一人取り残された傾城はかつてあれほど愛した光明大将軍の遺体に取りすがって泣いていた。
その背後をが最後の力を振り絞って蹴ってくれた羽衣を
つかんで羽織り、ひゅうっと飛び立つ昆侖の姿があった。
彼はわらをもつかむ思いで、黒長石のタイルの上に立てられた
衣装掛けにあった孔雀の羽の黒衣をえいやっとつかんで引っ張った。
黒衣は派手な音を立てて衣装かけから落っこち、彼は
黒衣の一端を手に取ると自らの体に羽織った。
すると不思議なことが起こった。
空に急に雷雲が立ち込め、パラパラと雨が降り出したのだ。
雨は一滴、二滴ごとにひゅんひゅんと音を立てて
金色、銀色、虹色の光線に変化し、や公爵、光明、傾城の黒髪に
降り注いだ。
王宮近くの大河の水は逆流し、どっと分厚い水壁となって
王宮に押し寄せた。
そして、暗雲と暗雲の間からからすっと黄金のカーテンがひかれ、そこから
満神が羽衣とはためかせ、千切れ雲を蹴散らしながら地上に降りてきた。
「・・私の負けです。賭けはあなたの勝ちです」
「可愛そうな方・・こうなることを分かっていて自らこの道を選んだのですか?」
彼女は地上にふわりと降り立つと、何ともいえない表情で白絹の宮廷衣装に
身を包んだかつての冥界の女王(死神)を見下ろした。
「それほどこの者を好きだったのね・・」
「彼女は生き返らないの?」
今や見事に生き返った昆侖の腕に抱えられた傾城が、横から問いかけた。
「無理です。私は確かに彼女と賭けをしました」
満神は傾城の方をゆっくりと物思いにふけるように眺めて語り始めた。
「もし、傾城から公爵を見事振り向かせられたならば、勝ちとみなし、完全な人間にする」
「だが、公爵と傾城がお前より早く、互いに思いを通わせられたのならばお前の負けとみなし、死をもって償ってもらう」とね」
「そして、彼女は見事に賭けに勝ちました」
「公爵が彼女を本当に愛したその刹那、彼女は完全な人間となり、全ての魔力、死神の特権である不死の命を失いました」
「つまり、完全な人間になってしまった彼女に生き返る特権はなくなったのです」
「だが、運命は変えられます。昆侖、あなたの力によってね」
彼女はそこでちらと今や立派な戦神へと生まれ変わった昆侖を見た。
「天に帰って、罰を受けるのは私一人でいいでしょう」
運命を司る神、満神は寂しそうに最後に言い残すと、白い薄手のドレスと
薄桃色の羽衣をはためかせ、再び天へと帰っていった。
やがて、昆侖と傾城はかつての女主人、恋敵に最後の別れを告げ、
孔雀の黒衣と天の羽衣をはためかせ、互いに手を取り合って、
分厚い水壁を突き破り、時空を超え、天高く飛び去っていった。
翌朝、よく晴れた素晴らしい日の下でと無歓は折り重なるように
して倒れているのを部下の兵士に発見された。
「おい、誰か、誰か来てくれ!」
「公爵様と妃が倒れているぞ!」
「誰かいないのか?」
部下の兵士の一人は大声を張り上げて叫んでいたが、王宮から裏庭まで遠く離れている為
ちっと舌打ちすると大急ぎで槍をかかげたまま、うさぎのように飛んで助けを呼びにいった。
「生きている・・私はあいつに刺されたはずなのに・・何故だ?」
宮殿の近衛兵が行ってしまうと、お気に入りの長椅子にと共に仲良く折り重なっていた公爵は、ゆっくりと起き上がり、血まみれだった白絹の服が
綺麗になっており、胸の深い刺し傷までも消えてることにきづいた。
「満神、昆侖・・運命を変えてくれたのね・・」
「ありがとう・・」
その時だ。
もようやくぱちりと目を開け、柔和な微笑を口元に浮かべて呟いた。
その言葉を耳にした公爵は、驚愕して意識を取り戻した彼女をしげしげと眺めた。
「。もう一度選ばせてやろう・・私と暮らすか、私を裏切ったあの時のように死を選ぶか?」
公爵は意地悪そうな笑みを浮かべて、さっと彼女に覆いかぶさって尋ねた。
「もう一度生きられるのなら一緒にいるわ」
「よく言った・・」
彼は彼女に向かって腕を伸ばした。彼女も腕を伸ばし、公爵を自分の胸に引き寄せた。
運命は変えられる。時には川の水が逆流し、春に雪が降るように。
たとえ、死神と人間の運命だって。
命はまた巡り来るものなのだ。
――完――
*あとがき*
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。長い間更新できずすみませんでした。中国映画に今回初めて挑戦したのですが、
書いてて最初のうちは楽しかったのです。・・が、結末に差しかかるにつれて苦しくなってきました。
まず、公爵が初めから好きではなかったので、なんとか物語が終わるまでに好きになるように努力しました(笑)
ヒロイン、傾城、昆侖、光明のキャラクターは初めから結構好きだったんですが・・・なんでだろう・・こざかしい+おまけに部下を簡単に切り捨てる自己中とエゴの塊人間が私
が嫌いだからだろうな・・。おまけにこの作品の執筆途中にパソに保存していた無極DVDを誤って消してまう事故が起こり、
あとウェブ上で結構ショックな問題が持ち上がったりと、なにかとハプニングが多かった作品で「うわ、もう書かなきゃよかった・・」と
思うことが何度もありました。とにかくなんとか完結出来てよかったです。
応援メール、拍手ありがとうございました!続けられたのは皆様のおかげです^^