砂漠のふたり

back contents


03


 身体が思うように動かない。酒のせいなのか、別の理由からか。
 マキセさんは何を思ったか、遠野の下肢を曝け出させ、その中心を握った。ひや、とした感触に遠野は目を見開く。「う、あっ」
 遠野は宙を腕でかくようにしながら、背中をびくりと逸らせた。胸の中央に置かれた手が、苦しくて息がし辛い。
「な、にして――」
「黙って」
 マキセさんは低く囁いた。そんな場合でもないのに、遠野はつい従ってしまいそうになる。「だっ、黙っていられるわけないでしょう!」
 しかし暴れようと思っても、足はマキセさんの身体で押さえられ、上半身は胸を押さえられ、抵抗すら儘ならない。マキセさんは「それもそうだ」とごちると、遠野の中心を扱き始めた。
「ちょ――ちょっと!」
「なんだ」
「なんだじゃな――あっ」
 先端を軽く擦られ、遠野は息を詰める。じわりとした熱が滲み出すのが、自分でも分かった。
 遠野の性経験は未熟だ。女性との経験は一回きりだし、誰かに中心を触れられたことは、初めてだった。対してマキセさんは、随分経験があるようだと遠野は思った。服を脱がせるのも、身体を押さえ込むのも、手馴れている。手際がいい。
「あっ、……あっ」
 他人から与えられる快感に、遠野は惑って爪で床を引っかく。知らず目を閉じてしまっていたが、くすりと笑う気配がすぐ間近に在る――と気づくと同時に耳を食まれ、びくりと身体を揺らして瞠目した。「ひあっ」
「耳が弱いのか」
「ば、馬鹿なこと言ってないで……放してくださ……ぁあっ!」
 食まれたままの耳に軽く歯を当てられ、遠野は身体を捩った。
 マキセさんは、怒ってこんなことをしているのだと遠野は思っていたが、それにしてはどこか楽しげだ。遠野は何とかマキセさんを睨みつける。
「何でこんなことするんですかっ」
 息の弾むまま、遠野は訊ねる。
 マキセさんは遠野の顔を見て、手を一瞬だけぴたりと止めた。やめてくれるのか、遠野は熱くなった身体を持て余し、それでも安堵して肩の力を抜いた。しかし、その手はすぐにまた蠢き、遠野を翻弄した。
「あ、ちょっ、マキセさ……」
「本当に、何故だろうな」
 ぽつりとした呟きは遠野の耳にも届いたが、意味を考えるよりも、快感が頂点に上り詰めるほうが速かった。遠野は悲鳴のように声を上げて、マキセさんの手のなかに達した。
 は、は、と短い呼吸を繰り返している遠野の視線の先で、マキセさんは暫く手のひらを見つめた後、傍らにあったティッシュを引き抜き手を拭った。
 一方的な行為だったけれど、達せさせられてしまうと怒りよりもいたたまれなさや気まずさばかりが胸に込み上げ、遠野は顔を逸らした。
「あの、マキセさん――って……あ?」
 胸に重みを感じて、遠野は顔を正面に戻す。マキセさんが、遠野の足を押さえ込んだまま、胸の上に倒れこんでいる。
「え、ちょっと……マキセさん?!」
 そのマキセさんの動きを不審に思い、遠野は慌てて呼びかける。飲んでいたアルコールの量だけに、まさか。と青ざめてしまう。しかしマキセさんは呻くように返事をした。
「大丈夫」
「え」
 身体の重みも先程のことも忘れて、遠野は安堵の息を吐いた。しかし次の瞬間、固まった。
「少し眠らせてくれ」
「は?」
 それ以降はもはや、どんなに呼びかけてもマキセさんはぴくりとも反応しない。
「な、何だよそれ」
 遠野は、勝手に怒って勝手に無体を働き、しかも寝てしまったマキセさんに、漸く怒りを覚えた。酔っ払いにも、限度と言うものがあるだろう。
 「ちょっとあんた!」と怒りのままに胸の上からマキセさんをどかし、部屋からも追い出してしまおう――と遠野は思ったのだが、所詮、自分も酔っ払い。自分よりも大きな、しかも脱力した人間を運ぶことは、体力のない今、無理な話だった。
「ち、ちっくしょう……何でこんなことに……」
 遠野は理不尽な気持ちに苛まれ歯軋りをしたが、すっかり回った酔いにより、やがてまどろみに呑まれた。

 そして夢のなかで、いやに魘された。


back contents

2009.08.23


Copyright(c) 2009 NEIKO.N all rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル