どのぐらい時間が流れただろうか?
は真っ白なにこ毛(鴨の胸の羽)のコートが肩からずり落ちるのを感じて、目を覚ました。
「昆侖・・ここは寒いわ・・」
彼女は綿がぱんぱんにつまったクッションに顔をうずめながら呟いた。
「昆侖・・聞いてるの?」
静まりかえった夜の王城に彼女の声だけが響いた。
「昆侖?どこにいるの?」
彼女は暗がりに向かってむなしく叫んだ。
それに私はいったいどうしたのだろう?
彼女は数分後に全てを思い出すことが出来た。
公爵との夢のような晩餐、それから、デザートにあの可愛らしいサクランボの実の饅頭を食べて
気を失ったのだ。
それにこの柔らかな毛綿鴨のコート。
公爵がかけてくれたのに違いない。
傾城王妃が着ていたものと全く同じデザインだということが気に入らないが・・。
彼女は先ほどまで寝そべっていた金箔張りの長椅子から滑り下りると、
向かいの化粧台へと移動した。
長年のほこりが積もったペルシャ製の銀の水差し、ロシア製のルビー、サファイア、エメラルドをちりばめた
黄金のイースター・エッグ、中国製の紺碧の瑠璃杯。
目の前には純金で縁取られた鏡台がおかれてあった。
ここはたぶん王妃の私室なのだろうと彼女は瑠璃杯のほこりを払いながら思った。
彼女は物思いに耽るように突然、低い声で歌を歌いだした。
そして、静かに扉を閉めて部屋をあとにした。
そのころ昆侖は王妃の私室から何メートルも離れた地下の物置に監禁されていた。
彼は自分をきつく縛っていた縄を振りほどき、先ほどから懸命に脱出口がないか探っていた。
その時だ。上階からかすかに女の歌声がもれてきた。
「
様!」
彼はじっと耳を澄まし、その声の正体を突き止めて叫んだ。
彼女は王宮のレッドカーペットをしきつめた階段をゆっくりと歩いてくるところだった。
彼はゴホンと大きく咳払いすると、低い声で歌を歌い始めた。
上手くいけば女主人にこの声が届くかもしれない。