「殺したのは別の者。将軍の元奴隷だった男です」

傾城は将軍から目を離し、長老に向かって高らかに宣言した。

途端に大臣たちがざわついた。

その声を見計らったかのように、真紅の花鎧をまとった昆侖が法廷に現れた。

公爵はぐっと眉根を寄せ、は驚きの余り、あんぐりと口を開けた。

「馬鹿な!奴隷が王を殺したなどと誰が信じるんだ?」

意外ななりゆきに、光明はあわてふためいた。

「我らは信じないぞ!」

大臣たちがいっせいに袖を振って、異議を唱えた。

「信じるわ」

傾城は自信たっぷりに言った。

将軍の顔がさっと強張った。

「では聞こう。奴隷が王を殺す理由は何だ?」

公爵が言った。

「私が頼んだの」

傾城は嬉しそうに昆侖にしなだれかかりながら言った。

「彼は私の愛する人だから」

傾城は最高の微笑を彼に投げかけながら言った。

「嘘を言うな!」

大臣達がいっせいに異議を唱えた。

「あの夜、大将軍は戦で深手を負ったので、私が代りに花鎧をつけて王城に向かったのです」

昆侖はゆっくりと話し始めた。

「この人が王を殺した瞬間、私は一目で恋に落ちた」

傾城は将軍の方に向き直ると、語り始めた。

「そして、一緒に馬に乗り、崖まで逃げました」

「あなたは私の手を取り、こう言ったわね?」

傾城はものといたげに昆侖の元へ戻ると言った。

「死ぬなら二人一緒だと」

昆侖は一瞬、不思議そうな顔をした。

「そう言ったんじゃないんだ」

彼はちょっと照れながら言った。

「私は死ぬな、しっかり生きろと言ったんだ」

驚愕の真実に傾城の目は大きく開かれた。

光明と愛し合った夜、彼はあの時、「死ぬなら二人一緒だと」言ったと私に話してくれたのに!

あれは嘘だったのか!?それなのにこの男は、ぬけぬけと崖から飛び降りたのは自分だと

ほざいていたのか!


「王は本当にこの私が殺した」


昆侖の次の言葉はあまり耳に入らなかった。

傾城の目がかっと見開かれ、手は怒りのあまり震えだした。


「こいつを死刑にしろ!」

長老達がいっせいに叫んだ。

「そのとおり。そして、お前はこの女の為に崖から飛び降りた」

公爵が物知り顔で近づいてきて言った。

「前に言っただろう?お前は愛する相手を間違えてると」

「無歓、お前を殺す」

光明が静かな怒りを胸にたぎらせて言った。

「お怒りはごもっとも。私が間違っていました」

公爵はその言葉に、将軍の前に深々と頭を垂れて跪いた。

「たかが女の為に、王殺しなどしない。それでこそ崇拝するお方だ」


はこの成り行きを手に汗を握る思いで見つめていた。


「よくぞ大将軍の潔白を証明した。傾城。お前を自由の身にしてやる」

公爵はにんまりと笑うと、うなだれている彼女にそう告げた。


次の瞬間、小気味のよい音が響いた。

傾城が光明の頬をぶったのだ。

「光明、お前は自由の身には出来ない」

長老が言った。

「罪人どもを引っ立てよ」

その言葉にの顔がさっと青ざめた。

「あの三人はいったいどうなるのですか?」

閉廷後、元老達が次々と席を立つ中、は長老の元まで走っていって

尋ねた。

「処分の全権は公爵様が握っておる」

老人はそれだけ言うと、袖を引き引き立ち去ってしまった。

「無歓、あの三人をどうするつもり?」

は矛先を変えて、面白そうに彼女を眺めている彼に向かって言い放った。

「あ・・頭が・・」

その時だ。の目がかすみ、体全体からぐったりと力が抜けてきた。

「無歓・・私に・・何をした・・の?」

床にがっくりと手と膝をつきながら、彼女は薄れていく意識の中で尋ねた。

「お前の欠点は、珍しい食べ物に目がないことだ」

懸命に立ち上がろうとする彼女を小気味よさそうに眺めながら、彼は言った。

「昼、飲んだ蒸留酒の中に、睡眠薬を混入しておいた。以前に饅頭でこりたんじゃなかったのか?」

徐々に、床にくずれていく彼女に公爵はゆっくりと話してやった。

「これはじっくりと時間をかけて、体内に効き目が回るものなんだ。前、飲んだものはすぐに

 効き目が回るものだったがな。ちょうど裁判が終わる頃に効いたようだな」


「しばらく休んでいてくれ・・その頃には全てが終わる」

床に倒れるあわやのところで、彼は彼女を抱きとめるとその耳元で囁くように言った。












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