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永川は先に森野に対し漏らしていたように、それを相互依存だと言い批判する。永川がそう言うのは自分のためを思っているからと、勿論山崎自身も知っている。知ったうえでごまかしごまかし、その意見を退け続けているのだ。
山崎の笑顔の裏には、かくも頑固な決意があった。足が悪いとか、それでも日常生活はできるとか、そんな些細なことは問題でない。自分までがこの寂しがりの師匠を置いてどこかへ出ることなど、到底、断じて、考えられない。この人がなくては今の自分はない。家も家族も失い、生活に困窮しきっていた、あのとき前田に出会わなかったら。遠からず、自分も焦土の屑と消えただろう。
年に何度も寄り付かない永川に何がわかるというのか。むしろ永川はもっと理解があって然るべきではないのか…、何せ彼は、既に二十年近くが経ったというのに、実の親に対し、梵倉寺へ里子に出されたことを未だ根に持っているのだ。その負の感情を裏返したと同じぶんだけ、親同然に育ててくれた前田に対する情があってもいいと山崎は考えている。
一方の梵は何か思っているだろうか。
スラィリーに跨って久しい彼は、もう何年も山崎の前に姿を現していない、何かを語ることもない、聞こえてくるのは目撃情報と噂だけ。胸の内を推し量ることは不可能だ。
だが山崎の知る梵は…、いや、かつて梵と関わりのあった誰もがそう思っているだろう。彼は受けた恩や親しい友を忘れるような人間ではなかった。あるいは、人の形をしたままに、中身はスラィリーになってしまったとでもいうのか…、
……。
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