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「あっつ〜い!!」
一度倒れた少女が身を起こし、放った第一声がそれだった。
やおら胸元に手をかけ、はだけようとして胸飾りに気付く。
「・・・・・・・・・・」
ファラオや周りのものが沈黙している目前で、何を思ったかキャロルはいきなり肩絹を外し、其処へ放り出した。
それから首筋に手をやると掛け金を外し、胸飾りを抜いて其処へ捨てる。
「・・・・・未だ暑い。」
ぼそりと言うといきなり肩紐に手をかけようとする。
現れた白い首筋に男達の視線が釘付けになった。
「お待ちなさいキャロル、皆が見ています。水を上げますから飲んで落ち着きなさい。」
「・・・・・みず?」
差し出された杯を、少女はいきなり頭からかぶった。
飛沫がファラオにも掛かる。
「うふふ・・・気持ちいい〜。」
「おい、透けているぞ。丸見えだ。」
「え〜、いいじゃない〜・・・暑いんだもの・・・」
「呆れた酒癖だ・・・これで明日の朝は覚えておらぬのならいっそ天晴れというべきか・・・」
「え〜覚えてるわよ〜わすれないって。何なら証明して上げましょっか?」
「ほう?どうやって?」
キャロルはメンフィスの胸倉を掴むと顔を寄せ、なんと自らファラオに口付けた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「キャロル!!何の真似じゃ!」
満場の場が固まり、王姉が金切り声を上げる。
「只の挨拶よ。じゃあね・・・泳ぎに行こうっと・・・」
ふらふら立ち上がろうとし、足が縺れて咄嗟に差し出したファラオの腕の中に転がり込む。
「おいキャロル?」
「暑い・・・・」
「分かった。部屋へ連れて行ってやろう。」





部屋へ戻るまでにキャロルはメンフィスの腕の中で眠っていた。
酒精のせいで頬を染め、軽い寝息を立てている様は男心を奮い立たせる。
皆の面前で脱ぐなどと・・・許さぬぞ。
他の女ならどうでも良いがお前だけは絶対に駄目だ。私だってまだろくに見ていないのだから。いや絶対に見せぬ。
何かおかしい決意を胸にキャロルの部屋へ渡ってゆく。
女官長が先導し、寝台に少女を下ろして離れようとして気付いた。
白い手がしっかりと肩衣の裾を掴んでいる。
「まあまあ・・・キャロル・・・」
「良い、暫くこうしていよう・・・皆には自由に過ごすよう伝えよ。」
「畏まりました。では・・・・」
扉が開いて閉じる。その音でキャロルの瞳が開いた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・目が覚めたか?ならば着替えを致せ。」
むくり。
黙って起き上がったキャロルが一言。
「・・・・・うっとおしい。」
ファラオのこめかみがぴきっと音を立てて引きつる。こやつ、無礼な。
だがキャロルは委細構わず、肩衣を掴んでいた手を離すと立ち上がった。、
冠、腕輪を外してその場へ放り出し、飾り帯を解く。
そして濡れたままの衣を翻し、中庭に向かって駆けて行った。





サンダルを脱ぎ捨て、泉に向かって身を躍らせる。高らかな水音と共に、銀の飛沫が月の光に煌いて飛び散った。
抜き手を切って泳ぎ、沈み、浮かび上がり、水面に銀の飛沫を撥ね散らかしながら跳躍する。
媚やいやらしさなど全く無い、白い少女の瑞々しい肢体。それはまるで人魚のようだった。
日差しの下では黄金の髪も白い肌も、濡れて透ける衣もしなやかな肢体も、全てが月の光と飛沫を纏って銀色に輝いている。
慌てて追いかけたファラオだけが先刻の怒りなど忘れて足を止め、黙って見つめている。
駆けつけてきた衛兵や侍女たちを視線だけで下がらせ、つかの間の自由を謳歌させる。その頬には賞賛の微笑が浮かんでいた。
やがてキャロルが岸に泳ぎ着く。
「ああ・・・楽しかった。休憩しよっと。」
見上げた瞳が見下ろす男の姿を捉える。
「もう良いだろう。これ以上は身体が冷える。」
「メンフィス?いつから其処に居たの?」
「何を言う、先刻からずっとだ。・・・それにしてもお前は本当に美しいな。まるで人魚のようだ・・・」
見たこともない優しい瞳で言うと、キャロルが泉から上がるのを手伝ってやる。
それから先刻の肩衣を頭からすっぽりと着せ掛け、ごしごし擦ってやった。
肩衣の中からキャロルがくぐもった声で抗議する。
「もががっ!痛い痛い、痛いわよ。そんなにしたら髪がくしゃくしゃになっちゃう。
 せっかくナフテラが時間を割いて整えてくれたのに!」
「何を言うか。しっかり拭いておかねば風邪を引く。それに・・・・」
「それに?何?」
「・・・・・まあ良いわ。どうせ明日になれば忘れて居るだろうし。」
そういって肩衣を取り上げる。白く透ける肢体が現れる。
「・・・・・!!」
肩衣を取ろうとぴょんぴょん跳ねる。その唇を捕らえて己の唇を重ねる。
「ん・・・んん・・・・・」
いつもと違う優しい口付け。キャロルを抱きしめ、耳元で囁く。
「いいものを見せてもらった。」
そのまま肩衣を頭から被せる。
「だがそのままの姿では部屋へ帰れぬ。被って行け。」
「!!」
首を出したキャロルはすっかり酔いが覚めたようだ。
しっかり身体に巻きつけ、決まり悪そうな顔で部屋へ下がっていった。





「お水をお持ちしました。」
いつもと変わらない侍女の声。キャロルが言いつけられた水の杯を卓上に置いて下がろうとする。
だが、いつもの視線が何処となくそらされているのは気のせいではないだろう。
「・・・キャロル。」
ぴくっと動く肩。
「昨日は大変だったな・・・・」
「な・なんのことかしら。私酔って記憶が無くなってて・・・」
「そうだったな・・・お前は酔うと記憶が無くなるのだった。そういうことにしておいてやろう。」
うろたえる白い手を掴み、頬に唇を押し当てながら囁く。
「月に照らされたお前はこの世のものとも思えないほど美しかった・・・・・また見せてくれ。」
「・・・・・・・・・・!!」
その後はいつもどおり、悲鳴と怒号と、ファラオが頬を張られる音だった。





                                        すいませんすいません(土下座)
                                        娘さんが泳ぐ姿を書きたかっただけです。
                                        アルコール飲んで泳ぐと死にます。(多分)
                                        完全に蛇足なお話です。(U^ェ^;U)




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