緑のムアは揺れ、鋼鉄の鎧兜で身を固めた大勢の騎兵の突撃とともに

投石機からバンバン丸石が飛んできた。

とカスピアンは揃って愛馬の鬣をつかんで飛び乗ると

ピーター王とスーザン女王からの合図を待っていた。

「弓を構えよ!」

遺跡の土台石ではスーザン女王が真っ白な矢筒から矢を引き抜いて長弓に番えた。

彼女の掛け声で次々とナルニアの住人達が短弓や長弓に矢を番え始めた。

そうこうしているうちにも何百人ものテルマールの軍人達が馬を駆ってこちらに

やってこようとしていた。

ピーターが振り向いて軽く頷いた。

とカスピアンはほぼ同時に馬首を叩いて向きを変えさせると

遺跡目掛けてギャロップ(速足)を命じた。

ただし、カスピアンはセントールの副官を伴って遺跡の地下へ、

同じく弓隊を指揮しにスーザン女王のもとへ駆け戻っていった。


「ナルニア人達よ、武器を取れ!」

遺跡の地下へ馬で駆け戻ったカスピアンが松明をつかんで叫んだ。

とうとう、遺跡の土台石の上に立つの目にもテルマール人の鎧兜の紋章や

真っ黒な旗印が見分けられるほど近づいてくるのが分かった。


両国間のかつてない緊張感は最高潮に達していた。


「狙いを定めよ!」

スーザン女王の反対側では弓隊の先頭に立って弦を引き絞る

女王の姿が見られた。

大理石の神殿跡ではピーター王とエドマンド王が迫り来る敵を仁王立ちして

待ち受けていた。

「全員用意せよ!」

来る敵をカウントしていたピーターが大声で叫んだ。

「今だ、壊せ!」

遺跡の地下ではカスピアン王子に率いられた巨人が遺跡を支えている太い石柱を

斧で叩き壊したところだった。

敵軍があともう少しで神殿につくかと思われた頃に、突如、緑の大地が裂け、

次々と陥没し始めた。

不測の事態に混乱する軍人達、怒号、悲鳴、骨折した馬のいななきなどが飛び交い、

あたりはもうもうとした土煙に包まれた。

「放て!」

「一人も逃すな!」

スーザン女王と女王の弓が揃って弾かれた。

二人の矢とともに背後に控える弓隊の矢が黒い雨のように敵側へと降り注いだ。

その数え切れないほどの矢は落馬して起き上がってこようとした敵兵や

その背後で右往左往していた騎兵達の胸や肩を貫いた。

「やっつけろ!」

ピーター王が長剣を振り上げて命令を下した。

エドマンド王は走っていくと白馬の鬣をつかんで飛び乗った。

カスピアン王子も遺跡の地下から地上へと馬で駆けてくると長剣を掲げた。

落馬してもがいている敵兵をあっという間にナルニア人達が取り囲んだ。

ピーターは勇将らしく、真っ先に走っていくと敵兵に一振りお見舞いし、

その面を蹴っ飛ばした。

カスピアンは馬上で剣を奮い、その横を巨人が投げ飛ばしたテルマール人の騎兵が落下し

ていった。

エドマンドは馬上から殺した敵兵から奪ったボーガンを次々に

発射して起き上がってこようとした騎兵達をひっくり返らせていた。

松露取りは体ごとぶつかっていくとはいあがってこようとした敵兵を

ノックアウトした。

リーピチープは「やれやれ・・人間どもは想像力がない」と嘆きながら敵の騎兵を

串刺しにしていた。


一見、大自然の地形を利用したナルニア人達が優勢かと思われたが、

グローゼル将軍率いる槍兵や騎兵の圧倒的な数の多さに

カスピアン、ピーターは胆をつぶした。

「弓隊、突撃!」

ここでの錫杖が掲げられ、第二陣の特殊部隊が大空へと羽ばたいていった。

グリフォンにつかまった赤小人の弓兵達が上空を滑空しながら矢をあめあられと浴びせた。

しかし、グリフォン達は容赦なく狙い撃ちされる投石器の犠牲となり、むなしく

テルマール人達のもとへと転がっていった。

「ルーシーはまだ来ないのか?」

ピーターは上空で大混乱に陥っているグリフォン達を絶望的に見上げて

呟いた。

「アスランは・・あの方は?」

もスーザンのもとを振り仰いでみたが、

彼女はきっと唇を結んで首を横に振るだけだった。

ピーターは最後の頼みの綱であるかのようにに視線を送ったが、

彼女は酷く怯えていた。

「砦に退却!」

ピーターは彼女の打ちひしがれたスミレ色の瞳を見止めると、全ての住人達に

呼びかけた。

背後からは形成の逆転を待ち受けるがのごとく、テルマール人の投石器が退路を防いだ。

「弓を構えよ!」

「援護せよ!」

スーザンとは喉から血が噴出すかと思われるほど叫んでいた。


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