これもひとつの日常




 仕事から帰って、汗をかいていたのでとりあえずシャワーを浴びた。
 簡単に夕飯の用意をして、今日は亜久津は遅いことが分かっていたから2人分作ったうちの半分だけ先に食べて、残りはラップをかけてテーブルの上、あるいは冷蔵庫の中にしまった。
 帰ってきたときに何となくつけて、そのままつけっぱなしだったテレビで、バラエティ番組を見るともなしに見ていた。

 ガチャガチャ!バタン!

 突然の物音に、すわ強盗かと一瞬身構えてしまった。
 玄関の鍵が開けられドアが開かれ、足音も高くリビングに入ってくる。
 亜久津だった。
 それは、ほとんど駆けこむような勢いだった。

 近所迷惑だから、もう少し静かに帰ってこい。
 けれど、そう言おうと開かれた河村の口は、その台詞の半分も言わないうちに亜久津の口でもって塞がれていた。
 そのまま、あ、と思う間もなく亜久津の腕に抱えられる。
 見た目ほど重くはないとはいえ、身長180センチ、体重65キロの成人男子を軽々と小脇に抱えられる亜久津はやっぱりすごい。
 感心している場合では全くないのに感心していた河村は、亜久津の腕が不吉な弧を描いたのに気づかなかった。
 次の瞬間、寝室にしている4畳間のベッドの上に、河村は放り投げられていた。
 投げられてから、ベッドに着地するまでの短い時間、まるでフリスビーになったような気持ちだった、と河村は後に述懐する。
 しかし、放り投げられた河村を待っていたのは、主の投げたものなら何でもキャッチするよう訓練された犬の口……ではもちろんなかった。
 同棲を始めると同時に、河村の知らないうちに、亜久津が勝手に購入していたダブルベッドの、一般的に硬いのか柔らかいのかいまいち分からないマット。
 そこに叩きつけられる、強いのか弱いのかいまいち分からない衝撃だった。

「ちょ、待ってよ、亜久津!ちょっと……!」

 意味があるようで実はない。
 そんな制止の言葉に、何でかやたらと興奮している、分かりやすく言えば発情した亜久津を止める力なんかありっこない。
 河村の体に馬乗りになった亜久津は、少しのためらいもなく身につけていた衣服を脱ぎ捨て、全裸になった。
 今更恥ずかしがるような間柄ではないが、それにしても清々しいほどの脱ぎっぷりである。
 そうして、再び場の空気を読まず亜久津に感心していた河村は、自らの衣服を脱ぎ捨てた亜久津の手が、今度は他人、つまり河村の服にかかろうとしていることに気づかなかった。

「脱げよ」

 不機嫌な声で命じながら、その実、相手が自分で脱ぐのを待つ気なんてさらさらない。
 あっというまに、河村も亜久津と同じ、河村にとってより耐えがたい表現を選ぶと、「生まれたままの姿」にされてしまった。



 その後の展開はもう言うまでもない。
 全くもってご想像の通り、という他になかった。
 亜久津は河村の口でまず1回、次に尻で1回射精し、その後少し休んで、再び、今度は2回たて続けに中に放った。
 もっとも、コンドームは装着されていたから、河村の腹の中に直接出したというわけではないが。
 もういい年なのに、いい加減元気な亜久津である。
 しかし、その亜久津といえど、合計4回、ほとんど連続しての発射にはさすがに疲れたらしい。

「眠い……」

 ぐったりとした様子で、甘えるように河村の体に腕をまわす。
 急激な眠気に襲われている亜久津の頭を胸に抱き、河村は、ベッドの上で仰向けに寝転んだ。
 落ちかけた瞼や汗を含んだ頬を撫で、また、意外にさらさらとした手触りの髪を指で梳く。
 たとえば、いわゆる本番の最中よりも、この時間の方が幸福を感じる。
 河村がそう感じていると知ったら、亜久津は怒るだろうか。
 男の平たい胸の一体何がおもしろいのか、亜久津は、とても気持ちの良さそうな顔で眠っていた。
 河村は、指先でキスをするように亜久津の唇に触れ、それから壁に手を伸ばして部屋の電気、ギリギリで届いたリモコンでテレビを消した。
 本当に、こんなかわいい顔を見せられたら、突然の発情も乱暴なセックスも、何もかも許してしまいたくなるのだ。






 亜久津は時々隆を抱っこして寝たい、河村は俺の抱きまくら、ぬいぐるみ!って思うんだけど、そんなことを素直に表せないので、強引にセックスに持ちこんで何とかします。終わったらすぐ寝ちゃうなんて最低!というのは考えないみたいです、隆も。


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