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「でも、能力者どうしの喧嘩も、案外普通なもんなんですね」
「当たりめぇだろ」

あきらめて、岸は話題を逸らした。その気になれば鉄筋コンクリートを吹き飛ばすような能力者と、昨日目の当たりにしたばかりのあの一撃で鋼板を引き裂くような能力者が、徒手で殴り合って青アザである。
そのあたりはどうなのか…、ふと気になったので、尋ねてみたのだ。しかしその回答があまりに常識的だったので、岸は思わず拍子抜けした。

「当たり前って、そりゃ、そうですが…、」
「本気でやったら俺が死ぬ」

ごく常識的なその答えに、さらに付け足すように添えられたその理由は、非常にあっさりしたものだった。

「まぁ、あいつもボケっとしてやがるから、5回もやれば1回くらいは、あのぶっとい首を落とせるかも知れんが…、
 とにかく、約束みたいなもんだ。喧嘩に能力を使わない。使えばどうなるかはわかってるからな。実際、俺は昔一回あいつに殺されかけてる」
「ああ、聞いたことがあります。その胸の傷」

ほぼ胸板を覆い尽くす、大きな火傷の跡。それが総帥との喧嘩でついた傷だというのは有名すぎるエピソードだ。岸も随分昔にそう聞いた。
加えて、今の彼らを見ていても、さらに若く血気盛んだったころが果たしてどんな具合だったか、想像に難くない。

「よく知ってんな。俺はこれまで実戦でも、これよりでかい傷を負った事はないね。だが、あんときは別に喧嘩したわけじゃねぇんだ」
「あ、違うんですか」


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