Silver wedding




 十五の夏。
 亜久津は河村に好きだと言った。
「俺、男だよ?」
 言われた河村は、イエスでもノーでもなく、そう答えた。
 それでもいいの?と逆に聞いてきた、この男は少しずるい。
 ずるいところも、というか、ずるいところが、好きだった。
 それはもう、世界で一番。
「それがどうした」
 上目遣いの幼なじみに、だから、亜久津はそう言った。
 黙って目を閉じた河村にキスをした。



 二十歳の秋。
 生まれ育った町に、亜久津は二年ぶりに戻ってきた。
「やあ、亜久津」
 店の前をほうきで掃いていた河村は、亜久津に気づくと、掃除の手を止めた。
 河村が許してくれなかったら、亜久津は、土下座でも何でもするつもりだった。
 プライドよりも大事だと、そんな風に感じる相手は河村だけだった。
 最初で最後だった。
 許してくれるなら、何でもするつもりだった。
 それなのに、二年ぶりに会った幼なじみは、まるで昨日も会ったような何気なさで、逃げた男に笑いかける。
 負けた、と思った。
「もう一人にしねえ」
 亜久津は河村の目を見て言った。
 そして、天を仰いだ。



 三十路の春。
 久しぶりの休日だった。
 河村は、自宅に一人でいた。
 ふいに、玄関のチャイムが鳴った。
 インターフォンから聞こえてきたのは亜久津の声。
 俺だ、と一言。
 休日出勤のはずだけど、とドアを開ける。
 河村の目の前に現れたのは、チューリップの花だった。
 赤い花びらの洪水のような向こうに、チューリップと同じくらい赤い、亜久津の顔が見えた。
「どうしたんだ、これ?」
「別に、何となく」
 幼なじみは答える。
 ものすごく不機嫌な声は、照れているだけだ。
 河村は知っている。
 ありがとう、と言う代わりに、花束を抱える腕の上から腕を回した。



 それから十五年。
 今、河村の前には、一枚の紙がある。
 昨日、亜久津と二人で役所に行った。
 そこでもらってきた。
 人目もあるし一人でいいよ、と言った河村に、一緒に行く、と亜久津は譲らなかった。
 座卓を挟み、直角の位置に座る。
 亜久津はリモコンを取ってテレビをつけ、すぐに消した。
「どこも同じニュースだろ?」
「ああ」
 くだらねえ。
 リモコンを放り捨てると、畳の上に転がった。
 くだらねえ、と言う割に。
 河村は、手元の紙を見た。
 亜久津の名前は、すでにしっかりと記入済みだ。
「何か、照れるね」
 改めて、こういうの。
 ひとりごとのように河村が言うと、亜久津は体を起こして、
「照れてんじゃねえよ」
 今更だ、とそう言って、幼なじみの赤い目元にキスをした。
 亜久津の顔も、河村と同じくらい赤かった。
 二十五年目の夏。






もはや年単位のお久しぶりです。
恥ずかしながら帰ってきました。
リハビリ兼ねて短い話。
お前らなんか幸せになればいい!って思う。


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