廃プリとAXの昔話。


 海月はプロンテラに戻って来た。
 瑠玖と二人で暮らす家は、首都であるプロンテラにある。
 家を買った後に、二人で作ったギルドのたまり場もプロンテラにあるので、丁度良かった。
 プロンテラの十字街は露店を開く商人でひしめいている。
 それを遠くに見詰めながら、海月は自分の家のある街の西側へ歩いて行った。

 首にかけた鎖を引いて鍵を取り出すと鍵穴に差し込んで回す。
「ただいま」
 ドアを開けて声を掛けると中から「お帰り」と声がした。
 今では当たり前になった事だが、昔の海月には縁遠い事だった。
 冒険者になってからはずっと独りでの生活。帰る家はあったが、それを待っていてくれる人間は居なかった。
 だから、家に入る時に「ただいま」を言う習慣が無く、始めは慣れなかったのを覚えている。
 入り口で靴を脱ぐとスリッパに履き替えて、ペタペタと「お帰り」と言ってくれた人の元へ。
 部屋の中はとてもいい匂いに包まれていた。
「何作ってるの?」
「おぅ、ビーフシチュー。いい肉売っとったから」
 オタマから指先で掬い取って、瑠玖はそれを「ほれ」と海月の口元へ。
 更にいい匂いがした。丁度お腹が減っていたので尚更だった。
 躊躇いもせずに、海月はそれを口へと含む。
「美味しい!」
「そうやろー?もう食えるから、手と顔洗って来い。すすけてんぞ」
 言われて自分の手を見てみると、指先が黒くなっている。
 今日は何処か埃っぽい所へでも行ったんだろうかと首を傾げる。
 海月はバスルームへ行くと手と顔を洗い、多分服も汚れているので黒い正装を脱いで楽な部屋着に着替えた。
 今日はもう狩りへ行く事もないだろうし、アサシンギルドからの呼び出しも無い。
 あるとすればギルドメンバーと会う事だけど、その時は代えの正装に着替えて行けばいい。
「なんか手伝う?」
 瑠玖の背後にぴったりと張り付いて聞いてみる。
 キッチンで動く瑠玖はちょっと動き辛そうだったけれど、邪魔だ離れろとは言わなかった。
 二人のこの距離間が、お互いに心地いいのだ。
「ほんなら、飯よそって?」
「おっけー」
 海月は食器棚から皿を取り出すと、炊飯釜からご飯をよそう。
 前の独り暮らしをしていた家には炊事用品から冷蔵庫から何から。
 自分の家で食事を作って食べる為の物が一切存在しなかった為に、海月は料理の類が出来ない。
 出来ると言えば、このように何かを何かに移すくらいのモノ。
 逆に瑠玖はどうやら自炊をずっとしていたらしく、料理はお手の物。
 なので、家事分担は料理を瑠玖が。その後の食器洗いやらの片付けを海月が行っている。
 決して不器用ではない海月なので、皿洗いくらいは見よう見真似で出来るようになった。
 テーブルの上にご飯を盛った皿を並べて、グラスに水を注いでその脇に置く。
 スプーンとフォークも準備して並べた。
 瑠玖がビーフシチューを運んで来る。
「大盛り?」
「勿論」
 二人してテーブルに付き、手を合わせる。
 これは瑠玖に習った。モノを食べる前には、食べ物を前にこうして手を合わせて「いただきます」と唱えるのが礼儀らしい。
 何故だかは分らないが、プリーストの言う事だ。きっと間違いはないのだろう。
 二人揃って「いただきます」と口にして、食事を開始した。
「美味しいなぁ・・・」
 海月が感動したように呟く。
「当たり前やろ。俺が作ったんやから」
 果たしてその自信は何処から来るのか。瑠玖は胸を張ってそう応えた。
 まぁ、努力の賜物である事は間違い無いが、大好きな海月の為に作っていると考えると
 愛情すらもスパイスになっているのかもしれない。
「瑠玖ってホント何でも出来ちゃうよね。何で?」
「何でって言われても。俺やから違うの?」
「答えになってないし」
 笑いながら海月は一口水を飲む。
 答えになってないと言われた瑠玖の方は、そうかなぁ?と首を傾げながら口にスプーンを運ぶのだった。
 他愛も無い会話をしながら食事を終えると、再び両手を合わせて今度は「ごちそうさま」と口にする。
 これも瑠玖から教わった事。礼儀作法に厳しいのも瑠玖のいい所でもある。
 今度は海月が仕事をする番なので、テーブルの上の食器を抱えてキッチンへ。
 瑠玖はタバコを取り出すと、火をつけて深く紫煙を吐いた。
 酒はとうに止めたが、タバコだけは止められなかった不良プリーストである。
「あー、そういえば」
「うんー?」
 椅子に座ったまま、瑠玖は海月の背中へと声を掛けた。
 海月は手元を見ながら声だけで返事をする。
「絢音がとうとうホム呼び出したそうやで」
「おお、そうなんだ」
 絢音はマーチャントでギルドに入って来た女の子。
 無事にアルケミストに転職し、今はよく十字街で露店を開いて居るのを見かける。
 その絢音が生命倫理を学び、ホムンクルスを作ったと言うのだ。
 ホムンクルスとはアルケミストにしか作り出せないペットのような生き物。
 しかし、通常のペットとは違い戦闘時に一緒に戦ってくれる心強い味方。
 そのホムンクルスにはリーフ、アミストル、フィーリル、バニルミルトの4種類と
 それぞれの亜種の計8種類が存在すると言われている。
 前に二人が所属していたギルド「風鈴の音」に居たアルケミストの白雪はアミストルを連れていた。
「何呼び出したんだろう?」
「あれや、バニル・・・」
「バニルミルト?」
「そう、それ」
 余り馴染みの無いホムンクルスの正式名称に一瞬戸惑ってしまった瑠玖だった。
 アルケミストは自分のホムンクルスに好きな名前を付けて呼んでいるので
 なかなか正式名称で呼ぶ事が無く、耳に慣れていないのだ。
 海月はいい記憶力のお陰かきちんと正式名称を覚えて居た。
「あれだよね、確かピンク色の四角いポリンみたいなやつだよね」
「そうやな。何や丸っこいの中に入っとってな」
 短くなったタバコを灰皿に押し付け、もう一本取り出してから、やめとこ、と仕舞い込む瑠玖。
 海月は皿洗いが終わったのか、タオルで手を拭きながら戻って来た。
 椅子は硬いので、二人してベッドに腰掛ける。
「何かお祝いしてあげた方がいいかな?」
「せやなー。でも転職祝いしたばっかしやで?」
「あ、そうか」
 絢音はつい先日アルケミストに転職したばかりだったので、そのお祝いをギルドメンバーみんなでしたばかりだった。
 沢山のプレゼントに囲まれてとても嬉しそうにしていた顔が頭に浮かぶ。
 マスターとサブマスターの位置に居る二人は何か出来やしないものかと頭を悩ませたが
 お祝いにお祝いの連続では、祝われる方も気後れしてしまうのでは無いかと言う結論に辿り着いた。
 唯でさえ絢音は控えめで引っ込み思案な方だ。みんながおめでとうと祝っているのに
 逆に「すいません」などと言う姿が容易に想像出来てしまって、瑠玖は苦笑する。
「あれ違う?会うたら一言、おめでとうくらいで良いん違う?」
「そうだね」
 海月はそれに頷いて、ごろんとベッドに背を預けた。
 満腹で身体の疲れも丁度良く、眠い。
 それを見た瑠玖も同じくベッドに背を預けて顔を海月へと向ける。
「なんや、眠い?」
「うん、少し」
 海月が笑って見せると、瑠玖はがばっと海月に覆い被さった。
「何、瑠玖。重いんだけど」
 笑いを含ませながら言うと、瑠玖はくんくんと自分の匂いを嗅いでいた。
 別に臭くは無いと思うけどなぁと思いつつ、首元にある頭に手を伸ばしてみる。
 自分の髪の毛よりは少しだけ硬いそれを指に絡めて弄んでいると、突然首筋を舐められた。
「ちょっとぉ」
 びくっとなった自分の身体が恥ずかしい。
 まぁ突然の事なので仕方が無いが、こう言う事をされるのはまだちょっと慣れなくて恥ずかしいのだ。
 瑠玖の肩を押して無理矢理に身体を引き剥がす。力では海月の方が若干強い。抵抗しようと思えば勝てるのだ。
 身体が離れて目が合うと、瑠玖はぺろっと舌を出して笑って見せた。
 その気は無く、悪戯の範疇だったらしい。心中でほっと息をつく海月である。でも顔はムっとして見せた。
 だってびっくりしたし、恥ずかしかったから。
「可愛い悪戯やん。そんな顔すんなやー」
「可愛くないよ。そんな悪戯する人はあっち行け」
 しっしと手で追い払う仕草をして見せる。
 その海月の姿に一瞬だけ瑠玖は目を丸くし、でもその後すぐにやりと笑って。
 身体を起こした。
「ほんまに行ってええの?」
「・・・」
「離れてもええの?」
「・・・」
 海月は何も言わない。
 口でそうは言ってても、瑠玖が離れては行かない事を分っているから。
 少しくらい自分が拗ねても大丈夫だと思って居るから。
「・・・海月の事、独りにしてもええの?」
 その台詞にドキっとして跳ね起きた。
 瑠玖の事を見ると笑ってはいるものの、ちょっと目が真剣に見えなくも無かった。
 心臓がドキドキした。冗談だよね?と心中で瑠玖に問うた。
 独りになるのは嫌だった。凄く凄く嫌だった。
 やっと一緒に居られるようになったのに、また独りになるのかと思うと淋しくて怖かった。
 取り残される、置いて行かれる。
 そんな気持ちが駆け巡った。
 久し振りに涙が出てしまいそうになった。
「・・・やだ。独りにしないで」
 瑠玖の腕を掴んで。ぎゅっと掴んで、下を向いて懇願した。
 それを見て瑠玖は満足そうな顔をした。
 掴れている腕を空いている片方の手でそっと解いて。
 それから両腕で海月を抱き締めた。
「よく言えました」
「何であんな事言ったの?俺が独りになるの嫌なの知ってるくせに」
「お前があっち行けなんて言うからやん。傷ついたで?俺」
 言われて海月は言葉に詰まる。
 自分では軽く言った言葉。でも、瑠玖にとっては少し重かった言葉だったんだ。
 自分が瑠玖の傍に居たいと思うように。瑠玖も自分の傍に居たいと。そう思ってくれていると。
 改めて感じた瞬間だった。
「ごめん、瑠玖」
「いやいや、俺もごめんな」
 海月は瑠玖の背へ手を回し。
 瑠玖は海月の頭をよしよしと撫でた。
 暫くそうしていて。
 瑠玖は海月の呼吸が静かな寝息に変わったのに気が付いた。
 抱き合った体勢のまま、海月は眠ってしまっていた。
 さっきの事と、瑠玖の体温で安心してしまったのか。
 そういえば、眠いとも言っていたな、と思い出す。
 抱き上げてそっとベッドに下ろした。
 体勢を変えても目を覚まさない所を見ると、よっぽど眠かったのか眠りは深いようだった。
 アサシンギルドに行く前に十分に狩りにも行った。
 今日はとても疲れたのだろう。
 窓の外は真っ暗で遠くで露店街からだろう声が微かに聞こえて来る。
 瑠玖も狩りで疲れて居たので、今日は眠る事に決めた。
「ほんまは寝かさんつもりやったんやけどなぁ・・・」
 呟いてからまぁいいや、と蝋燭の火を吹き消してから、自分も海月の隣に潜り込むと腕をその頭の下へそっと通し抱き寄せる。
 柔らかな金髪の感触を弄びながら、おやすみ、と告げて眠りへと落ちて行った。


 これからもずっとずっと。繰り返し続いて行く二人の大切な日々。




  終。




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 ぎゃーーーーーーーー。やっと!!!!やっと終わったあああああああああああ(; ´Д`)=3
 正直もう終わらなくてどうしようかと思いました。いやはや、長すぎる。これはショートショートじゃないよー。
 ねー。もう。どうでしたか。読むの途中で飽きちゃったんじゃないかなって思います。
 うpする時これは1ページ毎にリンクを貼って置く事にしますので(ってここで言っても仕方無いが
 休憩を挟みつつ読んで戴ければ幸いです、はいー・・・orz 一気読みは多分身体に悪いです。
 このお話は、瑠玖と海月の馴れ初めのお話です。本当はっていうか普通は1発目に上げるようなモノですよね。
 二人が恋人同士になる前から話が始まったのでアサシンギルドの話も出て来ておりますな。
 この設定を考えるのは地味に楽しかったです。海月と華楠が昔パートナーだったって言うのは
 キャラクターを考えた時から決めていたんですけど、細かい設定はこのお話で決めました。
 そうしたら、蓮と瑠玖もプリースト同士なので知り合いの方がいいかなと。
 と、言うか前の話で「昔からの付き合い」としてあるので同期と言う設定にしましたwww
 アサシンギルドの話でちょっとグロい内容もあるので大丈夫かなぁと思いながら書いてたんですが、
 あれを書かない訳にはいかなかったので・・・苦手な方には大変申し訳なく。あれも含めてアサシンを愛してやって下さい><。
 まつもとは本当にアサシンが好きです。今回書いていて自分でも思い知りましたwww
 そしてびっくりした事にですね。大事な部分が抜けていますよね????
 BLには無くてはならない!とか言ってた筈のエロが無いじゃないですか!!!!!!!!!!!
 前の話で「ギルドを作った時に心も身体も繋がった」とか言ってたのに、
 すっかりすっぽりそこんとこが無いじゃないですか!!!!!!!!どうしたの????!!!
 なーんて、思った方。居ますか?居ませんか・・・。そもそも読んでる方が居ませんか(ノд`)
 まぁ、どちらにせよ。ご安心を。ちゃんと書きますから。この私が書かずして如何するか!!!
 初体験をネタに1本上げるつもりでいます。いつになるかはわかりませんが。
 ちゃんと形にしようと思っています。じゃないと瑠玖が可哀想だものね。

 と、言う感じで。瑠玖と海月の馴れ初め話でした。
 少しでもニヤニヤとして戴けたならば幸いです(゚∀゚)

 20100120/まつもとゆきる。


  モドル。
    






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