「…どうしたんだよ、セフィロス」
 突然足を止めたセフィロスを訝しむようにザックスも立ち止まる。当のセフィロスはハッと後ろを振り返ったまま微動だにしない。
「…セフィロス?」
 もう一度名を呼ぶと、後ろを気にしつつもザックスへと視線を戻してくれた。その瞳に険しい色が浮かんでいるのを見て、ザックスの表情も硬くなる。
「…どうかしたのか?」
「…いや、血の臭いがしたような気がしただけだ。今は…もう感じない。気の所為らしい」
「…何だよ。驚かせるなって。大方、どっかで誰かが喧嘩でもして流血沙汰になってるだけだろ。だったらウチじゃなくて治安維持の管轄だって」
 今日は久し振りの休暇だった。たった1日しかもぎ取れなかったけれど、“ 約束 ”をゆっくり果たせる時間が出来たのだ。こんなことに気を取られている時間が勿体無い。
「ほら、早く次行こうぜ! 今日はアンジールと会う約束してるんだから。人前に出られなくなったアイツに色々物資を買ってってやれって言ったのセフィロスだろ?」
「…あぁ。悪かった」
 ザックスの両手にはすでに幾つもの買い物袋が握られていた。それでもまだ何か買い足りない気がして、ザックスは傍らのセフィロスを見上げた。
「なぁ、他に何を買ってけばいいと思う?」
「そうだな…」
 一瞬遠くを見遣って考える素振りを見せたが、すぐに思いついたようで視線を戻してきた。真横に立つと本当に見下ろされる形になるのが悔しい。自分も決して低くはないはずなのに。
「包帯や化膿止め、ポーションの類は買ったか?」
「…あ、そっか。そういうのもあった方がいいよな! さっすがセフィロス!」
「…いや」
 そう答えたセフィロスは、まだ後ろを気にしているようだった。まさか、先程一瞬感じただけの血臭がアンジールのものだとでもいうつもりなのか。
(…そんなはず…ない、よな?)
 そうは思うものの、一度心に根ざした不安はその後の買い物中も消えることはなかった。






 任務が入っていると言うセフィロスと別れ、ザックスはスラムへの道を急いでいた。勿論、一般兵や他のソルジャーたちの気配がないかどうか周りを確認しながら。そうやって周囲を窺いながら走っている間も、別れ際にセフィロスが真剣な顔をして言った言葉が頭を離れない。

『さっきは周りに一般兵の姿があったから言わなかったが、あの血臭と同じ方向からアンジールの気配も感じたんだ。一瞬だけだったが、確かにアイツだった。…何か、あったのかもしれない』

 待ち合わせ場所を目指す足がどんどん速くなる。あの強くて揺るぎないアンジールに何かあったと思うだけで心が凍るようだ。
「…アンジールっ!」
 スラムの片隅にある廃屋。その扉を突き破る勢いで中へ入ると、部屋の中央にしっかりと立つアンジールの姿があった。その大きな背中にホッとしたのも束の間、部屋に漂う微かな血の臭いと所々赤く汚れた羽に気付いてアンジールに駆け寄った。西日が射し込むお陰で本来なら暖かく感じるはずの部屋の中が、どういう訳か冷え切っていることにも気付かずに。
「どっか怪我でもしたのかよ?! 薬と包帯買ってきたから、取り合えずこれで手当てして…」
 そう言いながらザックスがアンジールの顔を覗き込むのと、アンジールの腕がザックスの後頭部を引き寄せるのは同時だった。その勢いのままに唇を塞がれる。
「な、アンジ……んん…っ」
 強引に唇を割られ、口腔に舌が侵入する。こんなに強引で深い口付けは初めてだった。突然のことに驚いて必死にアンジールの体を押し返そうとするが、動きを封じるように抱き込まれていて手を突っ張ることすら出来なかった。
「ん…んん……っ?!」
 仕方なく応えようと舌先を絡めようと思ったその時、突然足を払われて体のバランスを崩した。ガクリと体が揺らいだ勢いで唇が外れて唾液が糸を引く。だが、それを気にする前に背中が床にぶつかり、一瞬息が止まった。
「…な、に…っ、何するんだよっ!!」
 流石にカッとなって怒鳴りながら体を起こそうとしたが、覆い被さってきた巨躯に物凄い力で床に押さえつけられ、微かな身動きすらままならない。その時になって初めて、アンジールの様子がおかしいことに気付く。
 こんなことをしているというのに、その顔は怖いくらいに無表情だったのだ。
「…アン…ジール…?」
 目が、光を宿していない。あの、いつもどんな時でも前を見据えていた真っ直ぐな瞳が。
(…怖、い…)
 アンジールが怖いと思ったのは、この時が初めてだった。
 訓練や任務中にミスをして叱られた時も、テーブルマナーが悪くて延々と説教を喰らったときも、自分を思ってくれるが故のことだと分かっていたから怖いとは感じなかった。
 だが今は、本能的に恐怖を感じている。
 目の前の、慣れ親しんだはずの相手に。
 ザックスが怯み、抵抗を忘れた一瞬の間に、アンジールの手はズボンと下着を取り払っていた。
「どう……どうしたんだよっ、アンジールっ!!」
 太ももを辿る大きな手の温度も、いつもと違って冷え切っている。その冷たさに、更なる恐怖を煽られる。
「アンジール…っ! やめ……っぁ!」
 突然下肢を握りこまれ、抵抗の言葉が嬌声に変わる。上がりそうになった甲高い声と恐怖心を飲み込みながら、アンジールを強く睨み付けた。
 緩急をつけた愛撫はいつものアンジールのものだった。それに慣れた身体は素直に反応してしまう。けれど、相手の様子がおかしく、半ば無理矢理押さえ込まれた状態である以上、その快楽に溺れてしまうわけにはいかなかった。
「やめろって…言って…ぁあっ」
 拒絶する言葉を吐けば吐くほど、下肢への愛撫が激しくなっていく。恐怖と快感が綯い交ぜになった微妙な感覚が身体中を駆け巡る。
「…ん、あぁ…っぁ…んん……っ、うぁッ?!」
 突然、まだ何の潤いも施されていない秘所に指が突き入れられ、快楽に支配され始めた身体が痛みに悲鳴を上げる。普段なら何かしらで秘所も指も濡らしてからゆっくりと挿し入れてくるというのに。
「ひっ、…ぁ、んぁぁっ…あ、ぁ…っ」
 それでも、無遠慮に動き回る指に感じる場所を刺激されると、感じたくもないのに勝手に腰が跳ねてしまう。痛みすらも徐々に快楽へと摩り替わっていく。痛みにも恐怖にも萎えることなく、快楽だけを追い続ける自分の下肢が恨めしい。
「あ…はぁ…っ、ん…んん…っ」
 下肢を愛撫する手を休めることなく、指でも身体の奥に眠る最も感じるポイントを突き、快楽を煽るだけ煽っておいて、達きそうになると根元を締め付けられ阻まれる。それがどれだけ繰り返されただろう。身体を巡る熱の捌け口が得られずに苦しくなってきた頃、ずるりと唐突に指が出て行った。
 生理的な涙でにじむ視界に、アンジールの顔が映る。相変わらずの無表情だ。
 だが、光を失った瞳に苦悩の色が浮かんでいるような気がするのは何故なのだろうか。
(苦しいのは…俺の…方だって…)
 その目を覗き込もうと身体を起こしかけた途端、強い力で押し戻された。それと同時に秘所に押し当てられた熱にギクリと身体が強張る。これから何をされるのか悟ったザックスは、今度こそ必死に抵抗した。
「む、り…無理だって…っ!」
 今までは、こちらが焦れるほど慎重にゆっくりと慣らした上での挿入しか経験してこなかった。それでも痛みを感じたのだ。充分に潤してもいない今のこの状況では、どうなるかなどと想像もしたくない。
 必死になって身体を押し返そうと突っ張った腕を、ギリと音が出るほど強く握り締められた。
「い、た…っ」
 手首を折られてしまうかと思うほどの痛みに思わず顔を上げれば、先程までの無表情が嘘のように、苦しげな表情を浮かべていた。
「誰にも…渡さない…」
「…え?」
「お前は…俺のものだ…っ」
「ぁ、――――――――― ………っ!!!!!!」
 告げられた言葉と共に、壮絶な痛みが脳天まで駆け抜けていった。だが、声にならない悲鳴と零れる涙の向こうでやっと理解した。
 目の前の存在は、アンジールであってアンジールではないのだと。
『お前は俺のものだ』
 普段のアンジールなら言わない言葉。それ故に、苦しげに吐き出されたそれが本心だとわかる。きっと、ずっと心の奥に封じていたものなのだろう。それが何かがきっかけとなって表に出てきてしまった。
(…馬鹿だよ、アンジール…)
 こんな状態にならないと言えない言葉など、意味がないというのに。
 微かな血の臭いが鼻を突く。
 強引な挿入で襞が切れたのか、それともアンジールの傷口が開いたのか。
 そんなことをぼんやり思いながら、ザックスの意識は徐々に遠のいていった。






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