「お別れね」
は寂しそうにに公爵の顔を見上げて言った。
「嫌だ・・行くな!」
無歓は彼女をさらに強く抱きしめて叫んだ。
「どうして・・どうして・・もっと早く愛してくれなかったの?」
は激しい痛みをこらえながら、無理に微笑んだ。
「私は・・地上に降り立った時からずっと待っていたのに・・」
その黒い可愛らしい目と呼吸をするのさえ苦しそうな口は、真っ直ぐに無歓を見つめていた。
「様・・私のせいだ・・」
昆侖は彼女の力なく垂れ下がった手を、必死に握り締めながら嘆いた。
「私を奴隷から解放してくれたのはあなたなのに・・」
昆侖はこらえきれなくなって、大粒の涙を落とした。
「お願い・・二人を逃がして上げて・・」
はかすかに、そして、弱弱しく呟いた。
「何故、お前は他人のことばかり・・・!!!!」
無歓はこの期におよんで、なおも他人の幸福を願う彼女にくやしそうに叫んだ。
「嫌だ、死ぬな!!」
次の瞬間、彼女は大きく息を吸い込み、「ああ・・」と小さくうめくと
がっくりと首を垂れた。
「・・・何故だ!?」
「何故、私を置いて行ってしまうんだ?」
「私が愛していたのは傾城じゃない、お前なんだ!」
「それなのに・・どうして・・」
「!!」
無歓は冷たくなった最愛の女性の体を抱いて、男泣きに泣いて泣いて叫び続けた。
「お前!」
次の瞬間、最愛の女性を殺された復讐に燃える無歓は
もの凄い勢いで昆侖の胸倉をつかむと叫んだ。
「何をする!?」
昆侖は苦しがって叫んだ。
「この償いはしてもらうぞ、お前たち二人だけ、幸せになれると思うな!」
「殺してやる!」
それから後は、無歓の短剣が腰帯から抜かれる音、驚愕して、彼を突き放して飛びさすった昆侖、
絹を裂くような悲鳴を上げた傾城だけが残された。