22いっそ壊したい












                                                    注    M×I、ブラックです
                                                         エロありません。









「キャロルが居なくなってから、私は何の役にも立たなくなってしまった。
 どんな女も抱けぬ。言うことを聞かぬのよ。今の私は種馬にすらならぬ。」
「な・・・・・」
「姉上が嫉妬に狂うたのも、次々に後宮に女を入れるのも全て無駄だったと言うわけだ・・・」
「ファラオとしての役に立たぬ私は、只の飾りだ・・・それでも王家の血筋は絶やしてはならぬ。姉上の言うとおりにな。
 だから。さあ、次は姉上の番だ。世襲王女としての勤め、果たしてもらおう・・・」
「嫌です!妾は貴方以外の男になど抱かれたくない。」
「そして王家の血統は絶えるか・・・・それも良かろう・・・・・
 姉上、私はキャロル以外の誰をも抱けぬ。姉上が私以外の誰にも抱かれたくないように。
 キャロルが居たなら、或いは納得づくで抱けたかも知れぬがな・・・・・だがキャロルが死んでしまった今、
 互いに絡み合う環は砕けた・・・・・二度と元には戻らぬ。
 キャロルは姉上に命を奪われた。私はキャロルを失った。姉上は私を失うのだ・・・・・ふふふ・・・」
「貴方は誰にも渡しませぬ。世襲王女として、妾が貴方を夫と定めます。」
「もうどうでも良いよ・・・どんなことをしても、私は姉上の役には立てぬ。子も出来ぬ・・・
 後はどこぞの赤子を偽るか、新しい夫を迎えるが良い。次代のファラオとして認めてやろう。」





「目の前から離れぬのだ・・・あやつの姿が・・・・・・・
 目に焼きついて消えぬのだ・・・姉上に有り難うと残したあやつの言葉が・・・
 姉上がキャロルを憎んでいたことは分かっていた。護りたいと・・・それでも離したくないと・・・・
 あやつを危険に晒すと分かっていながら抱いて抱いて・・・・壊した・・・」
ファラオがありえない残像を追っている。狂った眼差しで。





どんなことをしても、どんなに抱いても愛しているとは言ってくれなかった。
そして壊れ、狂い、最後には自ら死を選んだ娘。





愛しては居ないのに、夜毎抱かれて狂う娘はやがて自らを傷つけるようになった。
紅い花びらを執拗に擦ったのが始まりだった。
止めさせると髪を毟り始めた。
褥で抱くとそのときだけは止めたが、目覚めるとまた自らを傷つける。
やがて褥でもおかしな言葉を叫ぶようになった。
それまでの嫌がり、耐える言葉から、強請り、哀願し、自ら求める言葉を。
思えばもう、あの頃からキャロルは死にたがっていたのだろう。
悲痛な言葉が耳に甦る。
「もっと・・・・もっと・・・・ああ・・・もっと・・・・・!」
「何が欲しい?何が足りない?」
褥に倒れ伏した白い肢体に尋ねるたびに。我に返った怯えた表情。
「何でもない・・・なんでもない・・・・・・」
尋ねた翌朝は前にもまして自らを傷つける。
そして。眠っているとばかり思った娘を庭の泉で見つけ、救い上げて息を吹き込んで・・・・・
ゆっくり見開かれた青い瞳は、すでに正気を失っていた。





それでも抱いた。離したくなかった。愛撫には応えるのだ、狂っているなど認めたくなかった。
くすくすと、何処か可笑しな笑いを響かせながら、キャロルは幸せそうに抱かれた。
舌足らずな声で「だあいすき・・・・だあいすきよ・・・・・」と。そう、私に言ったのだ。
狂ってなどいないと、日中反応しないのは、恥ずかしがっているのだと思い込もうとした。
やがてキャロルは身篭った。
そして赤子を堕とされた。
最後の意志ある悲鳴は、その日を境に聞けなくなった。





その後は、坂を転げ落ちる有様をを見ているようだった。
死に場所を求めて何度も彷徨い、何度も泉に身を投げた。
刃物を置いておくと、ところ構わず我が身を切りつけ手首を切った。
腰帯や飾り布は首に巻きつけ、何度も窒息して倒れているところを見つかった。
ナイルの娘は気が狂った。
ファラオに加護はないのかも知れない。
密やかな噂が立った。





キャロルは監視下に置かれ、身の回りから危険な物、少しでも己を傷つけそうなものは全て退けられた。
壷や皿でさえ、割ってその欠片で首を切ろうとするのだ。
腰帯も飾り紐も、誰かの目が無い処では身に纏うことを許されなかった。
だが安心した隙に。キャロルは薄絹を裂き、それで首を吊ろうとした。
あの時死なせてやることが、いっそお前のためだったかも知れぬ。
こんな結果になるくらいなら。
何もないがらんとしたキャロルの部屋に、誰が持ち込んだのだろう。
身につけることを禁じたはずの飾り帯。
初めて宴の席に侍らせたときの、質素な、でも小さな蓮の花のような娘に良く似合っていた品。
それを首に飾って、小さな身体が風に揺れていた。
下ろしたときに、懐で何かが音を立てた。
胸飾りの下に、小さなパピルス。走り書き。
「メンフィス―――ごめんなさい。アイシス―――有り難う。」
筆は見つからなかった。





恐らく。キャロルは分かっていてそれを受け取ったのだろう。
誰に殺されるのか。
自分の望みを誰がかなえてくれるのか。





「結局私は何一つ、あやつの望みをかなえてやれなかった。出来るとすればそれは只一つ。
 あやつの最後の言葉に免じて、姉上を罪人としなかったこと。
 感謝の言葉がなかったら、姉上は今頃、此処でこんなことをしていることは出来なかっただろう。」





王家の血を引く姉弟。男と女。王と女王・・・
婚儀を挙げたはずの二人。素晴らしい安らぎが溢れるはずの褥。
だが、数年経っても王妃は身篭らず、次々迎えた側室の、いずれにも子供は出来なかった。





「姉上は、一番憎い存在をこの世から消した。
 キャロルはこの世界から己を消すことを望んで叶えられた・・・
 私の望みだけが未だに叶えられぬ・・・たった一人の娘を望むことが、何故叶わぬのか・・・
 ああ、そんなことをしても無駄だと申したであろう?私の身体はもう、どんなことをしても役に立たぬのだ・・・
 医師共がありとあらゆることをしてくれたよ。そして匙を投げた。」
夢から醒めたような声でファラオが言う。王妃が身を起こす。
「 ・・・・・くっ」
「下がらせてもらおう・・・ご苦労だった、王妃。」
振り返りもせずに、褐色の肩が扉をくぐって消えてゆく。
「愛しているのです・・・・・!メンフィス・・・・!」
王妃の声は、届かなかった。
寝台に枕を叩き付けた瞳が一点に止まる。
ハトホル冠。王妃の印。
こんなものが何だというのだ。こんな地位が欲しかったのではない。
ただ貴方の温もりが欲しかっただけなのに。
ああ、メンフィスもそう思ったのか。そして妾はキャロルの命を奪い、キャロルは弟を壊し妾から愛する者を奪った。





互いに絡み合う三つの輪。ボロメオ・リング。
未だ現代に居たときにキャロルが言っていた。メンフィスも聞いたのだろうか。
意味は少しも理解できなかったが不思議な輪を見せられた。
三つの輪がそれぞれに干渉しながら何処もつながっていない。
一つを切り離すことは出来ない。外そうとするならば全てを壊すか、代わりとなる第四の輪を入れなければならない。
そして出来上がるのは・・・・・虚無。





私はこの手でその輪を壊し、すべてを壊してしまったのか。
ならばいっそ、全て壊れてしまうが良い・・・・!





エジプト王家の血統は、その後すぐに絶えたと言う。

















                                               ブラックもう一回。
                                               大丈夫な方はどうぞ
                                                  













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