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戦局は長らく一進一退で、戦火は市街から遠く離れたままだったが…、物価の上昇が少しずつ人々の生活を圧迫しはじめていた。父をはじめ運送にかかわる業者はほとんどが軍に従属させられ、郊外で生産される日配品が中心街に入ってこなくなってしまったのだ。
よって西宮から流入する物資に人々は群がり、時には小規模な暴動が起きた。

母のもつ店もそれを免れず、しばしば襲撃にあい始めた。彼は向かい来る群れにありったけの怒りをぶつけた。大勢に対し大立ち回りを演じるだけの腕力があり、しかも正義はこちらにある。彼は鬱屈した若い情熱を迷いなくその拳に込めた。
縦横に暴れまわり盗人を蹴散らし、いつしか淀川の豹と渾名され、痣も勲章とばかり彼は上機嫌だったが…、母は世相の悪さに流感し人を傷つけはじめた我が子を憂いた。しかし彼がそうしなければ家の者は命の保障がない。たとえ必要悪とて、我が子の悪事に母はどんな思いで目を瞑っただろう。
彼が行いを咎められることは…、母と永遠の別れになるその日まで、ついに一度もないままになってしまった。


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