「お前は0歳の時に、両親を失った」
フェリシティー伯母は若草色の絹のスカートをつまんで、立ち上がると言った。
「そして、ホグワーツ五年生の時、お前の兄のような存在だったシリウス・ブラックとお前のところで働いていた
侍女とお前を育ててくれた伯母を失った」
「六年生、お前の義理の叔父、ヤン牧師も殺され、そして、お前もこの数年間、何度もあいつに命を狙われた」
フェリシティー伯母はゆっくりと小テーブルの周りを歩き回り、ゆっくりと言った。
「両親や伯母を殺したあいつに復讐したい、あいつを滅ぼしたいと思ったことはない?」
「あります。それは寝ても、冷めても忘れたことはありません。この数年間、ずっと」
は決然とした顔つきで言った。
「それが出来るのはお前とハリーだけ。二人ともここ数年、幾つもの苦しい試練を乗り越えて生き残った。
二人とも、並外れた勇気と行動力に満ち溢れているわ。そして、幾多もの誘惑を打ち切り、一度も道を踏み外さなかった。だから、ダンブルドア先生は二人を選んだのよ」
伯母は涙をためた目で、彼女を誇らしそうに眺めた。
「行きます」
しばらくして、はしっかりと声に出した。
「この先、どんな困難があるかは分かりません。ひょっとしたら、私達は帰って来れないかもしれない。でも、誰かが狂った殺人鬼にとどめをささないと
いけないんでしょう?これ以上、好き勝手に犠牲者を出せません。次は伯母さんかもしれない。
私は何度も死にかけた。だから、もう一度、死ぬのは怖くない。死は、思ったほど怖くはない。
ヴォルデモートは凄く恐れているけど。世の中には死より、もっと恐ろしいものがあります」
は賢そうな漆黒の目で、泣いている伯母を眺めた。
「お前は私が知っていた頃より、強くなったわね。あなたのお父さんそっくりの意思の強さを受け継いでいるわ」
「あの人も、お前と同じことを言っていた」
フェリシティー伯母はの額にかかる美しい前髪をなでながら、しみじみと呟いた。
「大丈夫。きっとあなたは成功する」
伯母はの体をしっかりとこの手にかき抱いて言った。
「何者もあなたの行く手を遮ることは出来ないわ」
「無事、戻ってきたら、また、癒術を教えて下さいね。伯母さんの授業、大好きです」
「ええ、約束するわ」
そして、二人はまた固く互いの存在を確認するように抱き合ったのだった。
「随分早かったの。姪御さんとのお話は済んだかの?」
ダンブルドア校長とハリーは、学校を抜け、ディアヌ・クラウン・レコードの入り口で待機していた。
「はい校長。私はこれから不死鳥の騎士団と共に学校の警備にあたります」
フェリシティーは頭を垂れ、優雅に挨拶した。
「をよろしくお願います」
「よかろう。この二人がいればまさに、鬼に金棒といったところじゃ」
「そうですね」
その言葉に、フェリシティーは軽く微笑んだ。
「生徒たちの安全ををくれぐれも頼むぞ。フェリシティー。あなたはここ数年始まって以来、最高の闇払いじゃからな。
今夜だけは、セブルス・スネイプと喧嘩せんように頼むぞ」
「すみません。校長」
「それではわし達は行く」
「道中お気をつけて」
そして、ダンブルドアは二人の生徒を従えて、その場で姿くらましをして闇に消えた。
フェリシティーは彼らが消えてしまうまで、深々と頭を下げていた。
潮の香りと岩に叩きつける荒々しい波の音がした。
まるで、今夜の彼らの気分を表しているかのような海だった。
ハリー、、ダンブルドアの三人は月光と星に照らされた
海岸に降り立っていた。
「ここをどう思うかの?」
ダンブルドアは出し抜けに聞いた。
「そうですね・・とても殺風景なところだわ」
潮風に踊る長い黒髪を一まとめにして、服の中に押し込みながらは言った。
「トム・リドルが育った孤児院の子供たちをここに連れてきたのですか?」
ハリーは不思議そうに言った。
「正確にはここではない」
「あそこに村が見えるじゃろう?孤児院の子供達は海岸の空気を吸い、海の波を見るために
そこに連れて行かれたのじゃろう」
ダンブルドアが筋くれだった指で、何マイルか先の村落を指差した。
「ここに来たのは、トム・リドルと幼い犠牲者だけじゃったのだろう」
「並外れた登山家でもこの岩にたどり着くことは出来ぬし、船も岸壁に近づけぬ。
この周りの海は気性が荒い。リドルは魔法を巧みに用いて、崖を降りた。
魔法がロープより役立ったことじゃ。そして、小さい子供たち二人を
脅す目的のため連れて来た。連れてくるだけで、充分、目的は果たされたと思うんじゃがな」
ハリーとは思わず身震いした。
切り立った高い崖に、激しく岩に向かって叩きつける波、辺りはどこまでも続く砂地だけで、
草木が一本たりとも生えていない。助けを呼んでもおそらく誰もこないだろう。
それは考えただけで怖いだろうと思った。
「さて、ここからは我々の目より、彼女の目が魔法よりも役立つことじゃろう」
「、わしの横に来て、何か見慣れないものが見えたらすぐに知らせるのじゃ」
ダンブルドアは打ち寄せる波しぶきをよけて、彼女を側に呼び寄せた。
そこからギザギザの窪みが足場になって、崖により近い、いくつかの大岩のほうへ下降していた。
半分、海に沈んでいるものもある。
ダンブルドア危険な足場をゆっくりと下りて行った。下の方の岩は海水でつるつるして、滑りやすくなっていた。
ハリーも相当気をつけて、歩いているようだったが、動物的感覚に優れているにとっては
なんら大変ではなかった。
「ルーモス、光よ」
金色に輝く鈍いガス灯のような光の玉が、水面に反射した。
「今から、多少濡れなくてはならぬ・・つまり、ここから先は泳いでいくのじゃ。かまわぬか?」
「はい」
二人は身震いしながら答えた。
「、君、服が濡れるの大丈夫?」
ハリーはチャイナテイストの真っ白なブラウスと、真っ青なジーンズを着用した
を心配そうに眺めて言った。彼女は何やかんや言っても、女の子だし、
水に長時間濡れるとなると、かなりの体力を消耗しかねない。
「平気。これからすることに比べればね」
その言葉が言い終わるか、否かのうちに、彼女は波間に飛び込んだ。
冷たい水が容赦なく肌を刺し、全ての感覚を鈍らせた。
ダンブルドアは杖を口にくわえ、見事な平泳ぎで泳いでいる。
そのあとに、こちらも歯切れの良いクロールでずんずん、前に進むがいた。