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「じゃ」

東出は軽く手を挙げる仕草をすると、振り返らずに病室を出て行った。その後に森野、そして永川に目配せしながら貴哉が続く。

「向こうの事情は知ってるんだろ。なんでわざわざ兄さんを怒らせるようなこと」
「……」

薄暗い階段を足早に下りながら貴哉が質問をするが、東出はそれに答えなかった。
そして最後の3段ほどを一気に飛んで降り、1階のロビーへ到着して、長い息をひとつついてから、彼はようやく口をきいた。

「俺はさ、1%の可能性に賭けるみたいなのは嫌いなんだよね」

突然のこの台詞に、貴哉も森野も答えられなかった。しかし東出はそれを気にする様子もなく、ロビーの長椅子に腰掛けると、さらに言葉を続けた。

「梅ちゃんの復活を信じて待つのは別に構わないけどさ。アテにして待つのはどうかと思うわけ。森野さんそう思わないすか?」
「いや…、」

二人が何も言わないので、このままではラチがあかないとでも思ったのだろうか、東出は森野の顔を覗き込むようにして言った。しかし森野には答えようがない。

「俺は事情がわからないから、なんとも」
「は?」

森野の答えに、東出は目を丸くした。信じられないとでも言うように。


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