真夜中の校長室前はにわかに騒がしくなった。明かりが煌々と輝き、中から様々な人々の切羽詰った囁き声がする。

「先生、本当なんですか?伯母さんがーー伯母さんが意識不明の状態だって!!」

は夜の廊下をスリッパで疾走していた。


横には同じく寝ぼけ眼のジニー・ウィーズリー、それに彼女たちを真夜中に叩き起した張本人、

ミネルバ・マグゴナガルの今まで見たこともない厳しい顔があった。時刻は零時をとっくに回っていた。

。とにかくここでは詳しいことは話せません。話は校長室で。さあ、着きましたよ。フィフィ・フィズビー!」

マグゴナガルはあっという間に彼女たちを校長室前に運んでくると、硬く閉ざされた石のドアの前で合言葉を唱えた。

「ダンブルドア、二人を連れてきました。」

パッと扉が開き、三人は中になだれ込んだ。マグゴナガルは走ったので少し息切れしながら言った。

「おお・・・ミネルバ・・ご苦労じゃった!さあ、 、ジニーその椅子に掛けなさい。」

ダンブルドアは事務机に向かい、背の高い椅子に優雅に腰掛けていたが、目が深刻な事態そのものを物語っていた。

、ジニーは互いに目くばせし、ダンブルドアの薦めた椅子に腰をかけた。

彼女の斜め前には先客として、ハリー・ポッター、ロン、フレッド&ジョージ・ウィーズリーの三兄弟が粗末な木の椅子に腰掛けていたが

あまりに突然の事態に はショック状態となり、誰が誰なのか検討もつかないほどだった。

ウィーズリー三兄弟、ハリーはいっせいに後ろを振り返り、驚いた表情で を見つめていた。

真っ白なガウンに藤色の絹のベルトを締め、長い黒髪がゆらゆらと顔を覆い真っ青な顔で唇をギュッと固く結んだ彼女の姿は

どこか優雅であり、はかなげな消えてしまいそうな蝋燭の光を連想させた。


ハリーは酷く彼女を可愛そうだと思い、つい何時間か前の告白事件の心の痛みなど棚にやって、 の顔を同情するように見やった。

その視線に気づいた はフイと涙を見られたくないと思い、視線をそらせてしまったのだが。



「さあ、ポッター。いましがたのあなたが見た出来事を校長先生にお話しなさい。」

全員悲劇的な舞台の役者が揃ったのを確認して、マグゴナガルが言った。

彼は信じてもらえるだろうかと困惑しながら、それでもひとことひとことしっかりとした声で話し始めた。

彼は自らの夢で、騎士団任務遂行中のアーサー・ウィーズリー、ミナ・ブラド夫人がどこか分からない建物で

巨大な蛇に襲われたところを目撃した。ウィーズリー氏は腹を毒牙に噛まれ、大量出血、難を逃れたブラド夫人も

突然、部屋に乱入した謎の男に、鼻にハンカチを強く押し付けられ、意識不明になったもよう。

その後、新たに部屋に侵入した謎の女が蛇に立ち向かい、発煙筒を放って蛇の右目を焼いたことなど・・・。



彼の口から飛び出るナンセンスな話に、初めは皆、半信半疑でポカンと口を開けるばかりだったが、

ダンブルドアと だけは最初から今まで、真剣な顔つきで一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてていた。

は彼の予知夢らしきものに関しては、自分も同等の体験をしたことがあったのでひとつも疑う余地はなかったのだ。

「僕が蛇でした。全部蛇の目から見たんです。」

最後に彼はこう言って、締めくくった。


「アーサーは酷い怪我なのか?」ダンブルドアは腕をきつく組み、尋ねた。

「はい」ハリーは力強く答えた。





それからのダンブルドアの行動は速かった。

歴代の肖像画の人物(校長)を次々といろいろなところへ使いに走らせ、アーサー・ウィーズリー、ミナ・ブラド夫人の安否、消息

を確認させた。

「みんながその男と女を聖マンゴに運び込みました。私の肖像画の前を担架がすごい勢いで運ばれていきました。

 双方とも意識不明の状態のようです!」


聖マンゴに自分の肖像画が飾ってあるエバラードという魔法使いが息せき切って、校長室の肖像画に戻りダンブルドアに状況を

報告した。


、ロンはそれを聞いた途端、顔面蒼白で椅子からよろよろと落ちた。

その他、銀髪の魔女、でっぷり太った赤鼻の魔法使いが次々とダンブルドアのもとへ状況を報告しに来た。



その後、ダンブルドアは顔面蒼白で動けない 、ロンを自らやってきて椅子から立ち上がらせ、

机に載っている古いヤカンを杖で叩き、蒼い煙をぴゅーっと出させた。


「君たちをシリウスの家に送ろう。お父上、伯母上はすでに聖マンゴ病院で然るべき手あてを受けておる。

 病院へはそのほうが隠れ穴よりずっと便利じゃ。お母上とは向こうであえる。」

ダンブルドアはそこで手を伸ばした。不死鳥がスーッと開け放された窓から飛んできて彼の肩に止まった。



「さあ、ここに来るのじゃ。移動キーの使い方は分かるじゃろうな?」彼は手招きした。

ダンブルドアの問いに皆、黙って頷いた。

テーブルを囲んで皆、黒いヤカンに手を伸ばした。

「ワン・ツー・スリー!」






ドサ!ドサドサ!!


激しい衝撃音とともに皆、折り重なるようにして冷たい大理石の床に投げ出された。


「いたたた・・・ちょっとハリー!どこ触ってるの?それ、私の足よ」

がうめくように言った。

「あ・・ゴメン!」彼は真っ赤になって手を離した。

ハリーは落下したとき、白いサテンのガウンから突き出た、彼女の細い生足を掴んでいた。

「やだ・・フレッド&ジョージ!そんなとこ触らないで!!」またもや が悲鳴を上げた。


「ああっ、ゴメンよ!チクショウ!まっくらで何も見えないぜ!」

真っ暗な前も後も分からない暗闇で、折り重なって倒れた六人は一刻も早く起き上がろうと

手探りで、慌てて誰かの足や手を掴んでいた。


は周りをぐるりと見回した。

どうやらここはグリモールド・プレイスの玄関ホールのど真中らしい。明かりは全く皆無だ。

「もう、ロン!髪ひっぱらないで!!」

折り重なった幾つもの肢体の中からジニーの声がした。




「皆、そこにいるのか?」


「そうだよ!」皆が苦しそうに叫んだ。


「ちょっと待ってろ。明かりだ。ルーモス!!」


パッと杖に明かりが灯り、ボウッとグリモールド・プレイスの家主、シリウス・ブラックの顔が暗闇で浮かび上がった。



シリウスはまず、一番近くに倒れている を力強い腕でサテンのガウンの隙間に手を差し込み、片手をひざの下に入れて、軽々と抱き上げて

離れた床にそっと下ろした。

「ありがとう。」

ショックで憔悴しきっていた は弱弱しい声で、彼に礼を言った。


「皆大丈夫か?ここじゃ寒いだろうから、サロンで話は聞こう。」


シリウスは手短に言うと、立ち上がった六人を小サロンに案内した。

小サロンのロココ様式の扉をサッと開くと、彼は杖を何年も使っていなかった暖炉に杖を向け、炎を起した。


辺りが一斉に明るくなった。


皆は酷い蒼白な顔で、めいめいソファや肘掛け椅子に腰をうずめた。


ハリーはいつまでも黙っているわけにいかず、事の成り行きを説明し始めた。

は泣くまいと必死でこらえていた。

そんな彼女の隣に腰を下ろしたシリウスは、痛々しい傷心の彼女を見ていられずに、思わず彼女の肩に手を伸ばし、自分の胸に引き寄せていた。

 

彼女もその暖かい腕が嬉しくて、おとなしく彼の胸に頭をもたせかけた。

残酷な夜は長い。


 

 
















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