契約



キャロルは溜息をつきながら回廊を歩いていた。
あの夜から、メンフィスは「夜の杯を運ぶ係」をキャロル以外の女に命じなくなった。
――また今日もメンフィスの酒の相手をさせられるんだわ・・・・・いい加減飽きてくれてもいいのに。――
ファラオの私室に訪いを告げて入室すると、意に反して居室の主は大きな机に向かって書類の決裁をしていた。
どうやら食事は済ませたらしい。





ついぞ無い真剣な顔を見て、提げて来た酒の壷と杯を机の端に置き、
黙ったまま下がろうとすると声が飛んできた。
「酒を注げ。」
・・・・・ああ、やっぱり。
今更逆らっても無駄なことは百も承知。
黙ってファラオが手にした杯に酒を注ぐと、空いた片手がすいと伸びて来てキャロルの白い手を掴んだ。
「今日はまた地下牢へ行っていたようだな。あの男がそんなに気になるか?」
「・・・・・それは当然でしょう?あんなことをして。セチは私を助けようとして貴方に鞭打たれることになったのよ。
 あのまま放っておいたら死んでしまうわ。」
「それで手当てをしに行った、か。だがお前は今は私のもの。勝手なまねは許さん。」
「どうして知っているの・・・?」
ファラオは口を付けないままの杯を机に置くと、一枚のパピルスを指し示した。
少女の行動が逐一記されている。
驚きに目を瞠る少女に彼は言った。
「お前の性格は良く分かっている。一度や二度私に抱かれたぐらいで諦めるような女では無いこともな。
 だが私とて、一度捕らえた獲物をみすみす逃すようなまねはせぬ。」
「酷い・・酷いわ・・・じゃあ、私はずっと此処に居なければならないの?」
セチを助けたことが、返って彼をずっと牢へ繋ぐことになったの?
でも私が逃げたら、メンフィスは即座にセチの命を奪うだろう。
うつむいた少女の内心を見透かすように声が掛けられる。
「失敗したな、キャロル。あの男の命と引き換えにわが身を差し出したが為に、
 お前はずっと此処に居なければならなくなったと言う訳だ・・・だがそうだ、良いことを思いついたぞ。
 私と契約を交わそうではないか。」
「契約?」
「そうだ、契約だ。お前がこれからも私に抱かれるというなら、この場で今すぐあの男、解放しよう。
 そして母親・・・セフォラと言ったか。二人とも奴隷の身分から解放し、一生生活出来るだけの金品を与えようではないか。
 それともう一つ。私がお前に飽きたときは、同じように解放してやろう。家族の元に帰るが良い。どうだ?」
やはりキャロルの性格は王者にとって、非常に読み易いもののようだ。
屈辱的な、だが一方ではキャロルの自己犠牲心を満足させる、そして決して逃れられない罠を仕掛ける。
後は黄金の小鳥が飛び込んでくるのを、黙って待っているだけだ。





「・・・どうした?返事をせぬのか?・・・ならば了承したと見なして良いのだな?」
沈黙がファラオの私室を、たっぷり十往復はしただろう後で声を掛けると、キャロルは黙ったまま微かに頷いた。
「では契約を交わそうではないか。」
そう言うと、ファラオは少女の小さな唇に口付けた。
咄嗟に逃げようとする小さな身体を抱き上げて机に座らせ、そのまま腕を回して恋人にするように優しく抱きしめる。
それから改めて深く口付け、柔らかな唇を割って少女の舌に己のそれを重ねる。
ゆっくりと絡め、、こすり合わせ、吸い上げるとキャロルが呻いた。
「ん・・・んふ・・・っ・・・んん・・・」
片腕を少女の肩に回したまま、右手を胸飾りの下に差し込んで衣装の肩紐をゆっくりと解く。
身を捩ったキャロルが声を上げた。
「いや。止めて、契約書を・・・」
言いかけた言葉を無視し、両肩の結び目を解いてしまってから男は言った。
「安心いたせ。署名も押印もしてやる。」
それから首筋に一つ、左胸に一つ、赤い印をつけると、指を伸ばして現れた白い胸に触れた。
「先ずは此処に署名からだ。」
触れるか触れないかの強さで白い双円を撫で、桃色の頂の周りをくるくる回る。
「んっ・・・」
声を抑えようとしたが、メンフィスの片腕が自分の腕を捕らえて放さない。
そして黒く深沈とした輝きを放つ彼の瞳がキャロルを捉えて放さない。
意識が引き摺られそうだ・
・・・・・何が言いたいの?・・・・・





「あっ・・・」
声が零れた。
胸の頂が男の指先に捕らえられて、ぴりぴりと痺れが来る。
メンフィスは、やはりゆっくりと指の腹で胸の頂を転がしている。
硬く勃ち上がって来ると、掌で押し包みながら指の間に挟み、揉み拉いた。
「ん・・・ん・・・」
もう一方の頂は唇に咥え、吸い上げる。
堪える唇の端から声が零れる。
「ん・・・く・く・・・ううんっ・・・」
「思った通りだ・・・お前は随分と好い身体をしている様だな。慣れればもっと好くなるだろう。」
カッと頬が燃えた。
「いや・・・いやっ!」
「大きな声を出すと誰に聞こえるか分からぬぞ。無論私は構わぬが。」
そうだった。慌てて声をかみ殺す少女を見て男は笑いをひらめかせ、白い胸に、今度は両の指をかけた。
腕を離された為に、思わず机に後ろ手をつくと、メンフィスの腕がいきなりキャロルの太腿を机の上に押し上げる。
そして大きく開かせると足の間に身体を入れ、悲鳴を上げる間もなく口付ける。
口中を嬲る舌と、双胸に触れる感触に白い身体が震えた。
「んんっ・ふっ・ふうんっ・・・ふっ・ふっ・・・んんっ」
キャロルの足からサンダルが片方、ポトリと床に落ちる。
メンフィスの指が片方、胸から離れて少しづつ下へ向かって降りて行く。
熱い掌がゆっくりと脇腹や滑らかな腰を滑り、太腿の外から内へと行っては戻るを繰り返しながらじわじわと一点を目指し、
そしてキャロルの肌を熱くして行く。
「う・・はあっ・ああっ・・・はあ・・・っ」
指先がキャロルの密やかな叢に届いた。数回、戯れるように絡めたり軽く引っ張ったりしていたが
また動き出して更に下へと降りて行く。
我に返ったキャロルが身を捩ったが、一瞬早く男の指が亀裂を割っていた。
「あっ・・・・・?!」
触れられた一瞬、身体が跳ねた。
「いやっ!ああっ!・・・あうっ・くっ・・・」
指は的確に、狙い定めた一番敏感な宝珠に触れる。
未だ物慣れないはずの娘の秘密の花園に、あっという間に蜜を零す泉が現れた。
指は更に亀裂の中を彷徨い、十分に楽しんだ後ゆっくりと泉に沈んで来る。
「あああっ・・・はあっ・・・は・あ・ああっ・あう・ぁ・・・」
「キャロル・・・好い声だ・・・もっと聞かせよ・・・」
耳元で囁きながら指を二本に増やし、少しずつ速度を上げて内部をかき回す。
「あああっ・ああっ・・・ああっ・・・あうっ・・・・・っ」
かくりと首が落ちた。どうやら達ったらしい。
「・・・やはりな・・・まだまだ手放せそうにない・・・・・」
そう呟くと指を引き抜く。娘の衣装の裾を更にめくり上げ、自分の腰布を解いた。
「キャロル・・・キャロル・・・」
呼びかけるとぼんやりした双瞳が向けられた。どうやら自分がどんな格好なのか忘れているらしい。
その間にメンフィスは自分自身をキャロルの花園に押し付けた
そして宝珠を擦り上げ、お互いのものに蜜を絡めて楽しむ。
「あ・・・・・う・・・」
次第に感覚が戻り、キャロルの唇から呻き声が流れ出す。
十分楽しんだ後、痛まないようにゆっくり挿れた。
「あああ・・・・あ・・・ぁぁあああ・・・っ」
「此処に押印してやろう。」
自分の内部に挿れられた灼熱の塊。そしてそれが自分の内部を突き上げかき回して与えられる快感が、
嬌声となって唇から零れる。
「うああっ・あっ・ああっ・あああっ・あうっ・あ・ああっ」
メンフィスが何か言っているが、聞こえなかった。
ただただ快楽に流されないように必死で手を回し、逞しい肩にしがみ付いて声を殺す。
そんなことに構う余裕も無く、メンフィスは熱い楔をキャロルの泉に打ち込み、かき回し続ける。
「ああうっ・ひっ・うっ・うあっ・ああっ・・・ああっ・・・ああっ」
快楽のためか、拒否する心のためか、少女の瞳から涙が零れ落ちる。
「キャロル・・・愛している・・・愛している・・・何処へも行くな・・・行くな・・・」
一突きするたびに呟いて、呟きながらかき回し続ける。
「あっ・・・・・うあ・・・っ・・・も・・・いく・・・いく・・・・・っ」
「いく・・・な・・・・・どこへも・・・いく・・・な・・・・・っ」
二人同時に声を上げ、共に達った。
身体を離したらそのまま失ってしまいそうで。
腕の中でぐったりと項垂れた白い身体を抱いたまま、ファラオは暫く身じろぎも出来なかった。





翌日、正式に側室となった黄金の髪の娘の元に、昨夜交わした契約が書面として届けられた。




                                                                          END


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