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結局、梵はそれから朝晩、何かしらの食べ物を運んだ。スラィリーというのは賢い生き物だ。二日目の朝にはもう彼の特徴を覚えていて、近づくとピロピロと人懐こく鳴いた。
こうなると人間、悪い気はしないものだ。梵もやはり気分を良くして、スラィリーの子供に名前をつけてやった。その辺りにちょうど群生していた草の名を取って、ヨモギという名を。
梵少年がそこまで考えていたかどうかはわからないが…、それはごく強い生命力をもつ、深緑の薬草の名だ。
三日目には、彼はそっと手を伸ばし、痩せた背中を撫でてやった。ヨモギと名づけられたスラィリーは安心したように鼻を鳴らした、梵の顔に自然と笑みがこぼれた。
幼いながらもすでにみっしりと毛の生え揃った分厚い毛皮は暖かだった。そのまま目を閉じてしまえば、あの危険なスラィリーだということを忘れてしまうほどに、ありふれた感触だった。これを手触りだけで、大型犬と言われれば、誰しも納得するだろう。

そして四日目の朝。梵が朝露の中、いつものように草をかきわけて行くと…、青い毛皮のその姿は、忽然とその場から消えていた。ついに体力を回復したのだろう。
軽いロスト感を味わいながら、しかし梵は自身に言い聞かせた。自分が普段から動物に懐かれやすいことを差し引いても、スラィリーが人に懐くなど、通常ならばありえないことだ。
まして、自分は将来的に、人里に近づいたスラィリーを除かねばならない使命を持っている。仮にそうでなくとも自分たちは人間とスラィリー、これ以上親交を深めてはならなかったのだ、きっとヨモギはそれを悟って、おのずから姿を消したのだろう…。


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