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審査官に会釈をして、サッと足早にゲートを通り抜けると…、蔵本はひとつ長い息をついた。
軽装であったがゆえにボディチェックを受けずに済んだことは幸運だった。そもそも人を探しに来ているだけなのだから疚しいところは何もないが、井端の拳銃を借りてきたことだけは、唯一気懸かりだったのだ。
この銃はそこらに広く流通しているような物ではなく、よって、調べられたら名古屋防衛軍のものだということがわかってしまう。西宮と名古屋はお世辞にも友好的とは言えない関係であるから、あらぬ疑いをかけられたら面倒だ。

しかし、本当に入国審査をやっているとは驚いた。蔵本は無事で済んだが、すぐ後ろの男は何やら揉めている。ポケットを探るフリをして立ち止まり、聞き耳を立てると…、どうやら銃を見咎められたらしい。
広島に持ち込める銃火器の種類には制限が設けられているが、その規定は守られていないに等しい。運悪く同業者に見つかり、スラィリーハンター協会あるいはブローカー業界団体を通して告発されるようなことがなければ、実際に処罰されることはない。
つまり、普段から銃器の類は持ち込まれ放題なのだ。然るに…、今更、なにを警戒しているのだろうか。
立ち止まったまま、蔵本は考えた。――西宮政府はおもてむき昨日からの軍事的緊張を受けて、と言っているが、そんな理由ではあるまい。確かに緊張下には違いないが、仮に文京の動きを牽制したいのなら、こうしてちまちまと個人の持ち物を検査している場合ではないはずだ。
そんなことをしている暇があったら、精々、名古屋の陥落にでも備えたほうがいい。…占領と同時に宣戦布告して、延びきった補給線を断てるように。俺ならそうするね。

つまりは、文京をターゲットにした動きではないのだろう。では何をしたいのか。
…いや。
今は西宮の意図を深読みしているときではなかった。余計なことに首をつっこみたがるのは自身もよくよく承知している蔵本の悪い癖だ。
せっかく怪しまれず通過できたのだから、後はさっさと立ち去るに限る。ただでも時間と闘っているのに、ここで半日も拘束されたらたまったものではない。


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