ディアヌ・クラウン・レコード店をあとにし、お土産にもらったショーロンポーの紙袋をガサガサ言わせながら

四人は「三本の箒」へと足を速めた。


「バタービールを飲むのが待ち遠しいわ!」

「私は是が非でもホットチョコレートを注文するわ!」

ハーマイオニーと が歯をガチガチしながら言った。

この日の気温は氷点下を下回っており、本当に立っていられないほど寒かったのである。



「そいじゃな」

三本の箒の洒落た看板の前でつぎはぎをあてたマントを着ている男達が

こそこそと立ち去ろうとしていた。


「マンダンガスじゃないか!」


ハリーは騎士団のなじみの顔に声がうわずった。


「あいや・・よぅ・・アリー、それに・・ 嬢ちゃんじゃねぇか・・」

マンダンガス・フレッチャーはあきらかに挙動不審だった。

右手に持っていた、柄がずれたトランクをバーンと取り落としたのだ。


「いーや、かまわずいっちくれ」


四人がバラバラに飛び散ったトランクの中身を拾おうとした時、マンダンガスは

慌てて中身が四人に見えないように覆いかぶさって、かき集め始めた。


「あれ〜このゴブレット、どっかで見たことがあるよーな気がするんだけど?」

だが、それより一足先に、ロンが自分の足元に転がってきた銀の見事な杯を拾い上げて呟いた。


「あんがとよ!そんじゃ皆、またな!」

マンダンガスはロンからゴブレットをひったくると、トランクの掛け金をかけるのも

そこそこに走り去ろうとした。


「待て!」

ドンッと大きな衝撃音がして、マンダンガスはあっというまにハリーに首根っこをつかまれていた。

「シリウスの屋敷からあれを盗んだな?」  ハリーは鋭く尋ねた。

「あれにはブラック家の家紋がついてるんだ」



「それにこれ、私がシリウスにあげた懐中時計じゃない!」

「ちょっと、あなた、こんなものまで盗むなんて、どういうつもり!?」


その時だ。マンダンガスの首にかけられた、シルバーの小さなあぶみのところにクリスタルの十字架がついている時計を見た瞬間、

の頭の中に失われたシリウス・ブラックの記憶の一部が、電工石火のようによみがえった。

彼女が現在、首にかけている時計はブラド女伯爵が新たに買ってくれたものだった。


、シリウスのことを思い出したのか?」

ロンがびっくり仰天して尋ねた。


「ええ、このこそ泥のおかげでね!一部だけだけど思い出したわよ!」

彼女は怒り狂って、杖を決闘用の剣のように引き抜きながら叫んだ。



「こいつ!シリウスが死んだ夜に の時計も、ゴブレットもその他、根こそぎ盗んだのか?」

ハリーは歯をむきだして詰め寄った。

「俺はうんにゃ・・そんこたぁ・・して・・なぃ」

「返して、今すぐ鎖を首から外して返してよ!」

が杖を脅すように振り、悲鳴に近い声を上げた。


バーンと派手な音がして、今度はハリーが弾き飛ばされた。

マンダンガスが姿くらましをはかったのだ。


「卑怯者!」

「戻って来い、このこそ泥!」


被害者二人はあらんかぎりの声で叫び、悪態をつきまくった。



「あれは私が、シリウスがバックに乗って逃げる時にあげたものなのよ!」

数分後、三本の箒でホットチョコレートをすすりながら、 は愚痴っていた。

「覚えてるよ。道中、日付が分からなきゃ何かと不便だって、君はいったよね」

ハリーがむっつりした顔で相槌をうった。

「シリウスのこと、さっきのことが原因で全部思い出したの?」

ハーマイオニーが鋭く聞いてきた。

「ううん・・全部じゃない。一部だけ。頭の中をちらっとよこぎったんだ」

はきっぱりと否定した。

「ルーピンのことはどうだい?未だに思い出せないのか?」

ハリーが親切心半分と、不安半分でこっそりと探りを入れてきた。

「全然だめ。あの先生のことはこれっぽちも思い出せないんだ」

は首をふりふり言った。

「ああ・・そう・・あの・・」

ロンが何か重要なことを話したそうにうずうずしていたが、ハリーは「ダメだよ」と目配せして

黙らせた。









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