう・・・?」
「うん、あったかい」
「よかった」
 なるべく自分の腰は華楠に近付けないようにした。
 いくら我慢出来ると言っても限界がある。
 それも、自分自身でコントロール出来るモノでは無いし。
 気付かれたらきっと嫌な思いをさせてしまうから。
 だけど。
「蓮。ありがとね」
「ん?」
「我慢。してんでしょ」
 逆に腰を引いてるのが不自然だったからなのか。
 華楠にはバレバレだったらしくて。
 とてつもなく恥ずかしい気持ちになって、それを何処にやったらいいか分らなくなった。
「腰、変にしなくてもいいわよ。驚かないから」
「馬鹿か。出来ねぇよ」
「そっか」
 言って笑う華楠。
 笑い事にしてくれて助かったと思えばいいのかどうなのか。
「変な気分。まさか蓮に抱き締められて寝るなんて」
「俺だって。抱いても居ないのに、まるでピロートークだぜ」
「そうよね。絶対何かされると思ったのに」
「毒瓶飲ませるっつったの誰だよ」
「そんなの冗談・・・」
 笑いながら。
 華楠が頭だけ、こっちを振り向いた。
 視線が合ってしまう。
 薄暗い部屋の中。至近距離。
 これはなぁ、もうなぁ。
 我慢するなと言う方が無理な話。
 引き寄せられるように顔を近付けて居た。華楠の頭を抱く腕にも力が入って居た。
 嫌がられても仕方無い。そう思った瞬間。
 触れた。口唇。
 それはほんの一瞬だったけど。
 確かに触れた。柔らかい感触が残ってる。
 至近距離で顔に吐息がかかる。
「いっぱい、我慢してくれたから。ご褒美」
 具合が余り良くないのか、乱れた呼吸で言いながら。
 華楠は笑って見せた。
 可愛い。すげぇ可愛い。
 俺、こいつ好きになって良かったな。良かったな、ホント。
「サンキュ」
 頭を戻して深く呼吸した華楠の頭を優しく抱き締める。
 華楠の身体はさっきよりも熱くなっている気がした。
 それは気のせいではなかったようで、華楠の呼吸はどんどん荒くなって行った。
 時々、うなされてるように呻き声に似た声を漏らす。
「大丈夫か、華楠」
「ん、何か身体熱い」
 寒いの次は熱い、か。
 副作用なんだろうな、やっぱり。
「ごめん、蓮。離れ、て」
「おう。冷やそうぜ」
「うん、そう、して」
 俺はベッドから出ると、冷蔵庫の保冷剤に使っていた氷の心臓を取り出してタオルに包んだ。
 多分、これでなんとかなるはずだ。
 相当熱いのか、布団を自分の身体から避けて俺の法衣も避けて。
 身体を捩っている華楠の頭の上にそれを置く。
 アサシンクロスの正装。
 頼りない胸の部分の布が気になってしまって、そこに薄手のバスタオルをかけてみた。
 万が一ポロリでもしてしまったら、どうしていいかわからない。
 華楠はそのタオルも取り払ってしまおうとしたけど、なんとか止めた。
「華楠、それはかけといて。胸出たら困るから」
「あ、うん。わかっ、た」
 華楠は器用に自分の身体にバスタオルを巻きつけた。
 視覚的には見えなくなったが、ラインが綺麗に出てしまった。
 ・・・まぁ、いい事にするか。
 しばらくして、頭の方が冷えて来たのか少し落ち着いたらしく。
 華楠はやっと少し眠ったようだった。
 それを見て、俺も一息つく。
 大変だな、アサシンクロス。
 毒瓶飲む度にこんななのか。
 いくら一晩で治まるって言っても、毎回こんなんあるんじゃ飲みたくなくならないか?
 由伊もよく飲んでるよ。耐性でも付くのかな。
 それにしても。
 腹減ったな、今の内になんか作っておくか。
 火をつけようと思ったタバコをテーブルに置いて、俺はキッチンへ向かった。



 一晩明けて。
 華楠は大分症状が落ち着いた。
 あの後は数回寒いのと熱いのを、即ち抱き締めるのと冷やすのを繰り返した訳だけど。
 朝気が付いたら俺は床に寝ていて、華楠は何故か怒って居た。
 それで、思った訳だ。
 あぁ、元気になったんだなと。
 でも、まだ熱はあるみたいだったからそのまま寝かせておく事にした。
 朝飯を作って食べて、多分あっちも似たような事になってるだろうから
 言い訳しに行こうかなぁと思った矢先。
『蓮ゴルァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!』
 その相手から大音量で耳打ちが飛んで来た。
 思わず耳を両手で塞ぐ。
 直接頭に届くモノだから、やっても意味は無いんだけど。
「どうしたのよ」
「や、呼び出し。ちょっと行って来る。元気出たら適当に帰っていいからな」
「言われなくてもそうするわよ」
 ふんっと顔を背けて、華楠はベッドへ背中を預けた。
 さてとー。
 大分怒ってるなぁ。口で来るか手で来るか。またはその両方か。
 怖いけど、行かないとな・・・。
『瑠玖さん、おはよっす』
『おはようやて?何を悠長に言うてんねん、クソが』
『俺も瑠玖さんに用事あって』
『お前の用事なんて知るか、ボケ!そんなん誰が聞くか、アホ!』
『うわ、酷い』
『酷い?酷いとは誰の事やろな。え?誰やろなぁ?』
『え、俺?』
『お前以外に誰が居んねん、カス支援』
『カス・・・』
『カスやなかったらゴミか。いや、そんなんゴミに失礼やなぁ』
『・・・』
『ゴミ以下やで、お前。嬉しいやろ?』
『・・・はい』
『もうええわ。とりあえず、Pv来い。ダッシュで』
『・・・はい、わかりました』
 口の後に手で来るのか・・・。
 これはあっちも相当な事があったんだろうなぁ。
 と言うか、多分ボス狩り行った事海月喋ったんだろうな。
 そうとしか考えられない・・・ああ気が重い。
 でも、遅くなったらもっと怖いから急ごう。
 俺は自分に速度増加をかけて、Pvルームのある宿屋へと急いだ。



 宿屋に着いたら、既に瑠玖さんは鬼の形相で待っていて。
 何かを言う間も無く後ろ襟を掴まれて連行された。
 俺も瑠玖さんもプリーストだけど、瑠玖さんは殴り型のプリースト。
 力は俺より遥かに強い。

 レックスデビーナ!!

 Pv部屋に着くなりいきなりデビーナを掛けられた。
 呪文封じの魔法。
 これで俺は一切呪文を唱えられない。
 そんな俺の目の前で瑠玖さんは、ニヤニヤと悪い笑いを浮かべながら
 自分に一つずつ支援魔法を掛けて行って、しっかりとフル支援。
 そして。

 レックスエーテルナ!!

 事もあろうに、ダメージが2倍になる魔法を俺にかけて、チェインで思い切り殴って来た。
「いでっ痛いってば、瑠玖さん!」
「痛くしてんねん、当たり前やろが」
 あーっこのサドーっ!!!悪魔ー!!!!!
 何度も何度も繰り返されて頭がくらっとしてふらつく。
 そこへ瑠玖さんがヒールをかけてくれる。
 しかし、それは決して優しさなんかじゃない。
 俺が倒れてしまわないように、殴れる対象が居なくならないように。
 ただ、それだけの為だ。
 俺も俺で少しVITがあるのがいかん。多少耐えてしまう。だから殴られる回数も多い。
 殴られるのを腕で庇いながら、無意識に呪文を紡いで居た。
 キリエエレイソンの呪文だ。
 瑠玖さんが鼻で笑ったのを聞いて、封じられているのを思い出す。
 もう、痛い。ただただ痛い。容赦ないよ、この人。
 でも、この痛さ。ただチェインを振り回してるだけだからに思えなくも・・・。
 いや、でも痛いのには変わらない。
「まさか、俺もこんな事に、なるとはっ思わなっ痛いっ!」
「あん?」
 必死に言いたい事を言ったら、瑠玖さんの手が止まった。
 俺の方はふらふら。瑠玖さんが情けとばかりにヒールを掛けてくれる。
 でも。
 脅すようにチェインの柄でほっぺたを叩かれる。
 目が怖いです、目が。その目!
「なんや、言い訳したいみたいやな?」
「言い訳っていうか・・・言い訳です、はい」
 言い訳、って言うので怒られると思ったので手を組んでお願いしてみた。
 出来ればもう叩かれたく無い。
 だからお願い、聞いて?瑠玖さん!
 懸命に、上目遣いも駆使してお願いしていたら、手の平で顔を覆われ押し返された。
 首に無理な力が加わりちょっと痛い。
「わかったわかった、聞いたるからその顔やめろ。キモイ」
「ありがとう、瑠玖さん!」
 お情けでも嬉しかったので抱き付こうとしたら。
 カウンターでチェインが脇腹に・・・。
 こ、これは・・・効いた。痛い。それはもう、涙が出る程に。
 思わず蹲って痛みに耐える。
 心配してくれたのか、ごめん、と呟いて瑠玖さんはヒールを掛けてくれた。
 実は優しいよね、瑠玖さんはね。俺知ってる。
「で?その言い訳は?」
「はいー。知り合いに攻城戦に出てるアサシンクロスが居るんだけど」
 と、俺は由伊の話を持ち出す。
 話すならまずはここからだろうと思ったからだ。
「そいつに貰ったんか」
「はいー」
 立って向き合ったまま会話する。
 会話に変なトコあったらまた叩かれそうな緊張感があるな。
 俺としては座ってゆっくり話したい所なんだが。
「華楠が転職したののお祝いとかで結構な数を貰ってしまって」
「ほぅ」
「そいつが言うには、アサクロになったら一度は経験しないと損だって言うので」
「ふーん」
「海月も飲んだ事なさそうだったから、どうせなら一緒にどうかなーと」
「それで、なんでボス狩りになんねん」
 やっぱりー!!!!
 それまで視線をあちこち彷徨わせて喋ってたのを、ボス狩りって言われた途端バチって見ちゃったよね。
 瑠玖さんの目をね、俺。
「いや、あの・・・折角攻撃力4倍になるならMVP行けるんじゃないかなーなんて・・・」
「軽ぅく考えた訳や」
「・・・はい」
 片手は腰に、もう片方はチェインを持って肩口でトントン。
 顎を斜め上に上げ見下すような視線で俺を見いる瑠玖さん。
 威嚇だ。これは威嚇だ。威嚇で無くてなんだと言うんだ・・・。
 叩かれる?俺また叩かれる?
 いや、でもでも。話はまだ終わってない!
「やっ、でもMVP取ったんすよ?海月!」
「知っとるわ。箱貰ったし」
 あー・・・そうか。あげちゃったのか。
 いよいよ話題が尽きてくる。
「で?結局何本飲ませたん」
「あー・・・4、5本です」
「そうやろなぁ、それくらい飲まな狩れへんやろなぁ?」
 ずいっと瑠玖さんが詰め寄ってくる。
 後ずさる俺。
「分ってんのか?お前はまだええとしても、華楠も海月もまだ70台やねんぞ」
「はい・・・後から気付きました」
「後からじゃ遅いねん!このどあほがっ」
 瑠玖さんがチェインを振りかざした。
 俺はある事に気付いて呪文を紡ぐ。
 一撃目。これは俺の身体にヒット。
 だが。俺は小さく唱えた。キリエエレイソンだ。
 デビーナの効果が消えて居たから唱える事が出来た。
 二撃目。光の盾が俺を守ってくれた。
 しかし、瑠玖さんも引かなかった。キリエの効果を消す魔法がある。
 それはパイプリーストにしか使えない魔法。

 アスムプティオ!!

 光の盾が消えて俺の身体は光のヴェールに包まれる。
 しかーし!
 この魔法の効果もキリエで消す事が出来る。
 ・・・それから。
 何故かわからないが俺達はキリエとアスムの掛け合いを魔法力が尽きかけるまで続けたのだった。


  #4→
 






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