Ancora credo. 2









　
学校の門が遠くに見えた。
門の前には、黒い服を着た人達が、横にずしっと並んでいるのも
一緒に確認すると、綱吉は急がせていた足を止めた。

「間に合わなかった・・・・」

今日は、並盛中一の不良グループの集団じゃないの？っていうくらいの
強面、ケンカの強い人達が入っている風紀委員による取り締まりの日だったのだ。
服装チェック、遅刻を取り締まるのも勿論、風紀委員に少しでも気に触るような事を
したらジ、エンドだ。ボコられる。そりゃーもう、てひどいくらいに制裁が加わられるのを
知っているため、いつもは遅刻するような綱吉は水曜日だけは毎週頑張っていた。
しかし、今日は学校に登校するのを諦めた方が良いかもれしれないと
げっそりした面持ちで、それ以上学校に近寄らなかった。

「サボろう・・・・」
溜息と共に吐き出されたのは、諦めだった。

くるりと後を振り向くと、帰路に立とうとする。
しかし、こけた。

「ギャフッ」

「ちくしょうっっ」

もうやる気もなくし、しばらくへたりこんだまま座った。
溜息ばかりついて、少しのやる気を充電すると立ち上がった。

このまま家に帰るのは避けたかった。いつもの事とはいえ、母親のグチを貰うのは
少しばかり気がひけた。
まだ、人が多い。学校の違う人たちが足早に通り過ぎて行く。
綱吉の向かう方向に合わせる人はいない。

住宅街を抜け、公園に辿り着いた。
二回目の朝食をしようとベンチに座ると、何とも言えない気持ちが綱吉に湧いた。
絞り込んだような朝の光に、朝露を消し飛ばした後の空気、少しだけ音の付いた今の時刻。
自分は今、公園でコロッケパンなど食べている。
おそらく優越が綱吉に湧いていた。
休みでなければこんなことはできないからだ。


食べ終わり、ベンチに深く座り直すとまだ眩し過ぎない空を見上げた。
ちょうど視界に入る緑が心地よい。


リィィィィィィン────


遠くで、風鈴が鳴っているようだ。
誘われるように、目を閉じる。
しかし、

「って今、夏じゃないしっっ！！」

あまりの季節ハズレのものだと気づいて、まどろみかけるのを止めてしまった。


リィィィィィィィン────


鳴っている。
普段なら、気にしない。
しかし、綱吉は暇を持て余しているという理由もあったが何より、妙に興味が湧いた。
小さく砂を鳴らしてベンチから立ち上がると、公園の小さな柵を乗り越えた。
この人口だか、天然だか知らない林の向こうには教会があるはずだ。
音はおそらくそこからだろう。

ほんの数分歩けば、教会の外観が見えてくる。
小さなステンドグラスの窓は、十字で区切られ、屋根の上には十字架が付いている。
凸型の教会に、ゆっくりと近づいた。
思えば、この教会に、しばらくこんなに近づいた事はなかった。

「うわっ！！！」

入り口まであと十メートルほどであろうか？
目の前に降る様に現れた何かに驚き、後ろに倒れた。
その瞬間にもそれは、綱吉の方に近づき、あっという間に横を通り過ぎていった。
本当に一瞬だ。
状況をいまいち把握できなかった綱吉は、ただ呆然と前と後ろを交互に見やった。


（何？今の・・・）

何もいない事を、２度ずつ確認すると前を向いた。


「ひぃっっ！！！！」


ぴくりと反応した身体に一瞬で冷たいものが駆けた。

「ネコっ！」

猫が入り口の前にいた。三毛猫は、入り口に今までいたかのようにちょんと座って
綱吉の方を向いている。

「お前か・・？今の」
(驚かせるなよ）

返って来るとは思わないが、綱吉はその猫に話しかけた。
はぁ、と大きな安心の溜息をつくと立ち上がろうとした。


リィィィィィィン────

「あっ・・・・」

やはりココのようだ。
再び猫に向き合うと、猫が何か加えているのにようやく気づく。
赤い何かだ。

「あれっ？」
見覚えのあった綱吉は、地面に落ちたままのカバンを見ると
急いでカバンの左右を確認し、周りも確認した。

ドアは
「こらっっっ！！！！！」


慌ててドアに手をかけると、幸い鍵はかかっていなかったようで
ドアは簡単に開いた。



リィィィ────・・・パシッ


綱吉は音が途絶えるのに気づかず、中を見渡し猫の姿を探した。

（どこに行った？）


のそり。
何かが動くのを見た綱吉は、いつも持ち合わせている恐怖心を忘れたように
教会内のある机に向かった。
よく神父さんが立っている机である。



「嫌な感じがするな、コラ。なんだコレ」

「随分なもん取ってきたな」

ボソリとした声に気づいて声をかけた。
若い声だ。

「誰かいるのか？」


「「・・・・・・・」」



赤い絨毯のおかげで靴音は響かない。しかし、
小さな音が机の後ろからした。






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