(初任務は少々彼女には荷が重いやもしれぬ)
(自分と同族の少女を助け出すのだ。しかも人間界では幽霊強盗として建物に忍び込むのは
慣れていても、今回の屋敷は一筋縄ではいかんところだからな)
(幽助がついてるとはいえ・・うむ・・)
閻魔大王の息子が託した一本のビデオテープを見て、蔵馬はため息をついた。
「さん、二つ返事で助手の件引き受けたからな・・」
「しかも、今回の一件は飛影には一言ももらせないし・・」
「彼女にとってはさぞかし複雑な心境なのに・・」
盟王高校内では一、二を争う良物件のマンションで暮らしているのもとにやってきた
蔵馬は心配そうに呟いた。
(天空に漂う美しい氷河の国。そして、かつて生まれたばかりの私を殺そうとした非情な国・・)
こんな晴れた日にはよく生まれ故郷の氷河の国を思い出す。
分厚い窓ガラスから見渡せる眺めのよい景色を一望しながらは皮肉にもそう思った。
「さん、南野です」
「あ、は〜い、どうぞ、あいてま〜す!」
蔵馬は決心して、の住むマンションのドアをノックした。
は慌てて窓から離れるとパタパタと玄関先へと走っていった。
「粗茶ですが。それともコーヒーのほうがいい?」
はクリーム色のコンソールマーブルの応接テーブルに、烏龍茶を置いた。
「いえいえ、これでいいですよ。頂きます」
蔵馬は真っ白な湯飲み茶碗に手をつけると、少しずつ香りを楽しみながら飲み干した。
その後、二人は蔵馬が持ってきた霊界の指令テープを一緒に見た。
ビデオデッキに映し出されたのは、山奥のうら寂しい洋館。金の力で肥え太ったたまねぎ頭の男、
そして、洋館のてっぺんの塔に呪札の結界で閉じ込められた氷女の哀れな少女。
「この男・・垂金でしょう?名前だけは知ってる。何でもこいつはすごいごうつくばりで、
弱いものいじめが得意な奴よ。氷泪石を破格で闇ルートで売りさばいてることも分かってる」
リモコンでビデオ映像を一時、ストップさせると、は憎憎しげに呟いた。
「さん、どこでそんな情報を?」
「左京って男の人が教えてくれた。いつもその男の人が私の盗んだ宝石を買ってくれるの」
蔵馬はふと思った。彼女は元霊界探偵の父親の残した闇ルートにどこまでどっぷりと
はまっているのだろうかと。
「三鬼衆、一の角、魅由鬼」
今、霊界探偵、浦飯幽助、その友人の桑原和真、ぼたんと途中で合流して氷女の
少女が監禁されている屋敷に乗り込んだは、垂金が雇ったボディガードに先を塞がれていた。
真紅のチャイナドレスから、ほっそりとした足を覗かせたセクシーな女妖怪に
桑原は「女相手に喧嘩出来るかよ!?」と騒ぎ始め、幽助は「なら代わりに俺がやってやる」
とやる気満々で進み出た。
「浦飯さん、ちょっと待って!」
「それからそこの人、女なんでしょう?女なら、女同士の喧嘩といかない?」
は、拳を開いたり閉じたりしている幽助の前にさっと手を伸ばすと、いきり立つ彼をけん制した。
「面白い。そちらもなかなか考えたわね。男なら手が出せない相手には女を持ってくるとは」
「でも、同性でもいっさい手加減はしないわよ。死ぬ気でかかってくることね」
魅由鬼はくすっと笑うと、大して強力な冷気も感じない人間の少女を見た。
「望むところよ」
の好戦的な一言に、魅由鬼は一歩、後ろに飛び下がると、戦闘の構えを取った。
「おいおい・・ちゃん、マジで大丈夫かよ・・すげー心配だぜ・・」
「心配すんなって。コエンマが保障した強力な助っ人だぜ。信頼しようぜ」
捕らわれの氷女と歳の近い少女に桑原はおろおろし、幽助はさすが霊界探偵というべきか、が只者ではないことを
瞬時に見抜いていた。
魅由鬼はバッと床を蹴って、飛び上がった。
しかし、の隠し持っていた峨嵋刺がシャッと放たれ、ぎくっとした魅由鬼はすんでのところで
上体を崩して避けた。
「今のは挨拶代わり?あっ・・」
反対側にストンと降り立った魅由鬼は鼻で笑うと、また戦闘の構えを取ろうとした。
しかし、彼女は真っ直ぐに飛んできた峨嵋刺が左頬を傷つけ、うなじを取り巻く青白い毛をバラバラとちょん切っていたことに気づかされた。
「見切ったな。もうあいつに勝ち目はないぜ」
のんびりと見物していた幽助はにやりとほくそえんだ。