Ancora credo.









 「ツッ君、これは絶対になくしちゃ駄目よ?」

お母さんがそう言って渡してくれた、赤いお守り。

 「うんっ」

覗き込んでくる優しい瞳に応えるように頷いた。














「ツッくーん。早くしないと遅刻よぉ?」
階下からする声に反応して、のそりと体を起こした。
いつもの条件反射で、ベッドの脇にある時計を引き寄せると
時計盤で時刻を確認する。

「あー・・・やばい」

遅刻の常習犯になってしまったため、今更という気がしないわけでもない。
ただ、一つだけ今日は遅刻してはいけない理由があった。
今日が水曜日だという事も時計盤が教えてくれているため、
いつもはスローペースな綱吉も渋々来ていたパジャマのボタンに手をかけた。

(どうせ間に合わないんだろうな)

綱吉はやや諦め気味に、しかしそれでも、着替えに専念した。
実は学校までそんなに時間はかからない。
しかし、綱吉は通常の2倍近くの時間をかけて通学する。
それにはある理由がある。
それのせいで、綱吉は随分冷めた考えのする人間になってしまった。
齢12か13の年で、すでに人生負け組である、と綱吉は誰に言うでもなく
呟いた。


今日はいつもとは違う日。
それを綱吉は十分にわかっていた。だからこそ、いつもは朝に用意する
学校の教科書等を昨日の夜のうちに終わらせていた。
今では、自分の判断がこの上なく正しかったと思える。
ベルトとカバンをひっつかむと、階段をあわただしく降りていく。
部屋にいた時からしていたいい匂いが、一段と濃くなっていくのがわかる。
それに釣られて、きゅーと小さくお腹がなる。
ドアを開け、挨拶もそこそこに、ソファーにカバンを投げ、
ベルトを装着しながらイスに座った。

朝から日本だなーなんて軽く思ったりする。
味噌汁の中に、せっかく分けて出されていたご飯を沈めると
かっ込むように、食べきった。
本当はこれじゃ全然足りない。
しかし、今は時間が惜しい。

「ツッ君、ゆっくり食べないと・・・」

「わかってる。お母さん、昨日買ったパンあったよね?
 置いといて。学校に持ってく」

「んもうぅ、お母さんの作ったご飯はそこそこにして、
 また買ったものばかり」
拗ねちゃうわっと言う、いつまでも少女な母親に向かって苦笑すると、
洗面台に向かう。
いくら自分が変な髪形でも、少しはいじった方がよい。
駄目ツナと呼ばれているうえに不潔となじられては、さすがに
人生諦めてる綱吉でもかなりへこむ。

「ごめんっっでも、時間ないんだ」


洗面台で用を済ませると、玄関にはカバンと弁当とバンダナに包まれたものが
用意してあった。バンダナの中身はおそらく、コロッケパンだ。

時間を確認した。あと20分。
普通に行けば十分間に合う。いや、何もなければ余裕で間に合う。
綱吉は、ギュッと目を瞑った。

(何もありませんようにっっ!!!)

タッと走り出した綱吉に、後から母親の声がかかる。

「いってらっしゃい」

「いってきますっっ」

十分に間に合う時間であるはずなのに、何故走るのか?
それは綱吉だけは十分に理解している。
別段、ひどい方向音痴というわけではない。
通学の道もしっかりわかっているが、綱吉は通学に
異常に時間がかかった。

「うわっ」

カクリと突然芯棒を取られたように、左足に力が入らなくなった。
まず一回目だ。
今回は、その場にヘタレ込むように倒れただけでよかった。
まぁ、鼻はしたたかに打ってはいるが──・・・

「イテテ・・・」

勇みよく立ちあがると、溜息をついてからまた走り出した。
何もないところで、こける。
綱吉はよく転ぶ子だった。

また、2度3度転ぶと段々と情けなくなったようで、すでに
半泣き状態に陥った綱吉は、それでも立ちあがった。
転ぶくらいならまだいつものマシだった。
そう、転ぶこと以外の事もして異様に通学時間をかけていたのだ。
ただ、本人の意志によるものでは決してない。


「ギャッ!!」

危うく自転車にひかれそうになって、尻餅をつく。
自分だけが悪いわけではないが、自転車の人も急いでいるようで
綱吉をチラリと見ただけで、止まる事もせず先を行ってしまった。


「悪かったな、可愛い女の子じゃなくて」
ブスっと何も言われてはいないのに、綱吉は一人拗ねた。
綱吉は、運動神経抜群、頭脳明晰、眉目秀麗の真逆を行く男の子だった。
全部欲しいとは言わないが、せめて一つは人並みのものが欲しかったと
常々思っている綱吉だったが、今、このシュチューエーションで
顔が良かったら、「すみません」の一言は貰えたかもしれないと
心中で、嵐のように文句を言っていた。
何も、立ち止まって、尻餅をついた綱吉に謝りながら手を貸してくれという
わけではないのだ。ただ、せめて、すみませんの一言くらい欲しい。

近くに落ちていたカバンを掴むと、また立ちあがった。
立ちあがらないと、慣れたとはいえ、周りの視線が痛い。というか恥ずかしい。
塗装されたアスファルトを再び、勢いよく蹴り始めた。
綱吉は気付いていない。
それほど、綱吉の運動神経が悪いわけでもないという事を。
その証拠に、綱吉は家からここまで、転んだり、ひかれそうになったり
壁にぶつかりそうになって中断しているが、ずっと走り続けてこれているのである。

カバンにつけてある守りが激しく揺られている。


「もう、絶対、間に合わないーーーー!!!」

少し前は自分と同じように通学している人が多くいたのだが、
この時間に、綱吉のいる道にいる人はだいぶ少なかった。










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