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自らを納得させるかのように山崎は、現実離れした考えを、また声に出して否定した。永川はともかく、相棒森野の目的は梵にかかっている賞金だから、戦わなければ始まらないのだ。
これらがすべてが上手く収まる方法など、到底…、
あるにはあるが…、
広島の外まで遠くその名が聞こえるほどのスラィリーマスターを、なるべく生け捕りにしてくれなどとは言うだけ無駄というものだ。
再三になるが、今やまともに通じあえる相手かどうかもわからない。最悪のシナリオは、永川も森野も倒され、意思の疎通もできない状態かもしれない梵だけが残されることだ。
それだけは避けなければならない。
よって手加減できるわけがない。
「まてよ、そもそも僕、まだ何も頼まれてへんし…、とか……、」
だが、きっと頼まれるだろう。永川の頼み事はいつもギリギリなのだ。
山崎は無言になって再び起き上がり、袴についた枯草を払った。そして今来た道を一度は振り返ったが…、まだ、引き返す気にはなれなかった。
この戦いがはじまったら、自分はどこに身を置くべきなのか。置き場があるのか。初めからそんなものは自分にはないのか…。
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