体が宙に浮いたような感じだった。足元がふわふわして頼りなくて、それに目を開けているはずなのに真っ暗で何も見えなかった。ここはどこだろう?とりあえず足を動かすと前に進んでいるらしいと分かる。こんなに真っ暗ならバランスを崩して転んでしまいそうなものなのに、不思議と転ぶことはなかった。ふわふわした世界をふわふわ進んでいく。しばらく進むと、爪先が何か固いものに当たった。蹴ってみる。ガツンと固い音がする。何だろう?手を伸ばすと指先も何かに遮られた。手のひらを押し付けるとひんやりしていて固い。あれみたいだ、と思った。学校の教室の扉。ガラスがはめられてるやつ。顔の前辺りをぺたぺた触ると少しの窪みとつるつるしたガラスみたいな感触があった。ほらやっぱり。としたら指をかける部分もあるはずだ。手探りで左下あたりをまさぐると、確かに凹みがあった。指がかけられる。これ開くのかな?試しに横に引いてみた。するとゴロリと音をたてて扉が少しだけ開いた。隙間からオレンジ色の光が漏れてくる。光。光だ!
思い切って開けてみた。ぶわ、と辺りが光に満ちる。眩しくて咄嗟に目を瞑った。頬を涼しい風が撫でる。そわそわと木々が風に揺れる音がする。恐る恐る目を開けた。
そこは夕暮れの教室だった。どうして教室なんだ?開け放たれた窓からは初夏の心地よい風が入ってきて制服の裾を揺らす。俺は制服を着ていた。逆光が眩しい。目を凝らすと窓際の席に人がいた。俺と同じく制服を着て、誰もいない教室でただ一人、頬杖をついて窓の外を見つめている。
その人はゆっくり振り向いた。その人の顔を見て、俺は咄嗟に声が出なかった。その人も驚いたのか、目を見開いてこちらを凝視している。何故だろう、何で、どうして?どうして彼がここにいるのか分からない。いるはずがない。そんなはずはない。
「……山、本……?」
その人は呆然としたまま、ゆらりと立ち上がる。
「ツナ……? ツナなのか?」
信じられないような様子でうわ言のように呟く。俺は頷いた。その人は……山本は、呆けたままストンと椅子に崩れ落ちた。
「マジかよ……」
俺だって信じられない。暗闇の中を歩いてきたら扉があって教室があって山本がいるなんて。
「……とりあえず、入ってこいよ、ツナ」
その言葉に促されて、一先ず山本の側まで行くことにした。いつまでも入り口で突っ立っているのはおかしい。扉を閉めようとして振り向くと、そこは普通に学校の廊下だった。廊下の窓からは夕焼け色に染まった空が見える。どうして?暗闇の中から来たんじゃなかっただろうか。もしかして立ったまま寝ていたのかもしれない。そんな器用なこと出来たっけ?そんなことを考えながら、俺は扉を閉めた。
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