はるか昔、満神は、空腹で戦場をさ迷っていた傾城に饅頭と、

全ての男から望まれる「絶世の美女」と「最も権威ある男の妻である最高の地位」を与えてやり

恵まれた将来を約束してやった。

「物好きな・・あの乞食の少女の運命を変えてやるとは・・それも何も見返りなしで」

そこへ、黒絹の羽衣と長装束をまとったが現れ、恨めしそうに言った。

「あなたは人助けが好きなお方だ。そして、天の神々全てに尊敬されている。
 
 それに引き換え私はほの暗い黄泉の国の底で、他の神々に忌み嫌われ死人の送迎をするとはな」

「この間は、雷神の王女誕生祝いに他の者は招かれたのに、私だけ招待状が来なかった・・」

彼女はぶつぶつと、十二神の中で唯一親切にしてくれる姉のような存在の満神に愚痴をこぼした。

「まぁ、そう怒らないで。私の時はちゃんとあなたを招待してあげますよ。

 それに、あの少女のことですが、何もただでしてあげたのではないですよ。

 全ての男に愛される代りに、真実の愛を手に入れることは決して出来ないことを引き換えにね」

満神はぶつぶつと愚痴を呟くをなぐさめながら言った。


は懐かしかった過去を回想していた。

そして、彼女はまだ生きていた。首をがっくりと垂れ、もう一センチも動く力が残っていない徐々に冷たくなっていく体で、頭上で二人の男が短剣と短剣を交えるの音を

聞いていた。


とうとう決着がつき、二人の男は互いの体に短剣を突き刺し、あおむけにひっくり返った。


・・今行く・・」

「傾城!やはりお前は愛をつかめないな」


桜の木の下で、ぐったりと寄りかかっている昆侖から離れ、口から鮮血をだらだらと

流しながら四つんばいになって懸命にはってこようとしている無歓は狂ったように呟いた。


だが、彼女のところにたどり着く前に、ひどく痙攣したかと思うともんどりうって絶命した。




「昆侖・・私はもう長くない。これを羽織って飛べばいい・・傾城・・の」

は手探りで無歓の頭を抱き寄せると、最後の力を振り絞って、着ていた天の羽衣を

刺された腹部を押さえている昆侖に蹴ってよこした。


そして、今度こそ本当に力尽きた。


四個の死体が転がった裏庭は急に静かになった。









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