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山崎浩司は…、大阪の下町に広がる繁華街の一角に生まれ、そこでタコ焼きの煙に囲まれて少年時代を過ごした。
父は留守がちであり、あまり交流の記憶がない。トラック乗りだから仕方がないが、ほとんど家にはいなかった。雑貨店を営む母、歳の離れた弟妹、それに寝込みがちな祖母が彼の同居家族であった。
このような環境から、周りの子供たちに比べれば課せられた家事の量が多く、持てる時間は限られたが…、それでも毎日遅くまで外を駆け回る元気な子供であった。勉強はしなかったが長身で身体能力が高く、気の力の片鱗をすでに見せており、スポーツはとにかく万能で、たまに顔を見る父は、自分の子が将来体操か何かでオリンピックに出ると信じて疑わなかったものだった。
しかし彼が中学に進学した頃、大阪を取り巻く世相が徐々に変わりはじめる。
自然災害によって壊滅状態になった広島を勢力下に吸収した西宮が、わずか数年の間に急成長を遂げたことに、隣接する神戸、大阪は危機感を強めたが…、海運上の要衝を巡る瑣末な利害が外交を失敗に導いた。
特に友好的でもない国同士が手を結ぶのには、地理的にある程度の距離を置いていることが望ましい。しかるに、この二都市は近すぎたのだ。
利害は悉く対立し、関係は険悪になり…、眼前の敵に対して効果的な連携をとることができないままに、流砂へ引きずり込まれるようにして紛争が始まった。
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