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そして…、

「…ふー」

どのくらい、そうしていただろうか。

「もう、いいだろ」

吹き荒れる風とひとしきり遊び、精神的な一種の絶頂へと達した後に…、彼は現実へと舞い戻り、薄目を開けて、暴風を止めた。すでに火の手はこの監獄内、あるいは近隣の消防施設の力をもってしてもどうにもならない勢いに達している。後は放っておいても、全て焼け落ちるだろう。
久々に力を使って疲労を感じた帆足は、停電による暗闇の中、迫り来る炎の足音を聞きながら…、壁へ背を預けて廊下へ座り込み、看守の死体から拳銃とともに奪った煙草をふかして、ぼんやりと残された時間を過ごしていた。
すべては完璧だ。これだけ火の回りが速ければ、後から火元はわからない。部屋にも2人分の死体を残してきた。
焼ける前に万が一生き返ってふらふら逃げ回らないように、念を入れて喉をかき切ってある。すべて燃えてしまえば、あたかも壁が崩れる前に、鋼鉄のドアに縋りながら無残に焼死したかのように見えることだろう。

…ま、キッチリ本気で調べられたら、そりゃ、わからんが…、少なくとも数日のうちには、大沼が逃げたとわかるまい。猫が一匹身を隠すには充分すぎる時間のはずだ。
そして、奴はやるだろう。なにせ、自分ひとりのために、ここにいる数百人と…、そして俺を犠牲にした。奴は多分に、それを罪と感じるタチだ。いつか弱気になり使命から逃げようとするとき、その罪が必ず奴を駆り立てる…。


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