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前日の永川と青木が話していた通り、三人組の未熟なハンターが山へ入り、スラィリーを仕留め損なって一人は殺され一人は重体、
残る一人が興奮したスラィリーに追いたてられてぶどう畑のそばへ転がり出た、というのが昨日の一件のあらましであるが…、実のところ、この騒ぎを梵は、永川よりも先に把握していた。
とは言っても、はじめから一部始終を見ていたわけではない。山裾のあたりを巡る気が乱れているのを鋭く感じ取り、それから急行したのだ。
それなのになぜ放置したかと言えば、自身が干渉するまでもなく事態が沈静化すると思ったからだが…、しかし、そこに誤算が二つあった。
山を下り切るよりも前に手負いのスラィリーが息を切らすか、そうでなければ、こちらも重傷を負ったハンターの残り一人が逃げ切れないと予測して、
そのいずれかの後にスラィリーをなだめすかし、連れ帰ればいいと、初め、梵は考えていた。
しかし、この生死の懸かった鬼ゴッコは実に危ういバランスと勢いを保ったまま継続し…、彼らは遂に人里に飛び出てしまったのだ。まず、これが第一の誤算。そして間もなく軽トラックが到着し、新手が姿を現した。
ここで初めて、梵はこの一件に積極的に干渉しようとした。傷を負ったスラィリーは、大した儲けにならないかわりにさほど手強くなく、つまり高い確率で小金が手に入るため…、比較的経験の浅いハンターに回されやすい。
そういった連中なら、自分のもつ術のいずれかを使って出し抜くことができるだろう、と読んだのだ。しかし、その読みは見事に外れた。よりによって、現れたのは他でもない永川だった…、これが第二の誤算だ。
結果、彼の護るべきだった若い命は失われた。今頃は肉と皮と骨と臓物とその他とに細分され、それぞれバラバラに密封されて、暗く冷たい倉庫の中、出荷を待っていることだろう…。
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