「もうやめろ!」
美朱が半透明の氷の像に成り果てようとした時、鬼宿が見かねて
助けに駆け出そうとした。
だが、彼は見えない壁に跳ね返されてしまった。
「馬鹿が!周囲の氷壁が目に入らないのか?」
「その氷壁は火や聖剣でも割ることは出来ん」
斗宿は翼宿、に挑みかかるように告げた。
「お前が本当の巫女なら一人で己の氷を砕くことが出来るはずだ」
だが、鬼宿の哀願をよそにとうとう朱雀の巫女は完全に凍らされてしまった。
「残念だが、これではすぐに息が止まるな」
「、どうやらこの娘はお門違いだ。あんた・・仕える相手を間違えたな」
斗宿や虚宿が哀れむようにかつての白虎七星士を見るのが分った。
「いいや違う。彼女ほど強い巫女はいない」
「美朱!ここで負けてどうする?柳宿は何のために命を投げだしたの?その腕輪に誓って
神座宝を持って帰ると約束したんじゃないの?」
「美朱・・お願いだから何とか言いなさい・・」
氷壁の前に崩れ落ちそうになったを鬼宿が慌てて支えた。
どのぐらい時間が長く感じられただろう。突如、朱雀の巫女を覆っていた分厚い氷から紅い閃光が発せられた。
閃光は氷を内部から粉々砕き、彼女を暖かい地上へどさりと投げ出した。
斗宿は驚愕し、急いで巨大な氷壁の呪縛を解いた。
「良かった・・でもどうやって私達でも壊せない氷を割ったの?」
「分らない。頭の中で柳宿の声がして、それから急にこの腕輪が光りだして。きっと私を守ってくれたのかも」
駆け寄って巫女を抱きしめる際に、誤って両胸をわしづかみにしてしまった鬼宿をどついてから
は優しく尋ねた。
「痛えよ・・お前、結構マジでやったな。あれ偶然なのに・・」
彼女に鞘に入ったままの剣で思いっきり殴られた鬼宿は頭を抱えて
うめいていた。
「あなたはまことの巫女です・・その力は紅い朱雀の光を帯びていた。
我々もしっかりとこの目で朱雀の力を見ることが出来ました」
斗宿は全てを悟った声で力強く美朱に呼びかけた。
「皆さんには大変失礼なことを致しました」
「しかし、七星の名を語るお宝目当ての不届き者も多いので念のため試させて頂いたまでです。」
斗宿は「あなたはいい方に恵まれましたね」とに目を向けてからこんな不愉快な
ことをするはめになった無礼をわびた。
「白虎の巫女とその七星達が立ち寄って以来この扉は閉じられたまま」
「我々の思念によってのみ、ここをお開けすることができます」
斗宿と虚宿が頑丈な石の扉を開けてしまうと式典用の大広間があり、
足元には緋のふかふかした絨毯がしきつめてあった。
玄武七星の二人が式典用のひきしぼったレースのカーテンを開けてくれ、
紫水晶の儀式用首飾りが安置されているケースのところまで朱雀の巫女を案内した。
「玄武の巫女が玄武償還の儀式の際、身に着けた首飾りです。神獣を呼び出す巫女の力が宿っています」
紫水晶の黄金のちっちゃなの留め金がついた首飾りを、喜びにむせいで手にする朱雀の巫女に斗宿は説明してやった。
「あの〜すみませんが、それだけで朱雀は呼び出せませんよ。何でも西にある西廊国の神座宝と二つ揃えなければ
それぞれの力が現れないといわれてます」
虚宿は歓声をあげる巫女や七星士達に困ったように呟いた。
「あれ・・何か急に雰囲気が・・」
「俺、何か悪いこと言いました?」
「言いましたとも。情報不足の人達に利くいい薬にさぞかしなったでしょうよ」
朱雀七星達が天国から奈落の底にまで突き落とされ落ち込んでいる有様を、玄武七星の二人が
不思議がっているのを白虎七星のはおおいに頷いて教えてやった。
「何の為に白虎七星とその巫女がいると思ってるんだか・・」
「お前〜気づいてたら早う言わんか!なあ、タマ!」
「いや、充分に分ってると思ってたから言わなかったんだけれど・・あれ、鬼宿?」
さらっと言ってのけるに翼宿はむっとしてつかみかかったが、その元気もなくなった
鬼宿は「結婚」という明日の希望が音を立てて崩れていくのに泣いていた。
「幸せな家庭が・・俺には夢が・・」
「鬼宿、けっこう本気だったのね・・」
「あかんわ、放心しとる」
と翼宿のむなしい呟きが寒々とした大広間に響いた。
この重い空気を破ったのは相変わらず楽天主義の前向きな巫女だった。
彼女は一つ目の神座宝は手に入れたからいいじゃないか、残りは白虎七星のに西廊国まで
道案内してもらって手にいれればいいじゃないかと仲間に呼びかけたのだ。
「何、もたもたしてんだ?彼女に道案内を頼んだんだろ?さっさと行くぞ西廊国に」
鬼宿は美朱に向かって面白くなさそうに鼻を鳴らし、の手をつかむとずるずると式典用大広間からずらかっていった。
だが、この神座宝も洞窟の入り口で待ち受けていた尾宿によって奪われてしまうのだった。