廃プリとAXの昔話。


  それは人間としての欲求。



 せっかくオーラになるのなら、発行式をやろう、とマスターに提案された。
 瑠玖とは同じくらいに光るように経験値を調整していたので、多分枝でのモンスターでも光る事が出来ると思った。
 二人揃って承諾したら、あれよあれよと話が進んでしまってギルドメンバーも相当やる気満々。
 その日の内に発行式をする事になってしまった。
 俺達も数十本枝を用意したけれど、その倍以上の数の枝を用意されて
 マスターの時もそうだったけれど、やっぱりみんな枝を折って遊びたいんだなって思った。
 場所はマスターの時と同じくアユタヤになった。
 アユタヤは住んでいる人も少なくて、訪れる冒険者もダンジョンの方に行く人が多く
 街に滞在する人が少ない。海岸があるので、そこでやれば街の人達にも迷惑がかからないんだ。
「では、ポタを出しますよー」
 ザフィさんが青石片手に声を出した。
 張り上げる、と言う感じではなくていつもののんびりとした口調のまま。
 ざわざわしていたたまり場だったけど、みんな聞こえたのか一斉にそっちを向いた。

 ワープポータル!!

 ザフィさんはマイペースに呪文を紡いで、地面に魔方陣を出す。
 立ち上った光の柱。
 みんな次々にその中へと入っていく。
「楽しみやな」
「うん」
 瑠玖に肩を叩かれて、俺も光の中へと足を踏み入れた。
 降り立った所はジャスト海岸。マスターの発行式の時と同じ場所だった。
 あれからポタメモ変えてなかったのかな、ザフィさん。
「じゃあ、瑠玖と海月の発行式始めまーす」
 マスターが仕切ってくれる。
 マスターはもうハイウィザードになっていて、凄くカッコいい。
 転生職ってきっとどれもカッコいいんだろうなぁ。
 転生マジシャンだった時は可愛かったけど。
「あれか?二人で何本か折ってって、叩いて行ったらええの?」
「そうだね。二人とも殴れるしね」
 マスターの言葉に頷きながら、俺達はお互いが持っていた枝を大体半分くらいずつに分けた。
 相談して5本くらいずつ折って叩こうと言う結論になった。
 1本とかだと多分大したの出ないだろうから。
 二人で殲滅出来ないのが出た時は、無条件でみんなが手伝ってくれる事になっている。
「おっしゃ、じゃあ行くでー」
 瑠玖の言葉を合図にポキポキと枝を折った。
 出て来たのはポリンとかアサルトタートルとかカブキ忍者とか。
 中途半端な感じの奴ばかり。
 瑠玖と顔を見合わせて苦笑しながら叩いた。
 途中、ミュータントドラゴンが出て俺達じゃなくて周りのみんなに被害が出るっていう
 ハプニングがあったりしたけど。勿論みんなでフルボッコにした。
 最後のレベルアップは不本意ながら・・・。
「え?」
「え、今ので光った?」
 なんとドロップスだった。
 ドロップスが弾け飛んだ瞬間に頭上に浮かんだ天使と、身体に纏うように噴き出した光。
 おめでとうと言ってくれるみんなの声が完全に笑いを含んでいた。
 俺も自分で笑いを堪えられなくて、ホントはもっと感動する筈だったんだけどな。
「無いわー・・・。もっとええ奴で光らしてくれや。ドロップスとか・・・枝やなくてポリン島でよかったやんけ!」
「お前ららしくて、いいよ。すげぇいい」
「どう言う意味やねん、ごるぁぁぁ」
 笑いながら言うギルドメンバーに瑠玖は詰め寄って行くけど、ドロップスで発光が結構ショックだったみたいで
 全然覇気が無かった。襟を掴む事も無く、ただ身体ごと軽い体当たりをしているだけ。
 それを見て、みんな笑っている。
「何はともあれ、無事に光って良かったじゃない」
「はい、ありがとうございました!」
 自分の身体の周りを青白い光がゆらゆらと揺らめいていて眩しい。
 レベル99にとうとうなったんだ。
 もう少し、後もう少しで憧れのアサシンクロスになれる。
 その前にやる事もあるけど。
「瑠玖、海月ちゃん。これ、私達から」
「ん?」
「なんや?」
 白雪さんに呼ばれて振り向くと、彼女は手の平に悪魔の羽耳と天使の羽耳を持っていた。
 欲しいなぁとは思っていたけど、ヘアバンドを持っていたので我慢していた装備品だった。
 白雪さんは瑠玖に悪魔の羽耳、俺に天使の羽耳をそれぞれ着けてくれる。
「ちょお待て。何で俺が悪魔やねん。プリーストやったら天使やんか」
「いや、お前はそっちの方が似合ってる」
「海月は天使って感じだろ」
「うん、私もそう思うの。ごめんね、瑠玖」
「お前らなぁ・・・」
 言いながら瑠玖は俺の方を見て・・・。
 暫く俺を見詰めてから、何か納得したように頷いた。
 俺は別にどっちでもいいんだけど・・・。
 でも、みんなが言うように瑠玖には悪魔の羽耳の方が似合うかな。
 髪の毛の色が淡いから濃い色の方が似合う気がする。
「ありがとう、みんな」
「一人一人からの祝い品も考えたんだけどさ。白雪情報で、海月が欲しがってるって聞いてな?」
「そうそう。だったらみんなで買おうぜって話になって」
「そうなると瑠玖にも買わない訳行かないなって話なってなー」
 悪魔、天使のヘアバンド同様、羽耳も結構な値段がする筈だった。
 ちょっとだけ申し訳無い気持ちになったけど、同時にとても嬉しい気持ちにもなって。
 大切にしようと心から思った。
「そうやったんか。ありがとうな。大事にするわー」
「まぁ、転生したら暫く装備出来ないけどな」
「早く装備出来るように頑張るよ」
「あんまり頑張り過ぎるなよー」
「転生してからだと、ちょっと経験値大変だからゆっくりがいいよ」
 転生職のマスターからの助言。
 確かアリエルさんもそんな事を言ってたっけ。
 まぁ、多分。
 転生しても俺達のペースでやって行くんだと思うけど。
 そうしている間に誰かが枝を折ったみたいで、モンスターが現れてそれを素手でみんなが殴ると言うのが始まった。
 特に誰も何も言わないのに、始まるんだから。みんな慣れている。
 俺も混ざってみようかな、と思ったら瑠玖が近寄って来た。
「似合ってるわ、それ」
「?羽耳?」
「うん」
 指先で弾くように触ってくる。
 衝撃が小さく耳に伝わって、少しくすぐったかった。
「瑠玖も似合ってるよ。悪魔」
「悪魔言うな」
 俺も同じように触ってみたら瑠玖もくすぐったかったのか首をすくめた。
「まぁ・・・」
「?」
 瑠玖は突然目を伏せて、何か言い難そうに口ごもった。
 珍しいな、瑠玖がこんな風になるなんて。
 何を言いたいんだろう?
 暫く沈黙が続いて。
 いや、周りはわーだのきゃーだの盛り上がってるんだけど。
 瑠玖は口ごもったまま暫くそうしていて。
 突然、俺の腰を引き寄せて耳元で囁いた。
「お前は俺の天使やからな・・・」
「なっ」
 ぼって音がしそうなくらいの勢いで顔が熱くなったのが分かった。
 みんなが居るのに何を言うんだ、こんなトコで!
 でも、言った本人も相当恥ずかしかったみたいで。
 片手で顔を覆って、そっぽを向いて。
 俺の腰を離すと、両手を顔の前で交差して大きなバツ印を作った。
「無し!今の無し!」
 言いながら頭をぶんぶん横に振って後ずさって行く。
 その顔は真っ赤だったので、思わず吹き出してしまった。
 こんな瑠玖見た事ないや。
 相当恥ずかしくてばつが悪かったのか、そのまま俺の事を置いてみんなの所へ走って行ってしまった。
 天使、か。
「俺にしたら、瑠玖のが天使なんだけど」
 なんてね。
 プリースト捕まえて天使も何もあったものじゃないと思うけど。
 瑠玖は殴り型のプリーストだから。やっぱり悪魔が似合ってるのかな、と思いながら。
 楽しそうにモンスターを素手で叩くみんなの所に俺も混ざりに行くのだった。



 発光式と言う名の枝折り大会も終了して、みんなはモロクに戻った。
 俺達はプロンテラに用事があったので、アユタヤでみんなと別れた。
 去年瑠玖と天津で交わした、オーラになったら一緒に暮らそうっていう約束。
 それを果たす為に。
 事前に色々と調べて良さそうな空き家に目は付けて置いた。
 今の瑠玖の家より少しだけ広い、部屋が2つある家。
 住む所をプロンテラにしたのは、毎朝瑠玖が教会へ礼拝に行かなければならないから。
 殴り型でも聖職者。それは義務らしい。
 俺は別に何処に居たって構わない。
 アサシンギルドからはいつ呼び出されるかわからないんだし、
 呼び出されたらカプラサービスでモロクへ行けばいい。
 毎日瑠玖と一緒に居られるようになる。
 俺はただそれだけでいいんだ。
「いかがですか、お客様」
「やっぱええな、ここ」
「そうだね、日当たりも良さそう」
 俺がそう言うや否や、不動産の職員が日当たりの事について細かに説明をして来た。
 正直、セールストークは好きじゃないし細かい事はどうでもいい。
 早く決めてしまって、ここを自分達のモノにしてしまいたかった。
 初めてここを見に来た時は、男二人で住むと言うのに驚かれたけど
 瑠玖が紳士な対応をして、幼馴染なんだと言う印象を強く持たせるのに成功し
 今では不審がられる事も無くなった。
 家を買ってしまえば、不動産とも関わる事は無くなるしどう生活したって自由な筈。
「ええな、ここで」
「うん」
「はい、ではご購入と言う事で」
 職員が手をすりすり笑顔で寄って来る。
 瑠玖がそれに頷くと、すぐさま書類を取り出して契約を始めた。
 何か言い合いながら書類に記入している瑠玖。
 俺は難しい事は分からないので、隣で見ているしか出来なかったけど。
 こんな紙切れ1枚書くだけで、家が買えちゃうのか。
 俺が前に住んでいたのは貸家だったから、人との交渉だったもんなぁ。
 家賃もその人に直接払っていた。
 今回のこの家のお金はどうなるんだろう。
 お金は余裕を持って貯めてある。値段も調べてあるので、一気に支払おうと思えば払えてしまえる。
 でもそうなると札束が凄い事になりそうな・・・。
「では、頭金だけ先に戴きましてですね。残りの金額につきましては、3度に分けて集金に参りますので」
「はい、わかりました」
 集金。
 そんなシステムなんだ。
 瑠玖はお財布を取り出すと札束を出して枚数を数えた。
 2回確認した後で、職員に渡す。受け取った職員も2回、枚数の確認をした。
 値段は言えないけど、凄い枚数です。
「確かに戴きました。それで、お客様。お引越し業者の方の手配はお済で?」
「あぁ、それは自分らでやるんでいいですわ」
「そうですか。わかりました。それでは、私はこれで失礼させて戴きます。どうぞ、良い暮らしを」
 職員は深く頭を下げてから背を向けると部屋を出て行った。
 それを待っていたかのように、瑠玖が背中から抱き締めて来る。
「やったで、海月。俺らの家や」
「うん、そうだね」
 嬉しそうに頬ずりされる。
 まだ何も無い部屋の真ん中。
 後ろから抱き締められたまま、左右に揺れながら少しずつ回転して部屋を見渡す。
「部屋少し広なるからな。テーブルとかは新しいの買った方がええかな」
「俺、ベッドはあのままがいいな」
「そうか?もっとでかくてもええぞ?」
 瑠玖が言うには今のベッドのサイズはセミダブルで、二人で寝るには少し狭いのだそうだ。
 それならいっそ余裕のあるダブルサイズに買い直してしまえ、と言うのだけど。
 俺はその少し狭い状態がいいのであって。
 後、あのベッドのふわふわ感も好きだし。
 何より初めて二人で寝たベッド。無くなってしまうのは惜しい。
「まぁ、海月がそう言うんやったらそのままでもええか」
 密着して寝れるしな、と瑠玖は耳元で笑う。
 密着、と言う言葉にちょっとドキっとしてしまった。
 確かに、こうして抱き締められたりするのは嬉しい。
 安心するし、あったかい。
 でも、なんかこう・・・。ベッドに入ってる時の密着って言うのは。
 何と言うか・・・、いやらしく聞こえないだろうか。
 俺が気にし過ぎなだけかなぁ。
 と、言うか。
 俺と瑠玖だって恋人同士なんだし。
 そう言う事、があってもおかしくないとは思うんだけど。
 俺は女の子と付き合った経験が無いので、そう言う事にとても疎い。
 やり方を知らない訳ではないんだけど・・・知識としては知ってるんだけど。
 今だって、瑠玖とはキスするだけで精一杯。
 恋人として付き合い始めてもう1年経つのに、キス以上はした事が無い。
 男同士の場合、そう言う事はどうするのか。
 ・・・瑠玖は知ってるんだろうか。
「どした?」
「え?あ、いや。何でもないよ」
 返事した声が少しだけ裏返ってしまった。
「何でも無いって声違うやん。何ー、変な事考えとったんと違うの?」
「何でもないってば」
 後ろから瑠玖の顔が無理矢理俺の顔を覗いて来ようとする。
 それを目一杯首を反らして逃げる。
 すると今度は反対側に来るので、俺も反対側に逃げる。
 それを何度か繰り返して居たら単調な行動なので、先を読まれて待ち構えられて。
「ん、ぅ」
 キスされた。
 瑠玖の手に顎を支えられて、首を横に捻った体勢で。
 ちょっと苦しかったけど優しく口の中に滑り込んでくる瑠玖の舌先は温かい。
 最初はこの感触と動きに驚くばかりで、何も出来なかったけど、
 最近は俺も瑠玖の舌を自分ので舐めたり出来るようになって来た。
 まぁ、瑠玖に敵う訳は無く最終的にはされるがままになるんだけど。
「っは」
 口唇が離れると瑠玖は俺の頭を撫でた。
 その時、腰の辺りに何か硬めの感触がしたような気がして振り向いたけど、
 目が合った瑠玖はキョトンとして首を傾げているだけ。
 気のせいかな。
「さて、そろそろ荷物運ぶか。暗くなる前にとりあえず先に引越し終わらそ」
「おっけー」
 引越しはギルドのメンバーが手伝ってくれる事になっているので、
 俺達は外に出てポタでモロクのたまり場へと向かった。


  #2→
    






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